※本記事は書き手のストレス解消を目的とした、どうでもいい中身の特ヲタの書きなぐりとなっています
「ゴジラVSキングギドラ」は特撮ヲタである筆者の中でもお気に入りの逸品。これに関してはディアゴスティーニの東宝怪獣コレクションのメカキングギドラが完成してから同作について語ろうと思っていたんだけど、BS松竹東急で15日に放送するっていうから前倒しすることにした。14日からVSシリーズ一気に六作特集上映だそうで、なんで松竹なのに東宝のゴジラやんの? とは思いますが、まぁ最後っ屁で少し派手にやりたいってところなのかなぁ。少なくとも現在の形態の「BS松竹東急」はもうすぐ終わるわけだし。
「ゴジラVSキングギドラ」の何がすごいと言えば、やはりクライマックスの新宿決戦の特撮にある。ある意味、それまでやることを憚れたことをみんなやってしまっている、かなり無茶をやっているシーンなのである。まず、決戦が昼間の市街地であること。ウルトラシリーズのようにただビルを並べただけの昼間市街地ならともかく、怪獣映画での派手に壊すことを前提とした市街地決戦、それもある程度実際の街並みを忠実に再現しての戦いは基本夜間に限られる。夜間ならライティングを絞ることができてある程度ごまかしが効くからだ。過去の円谷英二率いる過去の特撮チームですら、昼間の市街地決戦は「空の大怪獣ラドン」くらいしかやっていない。しかも「ラドン」はどちらかと言うとカットごとの再現度を重視した作りになっているのであまり大きなセットを作ったわけではない。一方「VSキングギドラ」は新宿都庁を中心に、特撮演出を優先したためか必ずしも忠実再現ではないにしても、非常に作りこまれた超巨大セットを組んでの昼間決戦にしてしまった。それゆえに特撮スタッフの労力はすさまじいものがあったろう。しかも昼間だから当然大量の光量が必要となる。この少し後の時代になるとそういう大量光量の必要なシーンはオープンセットにして太陽の自然光を頼りにするやり方が流行るが、本作の敵はキングギドラ。それもメカキングギドラであり、重量はスーツだけで200kgオーバー! あまりの重量ゆえに人が入ることを断念し、ワイヤーによる釣りだけで支え、操演のみで演出を付けることになったほどの質量の塊だ。三つの首と二つの尾を持ち、通常の状態でも多数のワイヤーを必要とするキングギドラだというのに重量まで支えるとなったら、それこそオープンセットなんて無理、十分な装置が用意されている撮影専用スタジオを使わないと撮影は不可能だから、昼間の再現のためには大量のライトを使うしかない。電力の消費、スタジオ内にこもる熱量・・・それだけでも相当なものがあったろう。同時期に撮影していた他の映画の撮影にも影響を与えた可能性も高そうだ。
さらに用意したものが新宿都庁。こいつをなんとかスタジオ内で再現するため、ゴジラを巨大化させて縮小割合を大きくしてまでして作り上げることになったが、それでもゴジラの二倍を超える圧倒的高さになる。当然ながら怪獣同士の戦いになるためぶっ壊すことを前提としており、ちょっとした手違いで崩れる危険性がある。なのにメカキングギドラはともかくゴジラは人が入るスーツ形式でその巨大ビル群のど真ん中に配置されるのだ。怪獣スーツに入ったら前が少し見えるだけ。本セットは地面もちゃんと細かく作られており、ゴジラが踏みつけたことでヒビだらけガレキだらけの状態を再現しており、非常に悪い足場となっている。万が一にもよろけたら、万が一にも余計な振動がビルに伝わったら・・・。重い怪獣スーツに入って素早く動くことはおろか、危険を察知することもできない状態の演者、薩摩剣八郎の頭めがけて崩れたビルが降ってくることになるのだ。想像するに危険極まりない状態で撮影は行われたことになる。もちろんそうした事故が起こらず、予定通り撮影は行われたとしてもあちこちに仕掛けられ火薬がガンガン爆発するのだ。よく無事だったと思う。「怪獣映画なんて人間が中に入ってるんだろ」と揶揄されることがあるが、そう思ってみた方が迫力を感じてしまう映画は本作「ゴジラVSキングギドラ」と「ゴジラVSデストロイア」くらいなもんだと思う。ひょっとしたら本作の特技監督である川北紘一氏は、スーツに入った人が怪獣を演じているのではなく、不死身の怪獣ゴジラそのものが目の前にいる、と思って演出をしていたのかも知れない。
しかもそのゴジラの相手は先にも書いた重い重いメカキングギドラである。さすがにある程度距離を空けての熱線の打ち合いという演出が中心になったが、それも戦いの前半。後半はキッチリ接近戦もやっている。なんとメカキングギドラを釣ったものがゴジラの頭の上までやってくる! 想像してみよう、200Kgオーバーの質量がワイヤーで釣られただけで自分の頭の上にぶつかるように迫ってくる恐怖を! さすがに足場の悪いセットの中ではやってないだろうし、対するゴジラも下半身をカットした本来海で使う半身スーツを使っているとは思うけど、それでも命がけだ。
ちょっと注目してほしいのが次のシーン。その直後、メカキングギドラが落下しながらゴジラに体当たりして諸共都庁ビルに突っ込むが、その際にゴジラの左手が動いている。一度メカキングギドラから離れた腕が再び触れるように動き、その際に指までもぞっと動いている。いくら川北特技監督の演出が鬼だったとしてもこのシーンでのゴジラに人は入っていないだろうから、それ以外の要因で動いたことになる。偶然の産物か、はたまたそういう仕掛けが施されていたのかは不明。仮に仕掛けだったとしても、「うまくいけばいいな」くらいのお祈り仕掛けだったろう。この時のメカキングギドラとゴジラを両方釣るという総計三百キロ?にもおよぶ総重量ゆえに撮影前にワイヤーが切れてしまい、本番前に一度都庁ビルが壊れてしまうという失敗があったと言われている。それゆえわざわざ壊れた状態でのビルを修理してから撮影しているので、これ以上の失敗は許されない。あまり凝った仕掛けもほどこせなかったはず。ゆえに本番でゴジラの腕が動いて、あたかも衝撃の苦しさゆえにメカキングギドラを突飛ばそうとしたが何もできない、という風に見えるシーンになったのはどっちにしても偶然の要素が大きい。わたしは何度見てもゾクリとする。ゴジラが撮影スタッフの思いに応えたかのようだ。
「ゴジラVSキングギドラ」のLDソフトには映画公開前に松下(パナソニック)のどこかのショールームように特別編集された未完成映像を使ったPVが収録されていた。まだBGMもつかず、テスト段階のような光学合成と効果音がつけられただけのもので、画質もVHSかなんかのダビングだったらしくて良くない。にも拘わらず、本編以上の異様な迫力に満ちていた。十分な加工の無い生に近い映像が撮影の空気感を残していたのだろうか。現在のBD版には収録されていないのが残念。早く完全版を出してほしい。
BGMの無い未完成映像が本編以上の迫力と書いてはいるが、本作の音楽は当時久々の登板となった伊福部昭によるもので、個人的感想としては歴代最高と思っている。特に決戦シーンに使われた「キングコング対ゴジラ」用の曲をアレンジしたものは、最強怪獣同士の激突にはこれ以上の楽曲など存在しないのではないか、と思える血沸き肉躍るものだ。
新宿決戦は特撮の撮影としては最初に行われた。これは時間的余力のあるうちに一番の見せ場を撮影しておこう、という意欲によるものだそうだ。ただ、時間はもちろんおそらく予算もここにつぎ込んだがゆえか、他のシーンはそのしわ寄せが感じられてしまう。まだメカ化していないキングギドラとゴジラの戦いは何もない原野での、ちょっとチャンピオン祭りを思わせるような予算削減が感じられる戦いになっている。札幌のゴジラ襲来にしても福岡のキングギドラ襲来にしても煽りの画を使うことでごまかしてはいるが、新宿と比べると明らかに地面の造形がなっていない。キングギドラ単体による日本攻撃は、実景に爆破を合成しただけのものが連続するちょっと情けない画が続く。キングギドラ単独シーンは先にも書いた「空の大怪獣ラドン」の演出を模したものになっているだけに、予算を使い切った感が目立ってしまう。あくまで聞いた話だが、前作「ゴジラVSビオランテ」が期待ほどの興行収入が得られなかったため、「ゴジラVSキングギドラ」の直接製作費は削減されたらしい・・・だとすると予算削減シーンが続くのも仕方ないか。一点豪華主義とまんべんなくごまかすのとどちらがいいか、は意見の分かれるところだろうし。どっちにしても、川北監督は予算の管理はあまりうまくなかったのかも知れない。もっとも、予算でキリキリしていたらいい画なんて作れないだろうけど。
「VSキングギドラ」は「VSビオランテ」と間を二年明けて作られた。が、次作「VSモスラ」以降は毎年一本以上特撮怪獣映画を作る年が続いた。ある程度収入を見込めるからというのもあるだろうが、ひょっとしたら川北特技監督に「VSキングギドラ」のような無茶な特撮プランを考えさせる時間を与えないためだったのではないか、などと思うこともある。