踊る小児科医のblog

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悲惨な犯罪を防ぐことと小泉“所得格差拡大”改革

2005年12月03日 | こども・小児科
今回の広島と栃木・茨城の悲惨な事件については筆舌に尽くしがたく、亡くなられた被害者の女の子のご冥福を祈るという言葉さえ書くのが憚られてしまいます。犯人の一刻も早い検挙と再発防止策の徹底についてはここで改めて議論するまでもありません。

ところで、小泉首相がこのニュースを聞いて「何とむごい…」という言葉を発せられたとの報道があったようです。確かにむごい。親にとってこれ以上の悲しみはありません。それは間違いないし全く問題のない発言です。

しかし、別の視点に立てば、小泉首相のすすめている“諸改革”で、(比喩的表現ではなく)現実に命を失っている人が増えているし、これから更に増加していくことは間違いない。“医療改革”なるものの実態は、単なる国民の負担増に過ぎず、確実に低所得者や高齢者の受診抑制が起こり、そのために死ななくても済んだはずの命が失われていくことになります。
これは、断言してもいい、疑いようのない事実です。
「小泉首相に殺される」と言っても過言ではありません。
それは「むごい」ことではないのか…。

医療改革についてはもう一度あらためて書きたいと思いますが、犯罪についてはすでに明らかなデータは出ています。これは直感的にも理解できることですが、所得格差が拡大すれば、犯罪発生率は高くなる。医療についても同じで、所得が低いほど要介護率が高い。

「アメリカ50州における所得格差と殺人発生率」(近藤克則:健康格差社会.月刊保団連2005.11)のグラフをみてみます。(スミマセン、ネット上で同じものを探せなかったので文章で説明しますが)
 横軸に所得格差(下位50%の世帯所得が全世帯の所得に占める割合)をとって、
  左(数字が小さい)ほど所得格差大
  右(数字が大きい)ほど所得格差小
 縦軸に殺人発生率(人口10万対)をとると、
見事なまでに、左上(所得格差大で殺人発生率高い)から右下(所得格差小で殺人発生率低い)に向けて州が並んでいます。左上の方から順に拾っていくとルイジアナ、ミシシッピ、ニューヨーク、アラバマ、テキサス、テネシーといった順になり、逆に右下の方からみていくと、メーン、アイオワ、ネブラスカ、アイダホ、ミネソタ、ハワイ、ユタといった州が並びます。

左上の“所得格差大で殺人発生率高い(ブッシュ大統領の支持基盤でもある)州”が、今年のハリケーン・カトリーナによる「二次被害」で大きな問題となり、大統領支持率低下の原因となったことは記憶に新しいところですが、そのニュースが駆けめぐっていたまさにその時に、ブッシュ=アメリカ型の所得格差拡大社会を目指す小泉政権が圧勝したわけで、医療改革の行く末も残念ながらこの国の「国民が選んだ選択」と言わざるを得ません。

そして、これからの話ではなく、日本はすでに所得格差拡大社会になっているということも各所で指摘されています。手元の資料に、所得格差をあらわす指標として【上位2割の最高所得層と下位2割の最低所得層の所得総額の比率】を示したグラフがありますが、この格差が1960年代から80年代前半まで10倍前後だったものが、90年代には30倍前後まで上がり、1997年から急上昇して2000年には100倍を越え、小泉首相就任後1年たった2002年には168倍にまで達しているのです。(このグラフや最新データも探せてません)

今回の犯罪に戻ると、片やペルー人、片や犯人未検挙の状態であり、一つ一つの事件は当然のことながら犯人が悪く、それぞれについて小泉首相の責を問うことはできませんが、社会全体というマクロの視点でみていけば、安全神話の崩壊と所得格差の拡大は密接な関連があるということも明白な事実なのです。