シルクスクリーンの版画家・代情房子さんは2005年から2008年にかけて、中国思想の四神と西洋の黄道十二宮を融合した作品を制作しました。今日は四神シリーズの全作品とご自身の解説を紹介いたします。
代情房子さんのページ
代情房子アートギャラリー
Silkscreen Prints by F.Yose
はじめに私から簡単に黄道十二宮と四神について、
※雑誌などに掲載されている星座占いは、古代メソポタミア文明を起源とする黄道12宮をもとにしたものです。(詳しくは代情房子さんの解説をお読みください)
※四神は中国思想が由来となり朝鮮・日本に強く影響を与えた四方を守る神獣です。
方位だけでなく季節や象徴の色があります。
青竜:春:東:青
朱雀:夏:南:赤(朱)
白虎:秋:西:白
玄武:冬:北:黒(玄)
古代日本の人々は四神を信じていました。平城京・平安京の朱雀大路や朱雀門、また、高松塚古墳やキトラ古墳の四方の壁に四神が描かれていました。さらに、薬師寺金堂薬師如来の台座の四方に四神が彫られています。
四神の出典
禮記(中国の周王朝の制度を記しています)
行前朱雀而後玄武左青龍而右白虎(禮記、曲禮)
君子が戦う時に護衛の者が君主の前に朱雀の旗、
後に玄武の旗、
左に青龍の旗、
右に白虎の旗を
掲げて行軍した。
代情房子さんの四神シリーズを制作年代順に紹介します。(代情さんのHP:Silkscreen Prints by F.Yoseから転載を快諾していただきました)
代情房子さんと私は「FAUSTを読み直す」という勉強会で知り合いました。この会は3年間ほど中野区立宮園会館(東中野)で森鴎外訳、一部富永半次郎訳の『FAUST』を役割分担により読みました。その後、1年ほどお休みをしたあと神奈川県の東神奈川にある地域センターで『ゲーテを学ぶ会』として、ゲーテの書簡集などから『FAUST』創作にあたってのゲーテの心の変化について勉強しています。
尚、『ゲーテを学ぶ会』は毎月第2又は第3水曜日 東神奈川の地域センターにて午後6時からおこなっています。
<四神の風>
(100×74cm) 2005年作
85回朱葉会記念展
第5回Ecology Earth Art(埼玉県立近代美術館)
アート・マインド掲載
2008年京都・パリ友情盟約締結50周年記念展 受賞
昨年チェコのプラハで、天動説に基づいて造られたという見事な大時計に出会いました。その時計は単に時刻を告げるだけでなく、太陽や月の運行も示すプラネタリウムだという解説に興味を覚え、よく見ると確かに黄道十二宮が文字盤の上に有りましたので、帰国後その歴史を辿ると、ギリシャ、エジプトを経て古代バビロニアの天文学に行き着きました。その一方で古代中国の天文学は、朝鮮を経て日本にも伝わり、高松塚古墳やキトラ古墳の天井画・天文図(黄道、28の星座など)を生み出している事を知り、非常に驚きました。キトラ古墳の天文図は東アジアで現存する最古のものとの事です。
キトラ古墳には、この天文図のほかに十二支、四神も描かれていますが、その四神が20世紀の空気に触れた為に、劣化が始まり、如何に保全するかという問題が起きました。新聞の記事をルーペで丹念に見ますと、四神の表情、肢体のうねり、緊張した足や爪の描写が実に素晴らしく、東アジアの貴重な文化遺産であるこれら四神をカビの餌食にして滅びさせてはいけないと思い、僭越この上ないのですが、せめて私の拙い絵の中に、そのお姿を留めおこうと、21世紀の港横浜の東西南北の守り神として登場して頂きました。
日没直後のビル群の上空に西の守護神・白虎が現れ、海から昇った赤みを帯びた月を背に南の守護神・朱雀が現れ、ベイブリッジ,つばさ橋がライトアップされた港湾に東の守護神・青龍と北の守護神・玄武が現れ、横浜の長久と無事を祈って風を巻き起こてしいますが、その風は、"寿"と云う字の篆書という古い字体が風のようになびいているものです。
この絵には、異なる三種の時間帯、即ち横浜の日没後から夜更けにかけての時の流れ、キトラ古墳から21世紀にかけての日本の時の流れ、それらを包含する大宇宙の悠久の時の流れの三種が組み込まれています。この絵が、その重層する時間帯の中で、人の営みの何たるかを考える便(よすが)になれば幸いと思います。
<朱雀の風 1>
(65×50cm) 2005年作
2005年朱葉会秋季展
2006年第十一回OASIS展、2006年ル・サロン展、
2007年Ecology Earth Art(埼玉県立近代美術館),
2007年MINERVA展(ランドマークホール)
「ART MAISON Vol.11」収録
キトラ古墳は、日本の古代、7世紀末から8世紀初めくらいの間に築かれたらしいと云われていますが、その内室の東西南北の壁には、夫々の方位の守護神、即ち東の青龍、西の白虎、南の朱雀、北の玄武という四獣神が描かれ、天井には赤道、黄道、内規,外規の四つの円と、多くの星座からなる天文図が描かれています。
これら四獣神と天文図は、中国、高句麗にも見られ、アジア大陸の東部の古代の宇宙観が日本にも伝わっていたことが分かります。ところがその貴重な文化遺産が描かれている古墳の壁にカビがはえ、壁画の保存に関して、難問が生じています。
そこで、東アジアの古代の宇宙観という文化を後世に伝えようと、21世紀の現代都市・横浜の南の海上に、南の守護神・朱雀を描きました。
因みに、朱雀が飛んでいる下に描かれた円弧は、西洋の古代の宇宙観を表す黄道十二宮です。私達が自らの生命を委ねる地球号は、今も昔と変わらず、太陽の恵みの基に活かされているのですから、東洋と西洋の古代の宇宙観を融合させることで、世界は一つ、是非世界平和をという私の願いを表しています。
海の幸に感謝しながら、世界に門戸を開き、全世界の平和を求める横浜に、朱雀が”寿”(漢字の古い字体・篆書体)の風を送っています。
<青龍の風 1>
(65×50cm) 2006年作
2006年86回朱葉会展
2007年SIRIUS展(東京芸術劇場)
2008年ル・サロン展、2008年日仏協同展(大阪、パリ)
「ART MAISON Vol.12」収録
古代中国の天文学者は太陽の通り道・黄道の周りに28の星座を思い描き、それらを四等分した7つづつの星座を東西南北の守護神、青龍、白虎、朱雀、玄武が守り治めていると云う宇宙観(四神説)を持っていました。
青龍の下に描かれている円弧は、黄道十二宮で、古代バビロニアから古代エジプト、古代ギリシャを経て欧州に伝わった西方の宇宙観です。
私達が自らの生命を委ねる地球号は、今も昔と変わらず、太陽の恵みのもとに活かされているのですから、古代の東洋と西洋の宇宙観、四神説と黄道十二宮を融合させた空間を作り、世界は一つという世界平和への私の願いを先ず表明しました。
さて今回の舞台は、私が18歳まで暮らした飛騨高山の山王祭りです。
飛騨高山市の東には乗鞍、焼岳、穂高、槍などの峯峯が聳え立ち、霊気を放っています。その霊気に包まれて飛騨人たちは育まれ、大地の恵みに感謝しながら暮らすのですが、その有り難さを、今回はその霊気の中から東の守護神・青龍が現れ、飛騨高山の春祭りに”寿”の風(金色に光ってたなびく風は全て寿という字の篆書体)を吹き送っている図で表現してみました。
真ん中の屋台はかの有名な龍神台(絡繰り人形の唐子が持って出た壷の中から龍神が飛び出す)です。青龍との関係で取り上げてみました。
世界の皆さんに平和と幸せが訪れますように!そして生命体の母船・地球号がいつまでも無事でありますように!
<白虎の風 II>
(65×50cm) 2007年作
2007年朱葉会夏季選抜展
2008年Ecology Earth Art(埼玉県立近代美術館)
東洋と西洋の古代の宇宙観、四神説と黄道十二宮とを融合させた空間で、世界は一つという世界平和への私の願いを表明していることは「青龍の風」と同じですが、今回の舞台は、私が学生時代を過ごした奈良です。そこでは、偉大な足跡を残した古今東西の先輩たちに、想念の世界、または現実の世界で多くのことを教えて頂きました。
そこで、私達の世代も、美しい地球を次世代に引き渡すため、環境の保全に努め、最大の環境破壊をもたらす戦争を無くさなければと諸々の活動を続けているところです。
生命体の母船・地球号の幸せを祈って、太陽を背に佇む薬師寺の塔の上空に西の守護神・白虎が現れ、”寿”の風を送っている様子を表現してみました。
生命を育む青い星・地球号を人間自身の手で損なうことが無いように祈ります。
<玄武の風>
2008年 第78回朱葉会展
2008年 美術評論とともに観る美術展
「青龍の風」、「朱雀の風」、「白虎の風」を制作し、東洋と西洋の宇宙観,四神説と黄道十二宮とを融合させ,世界平和への願いを表明して来ましたが,今回は四神シリーズの仕上げとして、北の守護神 を取り上げ、「玄武の風」を制作しました。
日本の中世には、既に優れた抽象芸術・枯山水の庭が造られています。掃き目の付いた砂で大海原を、数個の岩で,神仙が住むという理想郷・鳳来山が有ると云われる”亀”の形をした島を表現した庭です。
一方で,北の守護神・玄武は、蛇が巻き付いた黒色の”亀”と云われていますから、この想念の中での理想郷・枯山水の上空にこそ玄武をとイメージが湧き上がって来ました。
南の朱雀が夏,東の青龍が春、西の白虎が秋ですから,玄武の季節は冬です。したがって雪景色の枯山水の上空に黄道十二宮がかかり、そこに玄武が現れて、”寿”の風を送っている図となりました。
我々生命体の母船・地球号の環境が著しく損なわれ、世界のあちこちで紛争が絶えない今日,世界の平和と,世界の人々の幸せを心から願わずにはいられません。
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