憲法改正を問う=元衆院議員2人にインタビュー
時事ドットコム https://www.jiji.com/jc/article?k=2017122300388&g=pol
2017年12月23日
自民党憲法改正推進本部はこのほど、改憲4項目について論点取りまとめを提示した。安倍晋三首相は2020年までの改憲を目指しており、同本部は年明けに議論を再開し、速やかに党改憲案を策定、次期通常国会に提出したい考えだ。憲法改正をめぐる動きを元衆院議員の山崎拓元自民党副総裁、藤井裕久元財務相に聞いた。
【政界インタビュー】安倍政権を斬る! 山崎拓・元自民党副総裁
インタビューに答える山崎拓元自民党副総裁=19日、東京都千代田区
◇信念ある改憲ではない=山崎拓元自民党副総裁
-現行憲法の評価は。
戦後日本の平和は「9条のためだ」とは必ずしも言えないが、70年以上、戦火を交えていないのは事実だ。
-かつて改憲派の論客だった。
「戦力不保持」を規定した9条2項は、今の自衛隊の実態に沿わないので書き換えるべきだ。「日本国の主権と独立を守り、国の安全を保つと共に、国際平和の実現に協力するため、内閣総理大臣の指導の下、陸・海・空軍、その他の組織を保持する」などの表現に変える。この考えは議員時代から変わらない。
-首相は9条2項を維持して自衛隊の根拠規定を設ける案を提案した。
「自衛隊の正当化なら誰も反対できない」という考えから出てきたイージーゴーイング(安易)な案。改憲のための改憲だ。本来は2項から見直すべきで、2012年の自民党改憲草案もそうなっている。首相は、憲法改正を志向する彼の支持基盤の期待に応えようとしているだけだ。信念として改憲しようとしているようには思えない。
-首相はなぜいま改憲を急ぐのか。
改憲は自民党の党是だ。ただこれまでは衆参で(改憲発議に必要な)3分の2の議席が取れなかったから、できなかっただけだ。今は奇跡的に衆参とも改憲勢力が3分の2以上を占めているから、「絶好のチャンスだ」と捉えているのだろう。
-党の議論はどうなる。
情けないことに今は異論を唱える議員が少ないので首相案が通るだろう。ただ、具体案が出てきた瞬間、憲法学者らから異議が噴出する。2項維持と自衛隊明記は矛盾するから、そこで行き詰まる。仮にその案で強引に国会発議しても、大論争を引き起こし、国民投票で負けるのではないか。
-自民党は9条以外に緊急事態条項など3項目も検討している。
9条以外の項目はあまり意味がない。改憲しなくても解決できる。9条とはレベルが違う。お試し改憲としてやる考えかもしれない。首相は「憲法改正をやった」との実績をつくれるからだ。
-20年までの改憲は難しいか。
難度が高いのは間違いない。国民投票で過半数を獲得できなければ政権は終わる。首相は用心深くやらざるを得ない。無理だと思ったら改憲をやめるかもしれないし、無理にならないような案にするなど難しい政治判断を迫られることになる。
▽山崎 拓氏(やまさき・たく)早大卒。福岡県議などを経て1972年衆院選初当選、12期務めた。防衛庁長官、自民党幹事長、副総裁などを歴任。著書に独自の改憲私案をまとめた「憲法改正」など。81歳。中国・大連生まれ。
◇9条、押し付けではない=藤井裕久元財務相
-憲法改正は必要か。
戦後日本の平和を支えた9条は守るべきだ。「占領軍の押し付け」と主張する人がいるが、間違いだ。9条の平和主義は、当時の幣原喜重郎首相がマッカーサー(連合国軍最高司令官)に持ちかけて憲法に加えられたものだ。
-自民党は9条に自衛隊の存在を書き込むことを目指している。
論外だ。ある自衛隊幹部も言っていたが、なぜ自衛隊だけ憲法に書くのか。日本の平和は自衛隊だけでなく、日本国民全員が守ってきた。今の自衛官はそれを分かっているが、自衛隊が憲法に明記されれば、10~20年後に「俺たちは偉い」と勘違いする自衛官が出るかもしれない。それがやがて軍国主義につながる危険性を持つ。
-安倍晋三首相は9条1項と2項を維持した上で自衛隊を明記する案を示した。
2項維持は、へ理屈だ。私はあくまで反対だが、もし自衛隊を明記するなら(戦力不保持の)2項も変えるべきだ。論理的に整合性が取れない。
-自民党在籍時に改憲をどう考えていたか。
自民党にいた約15年の間に、改憲を意識したことはほとんどない。改憲は自民党の「立党宣言」にも(立党時の)「綱領」にも入っていない。その下の「党の政綱」に書かれているにすぎない。今でも付き合いのある自民党議員は改憲に慎重だ。自民党も決して皆が改憲論者ではない。
-9条以外で改正が必要な項目はあるか。
「国際協調こそ大事だ」との内容は新たに書き込んでも良いだろう。日本は国連安保理の常任理事国になろうとしているのだから。また、大災害時の議員任期延長など緊急事態条項の創設もある程度考えても良い。その際は、政府への権限集中や私権の制限が行き過ぎないように気を付けるべきだ。立憲民主党の枝野幸男代表が検討課題に挙げた「首相の解散権の制約」も傾聴に値する。
-今後、野党は自民党にどう対峙(たいじ)すべきだと考えるか。
野党もそれぞれの党で考えが異なるだろうが、自民党がいずれ改憲案を出してきたときに、全体をまとめて議論するのではなく、項目ごとに議論すべきだ。自民党でも良識的な議員はまだいる。そういった人たちと手を結んで議論を引っ張っていってほしい。
▽藤井 裕久氏(ふじい・ひろひさ)東大卒。大蔵官僚を経て1977年参院選で初当選。くら替えした衆院で90年当選。衆院当選7回、参院2回。自民、新生、新進、自由各党を経て民主党に合流。細川、羽田両政権で蔵相。民主党幹事長、鳩山政権で財務相。85歳。東京都生まれ。(2017/12/23-16:05)