踊る小児科医のblog

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市民公開講座「日本の医療を守りましょう」

2004年11月13日 | こども・小児科
八戸市医師会市民公開講座
日時;平成16年(2004年)11月21日16:00-18:00
場所:八戸市健診センター3階
表題:日本の医療を守りましょう
内容:
1)ビデオ鑑賞
2)講演会
3)討論会
 多くの市民の方の参加をお待ち申し上げます。
なお市民公開講座の前に、第40回八戸医学会が開催されます。
第30回八戸医学会
http://www.orth.or.jp/Isikai/hachinohe/h16/igakukai/index.html
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●「もしも、『混合診療』が解禁になったら…」ビデオ鑑賞
http://www.med.or.jp/kaihoken/video.html
頼近美津子氏のナビゲーターで始まり、約13分間。
もしも混合診療が解禁になった場合の事例が、3つのミニドラマ
 1.お金のあるなしで治療に差がつく
 2.安全性・有効性に疑義が生じることが多い
 3.民間保険での保障が必要となり、結果的にお金の有無に影響される
で収録されています。

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●第30回八戸医学会特別講演
「医師が日本の医療の真実を知らねば国民を守れない」
日本医師会総合政策研究機構研究部長
愛媛大学医学部附属病院医療情報部教授
石原謙

 「日本の医療は、亡国論があるように高価で、医療ミスの頻発が示すとおりレベルが低く、情報も開示せず、効率も悪い」だから「医療レベルを米国並みに上げるために、競争を持ち込み、無駄を省かせよう。株式会社による医療機関経営の方が患者サービスが良くなる」と、一部の企業人が主張し、多くのマスコミもこれに同調しています。

 その論拠の一つに、「高齢米国人の医療への満足度は8割で、日本での同満足度は、3割しか無い。」(内閣府2001年8月調べ:高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果)などの調査結果があります。おそらく皆様もご自身やご家族の体験から日本の医療はこのままではダメだ。とお感じになることもあるでしょう。それでは、本当に日本の医療はお粗末なのでしょうか?そしてそのお粗末は医師や看護師がさぼっているからなのでしょうか?

 実際には今の日本の医療は、制度としては世界的に評価の高いのです。WHOのWorld Health Report 2000では、全世界の191カ国の医療制度を5つの指標から評価し、日本は仏、伊などともに、最高水準の評価を受けています。日本人は欧米諸国の人々の3倍から5倍もの多い回数で医療機関を受診していますが、それでも日本は総医療費のGDP比(国内総生産額の何%かというマクロ指標)が6%という先進国で最も安いのが事実なのです。よく引き合いに出される米国はGDP比14%という高額の医療費を使いながら、37位という厳しい評価がWHOから下されています。民間保険会社の厳しい制約によるお粗末な医療と、その保険にも入れない5千万人の人々の存在がこの評価結果となりました。
 WHOのWorld Health Report 2003では、なんと巻頭の概要Overviewから、日本の医療の元に生まれた女性の幸いを最高の例として言祝いでいます。

 WHOのレポートが指摘するように、利潤追求を至上命題とする民間医療保険会社が主導権を握ると、公的医療は崩壊します。公的医療がお粗末であればあるほど民間医療保険はよく売れますので、販売会社は公的医療保険制度に様々な圧力をかけるわけです。医療関係者の間で話題になっている映画「ジョンQ」は、民間医療保険の問題点をよく分かる形で、しかも感動的に表現しております。機会があれば、ぜひ御覧ください。

 さて、日本の医療制度が素晴らしいと申し上げても、実際には医療機関で待たされたり、入院しても総室に入れられて不愉快な思いをしたりした方々は、「日本の医療が素晴らしいなどとは思えない。治療をする現場の環境が自宅以下ではおかしい。」とお感じになるかもしれません。残念ながら、日本の医療機関での治療環境が多くのご自宅と比べて必ずしもよくないのは事実です。それはなぜでしょう。実は欧米と比べてベッドあたりの医師や看護師の人数が著しく少ないので手が回らないのです。要は診療にコストをかけられない医療保険制度なのです。

 それは、誰しも一度は必ずお世話になる出産にかかる費用を日米比較すると一目瞭然です。日本では全国どこでもおよそ30万円から40万円程度の費用で、約1週間の入院ですね。一日あたり、約5万円で母児ともに、検査から治療まで保障され、3度の食事まで上げ膳下げ膳で運ばれ、医師と看護師のケアが24時間ついております。シティホテルの室料やサービスと比べてこれで高いでしょうか?一方、米国では一泊二日か二泊三日での出産が普通ですが、まともな医療機関では約150万円から200万円の支払いが相場です。一日当たり、控えめに見積もっても50万円になります。米国では、医師も看護師も日本の数倍の頻度と滞在時間でケアのためにベッドサイドに訪れてくれます。説明の時間も長いことも確かです。無痛分娩は言うに及ばず、本当に患者の希望をほとんど何でも聞いてくれます。それに引き替え、日本での医療機関では患者様に我慢を強いることの多いこと、、、 実は医師も我慢の限界に達しています。一人一人の患者様に充分な時間をかけ診療ができる米国の医師が羨ましい、と思う日本の医師は私だけではありません。多くの現場の医師が皆様方の想像を絶する緊張下での長時間労働に耐えています。このままでは過労死だ、と感じている医師やご家族が大半でしょう。

 さて、この両国を比較して、皆さんは、どうお感じになりますか?日本の医療へのご不満は、行きすぎたコスト抑制のために医療スタッフの手間と時間をかけられない現状をご理解いただけたでしょうか。詳しくは記しませんが、日米の出産時の品質の指標である周産期死亡率などは、日本の方が米国の倍近く良いデータであることをお伝えしておきたいと思います。

 日本は何よりの証拠に、世界一の長寿と健康余命を確保しています。我が国の医療は国際的に誇れる希有な制度を確立しているのです。一方、日本の企業に君臨してきた銀行は、国際的な格付け機構によると、ほとんどが最低のEランク(外部の支援を必要とする状況との認定)、やDランクです。他の民間企業も国際標準である連結企業会計や時価会計制度への対応に四苦八苦していらっしゃるようで、決して国際競争力が高いという国際評価はありません。このような状況のなかで、我が国の医療のみは、WHOから素晴らしい高評価を得ているのです。

 世界的にみて異常とも言われる日本の医療費の過度な抑制政策は、しばしば日本政府の予算が無いからだ、と貧乏日本を根拠に説明されます。しかし、これは諸外国と比べるととんでもない大嘘です。日本政府は高齢者もすべて含めた医療のために毎年およそ10兆円を出していますが、公共事業には50兆円とも70兆円ともいわれる巨額を毎年毎年支出しています。医療費のGDP比は先進国中最低ですが、公共事業のGDP比はダントツに先進国中最高です。なんと、先進7カ国G7の日本以外の全ての国の公共事業費の合計よりも、日本一国での公共事業費の方が多いのです。

 公共事業に関した職種の方々も大勢いらっしゃることでしょうから、申し上げにくいのですが、政府予算の中でこのように異常な高い割合を占めている公共事業を1割削減するだけで、今、議論されている医療や年金の問題など雲散霧消するほどの巨額です。既に経済学者の研究から、医療福祉への投資は公共事業への投資と同等かそれ以上の経済波及効果と雇用創出効果があることも指摘されています。

 株式会社による医療機関経営についても一言申し上げておきたいと思います。「株式会社による経営の方が患者サービスが良くなる。だから株式会社に医療機関を経営させろ。」と主張する方々やそれに賛同する方々がいらっしゃいますが、それは将来大変困ったことになる間違いです。そう主張される方が、自らの経営する球団の利益のために、実に不透明で中世のギルドのような行動に走ったことは記憶に新しいところです。行動と言説の乖離は詐欺師のすることではないでしょうか。要注意です。

 株式会社組織での医療機関経営の方が本当に良い、と信じるならば、既存の医療機関のトップに経営形態を株式会社に変更せよと指示すれば済む話です。そうではなく、「医師免許を持たない経営者」が病院を運営したいとおっしゃっているのが、いわゆる「株式会社参入」問題です。ここで「株式会社参入」という言葉に騙されてはなりません、その主張の本質は「医師免許無しで病院経営をしたい」という「医師免許の問題」なのです。日本の医療は巷間の誤解とは異なり、民間組織主体の完全な自由競争で、医学部への入学の段階から全く何の制約もありません。すでに大学を卒業している方なら、学士入学制度を利用して、わずか四年間で医師免許を取得できます。にもかかわらず、医師免許を取るのが大変だから無免許で医療機関を経営させろ、というのでは医療の質やサービス以前の問題であり、何をか言わんや、ではないでしょうか。

 混合診療の問題もよく考えると全く単純な話しです。大方の方々が望む医療は公的保険医療に速やかに組み込む制度と運用をすれば、全ての国民が等しく安心できます。先進医療の導入についても医学的にコンセンサスの取れているものに限れば、国民医療費を脅かすような金額にはなりません。むしろ、国民医療費を脅かす原因は他にいくつもあることを皆様方はよくご存じと思います。混合診療の問題は既に10年以上も前から二木立先生が随所で実に明瞭に指摘しておられるところでもあります。

 健康な人々は、公平な社会において健全な経済活動の中で存分に競争をすればよいでしょう。しかし、病気になった方々や、もともとハンディキャップのある方々に対しては、安心して治療や介護を受けることに専念できる社会の仕組みを作ることこそが、国家や政府の役割ではないでしょうか。そしてその財源や国家体力は充分に日本にあるのです。これからの日本の進むべき道はどちらでしょう。

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