改め Objective Technician

はぐれ技術者のやりたい放題

年に一度あるかないか

2009-11-03 18:36:24 | 勉強
その午後この仮説をテストするため、僕は実験用のプログラムを一気に書き上げて一連の実験をしてみた。

僕の理論が正しければ、 physically 条件と illusory 条件との結果は一致するはずなのだ。

実験の結果は誤差4%で両者は一致すると出た。心理物理学の分野ではこれほど近い数値が出ることは非常にまれで、ふつうは統計的手法を用いて結果の検定をする。それがたった誤差何%と言えるぐらいならかなりの正確度だ。


僕は続けてもっと他のものについても調べてみたが、みなうまくおさまる。また次々と新しいものを試してみても、どれもこれもぴたりと合う。

僕はいささか興奮してきた。何しろ僕は今、世界中で他の誰も知らない自然の法則を一人で握っているのだ。


それぞれ異なる過程で出てきた数値が見事に一致するという事実を目前にして、僕はまるで壮大な物語を見ているかのような感動を覚えた。

そして、あぁこれは高校のときの物理実験で幾度と出合った感覚と同じだなと思い、嬉しくなった。


僕は、視覚科学の幕開けとなる発見をしたヒューベルとウィーゼルのことを思った。彼らほど画期的でないかもしれないが、先人たちの蓄積に僕もとうとう新しい知見を加えることができそうなのだ。


実験方法と結果の美しさにひとしきり酔いしれたあと、僕はこの感動を誰かに伝えたいと思い、教授のいる部屋へ一目散に駆け出した…





間池留出版 イサベラの「ご冗談でしょう、ブラウンさん(下)」より