精神世界(アセンションについて)

このブログの内容は、色々なところから集めたもので、わたくしのメモであって、何度も読み返して見る為のものです。

ガイアに魅せられて  4

2008年01月27日 | Weblog
〇病院の庭園

  大きなドーム型の温室のような庭園。
  いたるところに樹が茂り、花が咲き乱れている。
  小鳥のさえずりや水のせせらぎの音。
  患者たちの笑い声、歌声が楽しそうに響き渡る。
  庭園の中をゆっくり散歩するヒデトと恵菜。

恵菜「思ったより背が高いのね。かっこいいじゃん。でも、もう少し日焼けしなくっちゃ」

  ヒデト少し照れている。

恵菜「この病院はね――。少し変わってるでしょ?」

ヒデト「はい」

恵菜「実は、癒しの場をとても大切にしているのよ」

ヒデト「癒し?」

恵菜「ホリスティック医学って聞いたことない?」

  ヒデトは首を横に振った。

恵菜「この病院では、西洋医学と併用して、代替医療に力を入れているの」

ヒデト「代替医療?」

恵菜「そう、医師や看護師はもちろん、心理療法士。鍼灸師、気功師、アロマセラピスト――。みんなで癒しの場を作っているの」

  患者たちの歌声が流れる。

恵菜「ここでは、身体性の病気を『治す』だけでなく、精神性の病気を『癒す』ために、あらゆる療法を実践しているのよ」

  ヒデト、答える代わりに、立ち止まって深呼吸した。
  ずいぶん顔色が良くなっている。

恵菜「中でも、大野先生は、『音楽を聴く、歌う』、『笑う』ことに力を注いでいるの。音楽と笑いは、病人の免疫力を高め、命のエネルギーを高めるそうよ」

  恵菜も気持ち良さそうに深呼吸した。

ヒデト「毎日、ここで歌っているんですか?」

恵菜「歌の集いは毎週土曜日だけ。患者さんが自然に集まるようになったの。ふだんはヒーリング音楽が流れているわ。そうそう、お笑いのタレントさんが、ボランティアで訪れることもあるのよ」

ヒデト「お笑いですか?」

  不思議そうに尋ねるヒデト。

恵菜「笑いは効果抜群なの。よく笑ったあとの患者さんはいろんな数値が良くなっているのよ。ホント、不思議なんだけど」

ヒデト「それにしても、この庭の樹や花は勢いがあって、みずみずしく見えるなあ」

恵菜「なかなか鋭いわね、ヒデト。なぜだと思う?」

ヒデト「さあ? もしかしたら――音楽のせい?」

  ヒデトはジョークのつもりで言った。
  
  恵菜はちょっと驚いた顔をして、
恵菜「ピンポーン。当たり! 植物もいい音楽を聴くと、よく育つんだって。科学的にも実証されているのよ」

  適当に言ったのが当たって、ヒデトは決まり悪そうにしている。
  少し照れながら、話題を変えた。

ヒデト「それに、ここはまるで『オアシス』みたいだ」

恵菜「あら?」また恵菜の驚いた顔。
  「そうなのよ。ここはみんなに『オアシス』って呼ばれているの」


〇庭園の中ほど

  患者たちが集まっている。
  老若男女合わせて20人くらい。
  めいめい籐の椅子や曲げ木の椅子に腰掛けている。
  車椅子の人もいた。

おばあさん「こっちへいらっしゃいな。一緒に歌いましょう」

  車椅子のおばあさんが、二人に手招きしている。

恵菜「みなさん、紹介します。ヒデトさんです。よろしくね」

ヒデト「ヒデトと言います。よろしくお願いします」

  ヒデトはペコリと頭を下げた。

みんな「よろしく!」

患者1「さあ、一緒に歌いましょう」

患者2「仲良くしましょうね」

  あちこちから温かい声がかけられた。ヒデトの何ともいえない顔。安らぎを感じているようだった。

おじいさん「おお、ヒデトか。いい子だ、こっちにおいで」

  一人のおじいさんが手を振りながら、切り株の椅子をヒデトにすすめた。
  おじいさんは少し認知症がすすんでいるように見える。
  ヒデトははにかみながら、おじいさんの隣に腰掛けた。

おじいさん「いい子だ、いい子だ。かわいそうにのう。もう、だいじょうぶだよ、安心したらええ」

  隣で先ほどのおばあさんも一緒になって頷いている。
  おじいさんはヒデトの頭から肩にかけて、そして背中を優しくさすり続けた。
  ヒデトはなされるがままにしていた。
  おじいさんの手の温もりに優しさを感じ、思わず涙がこぼれそうになった。

  男の子の姿。かなり痩せこけている。
  その男の子が急に立ち上がり歌い出す。

  ♪ぼくらはみんな生きている 生きているから歌うんだ~

  男の子は力いっぱい歌っている。

  ♪手のひらを太陽に~
   かざしてごらん~ 真っ赤に流れる ぼくの血潮~

  みんなは一緒に歌いながら、いっせいに手のひらを空にかざした。
  たくさんの手は波のように左右に揺れて、ゆっくりリズムをとっている。
  ヒデトもつられて、両手をぎこちなく掲げた。そして、歌った。
  恵菜はそんなヒデトの様子を見てクスッと笑った。

  
  大きな樹の陰から、洋介がみんなに声をかけた。

洋介「みなさん、残念ながら、今日は愛子さんはお休みです」

患者1「ええ~!? 残念」

患者2「どうして?」

  みんな口々にそう言いながら、顔を見合わせた。

洋介「お母さんのコンサートに出演することになったそうです。彼女も残念そうにしていました」

  洋介はみんなに「まあまあ」と言うように、手で制しながら続けた。

洋介「でも、来週はきっと来ますから、よろしく伝えてくださいと言ってました」

おばあさん「愛子さんの歌を聴くのを楽しみにしていたのに」

男の子「エヴァに会えないの?」

  男の子のつまらなさそうな顔。

洋介「その代わりと言っては何ですが」

  洋介はラジカセをみんなの前に置いた。

洋介「愛子さんの歌をアレンジして曲を作りました。まだ未完成なんですが、聴いてもらえますか?」

患者3「まあ素敵!」

患者4それはいい!」

患者5「どんな曲かしら?」

  みんなはラジカセをまぶしそうに見つめている。

  
  ラジカセから響くシンセサイダーの音。サラサラ流れる水の音。
  小鳥のさえずり。空を舞う風の音――。
  いつもオアシスに流れている音楽とよく似ていた。
  いや、もっとダイナミックな感じもした。
  ヒデトはすっかり、この不思議な音楽に心を奪われていた。それは深遠な音の世界だった。

  みんなは頷きあいながら、拍手をしている。

患者2「心が洗われるようだ」

中年の痩せた女性「ほんと、(ハンカチで目頭を押さえながら)いい音楽をありがとう」

学者ふうの男性「未完成だなんて、とんでもない。素晴らしかったよ」

  初老の男性だった。額に神経質そうなしわが刻まれている。彼は目尻にもしわを寄せながら大きな拍手をした。
  
  それにつられて、また、みんなの大きな拍手。

  キーンコーンカーン――。
  澄んだチャイムの音。夕食の合図。

患者3「ありがとうございました」

おじいさん「ありがとう、いい曲だった」

おばあさん「また、来週ね。楽しみにしているわ」

  車椅子を押す人。そっとお年寄りの背中を抱きかかえながら歩く人。頬を紅潮させ嬉しそうに笑う子ども。それぞれ幸せそうな顔をして食堂に向かった。
  彼らの体や心が病んでいるふうにはとても見えなかった。


〇がらんとした庭園の中

  ヒデト、恵菜、洋介の3人。
  恵菜はいまだ余韻から覚めず、という表情。うっとりしている。

恵菜「素敵だったわ、洋介」

  恵菜は洋介にささやいた。

洋介「ありがとう、もう少しで完成する」

恵菜「今日は? 帰るの?」

洋介「今夜は先生のところに泊めてもらう」

恵菜「残念! 夜勤なの」

  恵菜はヒデトの視線を感じて、ちょっと照れくさそうに笑った。

恵菜「(ヒデトのほうを振り返って)彼は佐伯洋介。ムー文明や縄文文化の心を音楽で表現する作曲家よ」

  洋介をヒデトに紹介した。

洋介「よせよ。作曲家だなんて。単なる山男だよ。オレは」

  洋介は頭を掻きながら照れ笑いした。

洋介「佐伯です。よろしく!」明るい声で言った。

ヒデト「星野ヒデトです。よろしくお願いします」

  ヒデトは洋介に少し嫉妬を感じているように見えたが、素直に感想を述べた。

ヒデト「何て言うか――。こんな音楽初めて聴きました。新鮮な驚きと同時に、なつかしくてたまらないという感覚が体中を駆け巡りました」

  洋介は微笑んでいる。

ヒデト「僕は――、その――、いろいろあって――」

  洋介も恵菜も温かい目で、ヒデトを見守っている。

ヒデト「僕にとって、音楽だけが唯一の支えでした。音の世界に浸っているときだけ、生きていると実感できました。
  クラシック、ロック、手当たり次第に聴きました。いつの間にかヘビメタにはまって――」

  ヒデトはうつむいたまま一気に話した。
  
  洋介がヒデトの肩にそっと手を置いた。

洋介「うん。何となくわかるよ。オレにもそんなときがあったから」

  ヒデト、驚いた顔をして洋介を見る。
  恵菜は軽く頷いて、ヒデトの顔を見た。

洋介「しかし、それは決して心の闇から、オレを開放してはくれなかった。それどころか、さらに闇の中に閉じ込めるだけだった」
  
  洋介は過去を回想しているようだった。


〇オアシスの屋根を通して見える空

  3人は空を見上げていた。
  空はすっかり夕焼け雲に覆われていた。ブルーとオレンジと白の微妙なグラデーションが目に沁みるように美しかった。

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