ミーハーのクラシック音楽鑑賞

ライブ感を交えながら独断と偏見で綴るブログ

2つの「第九」

2009-12-28 16:19:37 | 国内オーケストラ
23日水曜にN響、25日金曜に読響の「第九」演奏会に行ってきた。

NHK交響楽団 ベートーヴェン「第9」演奏会@NHKホール」
  指揮:クルト・マズア
  ソプラノ:安藤赴美子
  メゾ・ソプラノ:手嶋眞佐子
  テノール:福井敬
  バリトン:福島明也
  合唱:国立音楽大学、東京少年少女合唱隊
《15時00分開演、16時20分終演》

クルト・マズアは1927年旧東ドイツ・ブリーク生まれ。ライプツィヒでピアノ・作曲・指揮法を学ぶ。1960年~1964年ベルリン・コーミッシェ・オーパー、1955年~1958年および1967年~1972年はドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を務める。1970年から1996までライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の芸術監督・首席指揮者として活躍。1991年から2002年までニューヨーク・フィルの音楽監督。2000年から2007年までロンドン・フィルハーモニー管弦楽団首席指揮者に。2002年から2008年まではフランス国立管弦楽団の音楽監督も務めた。日本では読売日本交響楽団深いつながりがあり、79年に名誉指揮者に就任している。

初日(22日)公演でアクシデントがあったN響の「第九」だったが、私が行った2日目の演奏は感動的なものだった。N響のメンバーはもともとドイツやオーストリアに留学している人が多いので、N響の音色はドイツ的と言われていた。ただ、最近はデュトワやアシュケナージが音楽監督を務めたためか、その音色がまろやかなものになっていた。ところが、この日のN響はまるでドレスデンかライプツィヒのような研ぎ澄まされた質実剛健なドイツオケのようで、クルト・マズアの豪腕にして威厳のある指揮に見事に応えていた。

ソリストには二期会のベテラン陣を配し、特に男性陣2人のしっかりした声質と声量はあの広いNHKホールの隅々まで見事に轟かせていた。合唱は東京少年少女合唱隊がソプラノに加わるのだが、これが実に面白い。やはり大人の国立音大生と声質が微妙に違い、残響音が音大生より長いように思え、天使の歌声を表しているように思もえた。また、四重唱でも時に五重唱に聴こえたりして、合唱に幅が広がったように聴こえた。これがマズアの狙いだったら、それは成功していたと言える。

終演後、マズアは上機嫌で、ソリストの女性2人の手に祝福のキスをするやら、合唱団からオケまで手で多くの賛辞をおくり、満面の笑みを聴衆に送っていた。そして、最後の最後は第一ヴァイオリンの青木調さんをお持ち帰りになって退場。これにはオケのメンバーも合唱団にも大受けであった。

読売日本交響楽団 第9交響曲特別演奏会2008@サントリーホール
  指揮:オスモ・ヴァンスカ
  ソプラノ:林正子
  メゾ・ソプラノ:林美智子
  テノール:中鉢聡
  バリトン:宮本益光
  合唱:新国立劇場合唱団
《19時10分開演、20時25分終演》

オスモ・ヴァンスカは1953年フィンランド生まれ。クラリネット奏者として活躍した後、シベリウス・アカデミーで指揮を学び、ブザンソン国際指揮者コンクールで優勝。1985年にラハティ交響楽団の首席客演指揮者に就任。1993年から1996年までアイスランド交響楽団、1996年から2002年までBBCスコティッシュ交響楽団の首席指揮者。そして、2003年からミネソタ管弦楽団の音楽監督を務め一時低迷していたオケを再建させた。

私はこの手の指揮者が得意でない。大振りなくせに指示の仕方が解りにくい。それでいて、音だけは思いっきり鳴らす。第1楽章からもう耳なりがするような音の連発で、最終楽章の歓喜へ葛藤や抑揚などあったものではない。こんな指揮をさせられているようではオケも可哀想である。第三楽章のヴィオロやチェロが奏でる旋律も情感に乏しく、第4楽章へと繋がらない。正直何もかもちぐはぐだった。加えて、合唱のソリストたちも弱い。特にバリトンは深みや厚みがなく、まるでテノールのような声質なのには驚かされた。この日の演奏で唯一の救いは新国立劇場合唱団の合唱で、これは噂通りで非の打ち所がなかった。

さて、来年は何処の「第九」を聴きにいくのだろうか。

観客の世代交代とマナー向上が求められるN響定期

2009-12-17 13:08:05 | N響
昨日(16日)サントリーホールで行われたNHK交響楽団第1663回定期公演へ行ってきた。指揮はシャルル・デュトワ。ピアノはニコライ・ルガンスキー。

【演目】
ラヴェル/亡き王女のためのパヴァーヌ
ラヴェル/左手のためのピアノ協奏曲 ニ長調
  ~休 憩~
ショスタコーヴィチ/交響曲第11番ト短調「1905年」
《19時00分開演、21時00分終演》

決して悪い演奏ではなかった。悪いのはすべて観客である。N響定期の観客はN響のメンバーが世代交代しているのと同じように、観客も世代交代すべきである。加えて、観客のマナーのレベルアップも求められる。

御存じのようにN響定期演奏会の観客には高齢者が多い。65歳以上の年金生活者が半分以上を占めていると言っても過言でない。その多くは昔ドイツ語を勉強していたとか、哲学を齧っていた堅物そうな紳士や、お嬢様の時代にクラシック音楽を嗜んでいたような御婦人たちである。特に75歳以上人たちは忍耐力は低下しているうえ、耳も遠くなっている。

こうした人たちは30分以上の楽章間休みなしの「アタッカ」形式の演奏には耐えられない。演奏中に咳払いはするわ、飴の袋をゴソゴソと開けようとするわ、暗くても読めもしないプログラムを読もうとするわ、もう客席のあちらこちらからざわついた物音が聞えてくる。それもオケが大音響を奏でているときでなく、静かな演奏をしているときにするのだから手のつけようながない。

ということで、デュトワとN響が試みたアタッカ形式1時間ノンストップのショスタコーヴィチの交響曲第11番「1905年」に、N響の観客はついていくことができなかった。同じ「1905年」を9月に演奏した読響では、指揮者が高齢のスコロヴァチェフスキということもあってか、楽章間に充分の間合いをとっていた。それは結局観客が息をつく時間でもあったようだ。そういう意味ではデュトワの「アタッカ」形式の試みは徒労に終わってしまった。

そして、こうした観客のざわつき以上に腹だしかったのが、終演直後に余韻を味わうことなく、ブラボーを叫ぶヤツらだ。彼らはひとり悦に入って「ブラボー」を言っているだけで、演奏会を破壊しているだけである。余韻を楽しんでもろうという指揮者の意図も汲み取れない輩にはレッドカードを突きつけてやりたい。

指揮者が手を下ろすまでは演奏は終わっていない、ということを彼らは知らないのだろうか。

N響はプログラムに「フライング・ブラボーが演奏会を壊している」とか、「演奏中にプログラムをめくることを慎むように」といったマナーに関してのことをプログラムに明記すべきである。そうでないと、観客同様に演奏しているメンバーたちも可哀想である。

雨の日のNHKホールは憂鬱だ

2009-12-14 12:26:08 | N響
一昨昨日(11日)NHKホールで行われたNHK交響楽団第1662回定期公演へ行ってきた。指揮はシャルル・デュトワ。ヴァイオリンはアラベラ・美歩・シュタインバッハー。

この日はどじゃぶりの雨。雨の日のNHKホールでのコンサートは憂鬱である。というのも、NHKホールは駅から遠いうえに、スタジオパーク行きのバスに乗っても、バス停はホールからかなり遠くにありまた歩かなければならない。NHKはどうしてあのバス停をもっとホールに近いところにしないのだろうか。お年寄たちのことをなぜ考慮してあげらないのだろうか。

そして、NHKホールには傘立てがない。そのためにお客さんは濡れた傘をビニール製の傘袋に入れて入場しなければならない。こんなホールが他にあるだろうか。サントリーホール、ミューザ川崎、東京芸術劇場もみんな傘立てはある。傘を場内に持ち込むということは、それだけ余計な湿気をもちこむことになる。いくら空調が効いているとはいえ、微妙に音響に影響する。こんなことをNHKホールは理解できないのだろうか。

そして、今回は知り合いの御婦人が階段に落ちていた傘袋に足を取られそうになったとか。もし、これで転倒して怪我でもされたらどうするのだろう。近くにいた係員もそれをすぐに拾おうともしなかったそうだ。いったい製作サイドはどんな教育をしているのだろうか。NHKホールは即刻3,000人分の傘立てを用意すべきだ!

【演目】
チャイコフスキー/ヴァイオリン協奏曲ニ長調
  ~休 憩~
ヤナーチェク/グラゴル・ミサ曲
  1曲目. 序奏
  2曲目. キリエ
  3曲目. グローリア
  4曲目. クレド
  5曲目. サンクトゥス
  6曲目. アニュス・デイ
  7曲目. オルガン・ソロ(後奏曲)
  8曲目. イントラーダ(序曲)
《19時00分開演、20時50分終演》

ソプラノ:メラニー・ディーナー
アルト:ヤナ・シーコロヴァー
テノール:サイモン・オニール
バス:ミハイル・ペトレンコ
合唱:東京混声合唱団(合唱指導:松井慶太)
オルガン:小林英之

1曲目。アラベラ・美歩・シュタインバッハーは2年前のN響との共演でベートーヴェンの協奏曲を、今年10月にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団との共演でモーツァルトの協奏曲を聴いているが、今回はかなり凡庸な演奏だった。というのも、前回の2公演のときは低音の伸びが鮮やかだったのに対して、今回は低音部、特にG線だけが張りが弱かったのか、それとも違うメーカーのものを使っていたのか、音に微妙なブレを感じたうえ、ボリューム感もなかった。高音も雨の影響なのだろうか伸びが今一つだった。

今回はどうも上体だけでヴァイオリンを弾いているようで、腰が入っていないような見えてしまった。チャイコンはやはりコシ(粘り)を入れて、パッションを吹き込んでほしいと思う。そうでないと素晴らしい演奏であったっても感動を伴うことはない。彼女はまだまだ20代。更なる飛躍を期待したい。

2曲目。宗教音楽は不得手である。ミサ曲ということなので、教会で聴くような荘厳なイメージがあったが、デュトワは私の懸念を見事に払拭して、華麗なミサ曲を聴かせてくれた。なかでも、金管がトロンボーンの客演の呉信一をはじめきらびやかな音色を高々と奏でていた。

そして、ソリスト陣はみんな若く将来を嘱望されているメンバーとかで、誰もが若々しい歌声を聴かせてくれた。なかでも、メラニー・ディーナーはプログラムによるとひっぱりだこのソプラノ歌手というだけあって、体格も見事だが歌声も艶とハリがあり素晴らしかった。いつの日か彼女が出演するオペラを見れたらなと思わざるをえなかった。また、特筆すべきは東京混声合唱団である。男60人女60人の合唱は一体感と立体感に満ちた歌声で観客を魅了させていた。ブラボー!ブラヴァー!ブラヴィー!

1月A定期&C定期指揮予定だったローレンス・フォスターが健康上の理由により来日不可能になったようである。このためにAプロは尾高忠明、Cプロはジョン・アクセルロッドに変更とのこと。詳しくN響のホームページまで。

NHK交響楽団
http://www.nhkso.or.jp/top.html

ゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団

2009-12-04 12:44:46 | 海外オーケストラ
一昨日(2日)サントリーホールで行われたマリインスキー歌劇場管弦楽団来日公演に行ってきた。指揮はワレリー・ゲルギエフ。ピアノはアレクサンドル・トラーゼ。ストラヴィンスキー・プログラム。客の入りは7割程度。

【演目】(※はアンコール曲)
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「カルタ遊び」
ストラヴィンスキー/ピアノと管弦楽のためのカプリッチョ
※スカルラッティ/ソナタニ短調
  ~休 憩~
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「春の祭典」
※シチェドリン/お茶目なシャストゥーシュカ
《19時00分開演、21時20分終演》

昨年のNHK音楽祭で耳鳴りするぐらい爆音を轟かせたゲルギエフ&マリインスキー歌劇場管弦楽団だが、今回は非常にコンパクトで大音響もなく、端正な音色を聴かせてくれた。

その最大の要因はゲルギエフが指揮台を使わず、弦パートを自分にかなり近づかせ、木管・金管もコンパクトに寄せた配置にしていたことが功を奏しているのではないだろうか。サントリーホールでの海外オケ公演でこれほど左右にスペースが余っているオケはあまり記憶がない。

また、ロシアのオケというと、どことなく恰幅のいいおじさんやおばさんがいたりするものだが、このマリインスキー管は全体的にメンバーの年齢が若いうえ、メタボな人はほとんどいなかった。その意味でも音色もスリムですっきりしていた。

1曲目。全く初めて聴く曲。ストラヴィンスキーは数多くのバレエ音楽を作曲しているが、日本で演奏されるのは『火の鳥』『ペトルーシュカ』『春の祭典』『プルチネルラ』ぐらい。それゆえに、この『カルタ遊び』は全く無の状態から聴いたのだが、正直魅力的といえる曲ではなかった。というのも、旋律と旋律を繋ぐところに、各楽器のソロが2~3小節と短く入るのだが、これが短いというか妙な間合いを作っているようで、曲全体の継続性を感じることができなかった。これでは演奏だけでなく、本来のバレエ公演でもダンサーは踊りにくいのではないだろうか。

2曲目。この曲も1曲目同様に曲に連続性がない。ただ、こちらはちょっとジャズ風のカデンツァが入ったりするために、曲にメリハリがある。ピアノのアレクサンドル・トラーゼの愛嬌ある巨体から奏でられる音色もダイナミズムで爽快感に満ちている。NHK音楽祭のときはゴリラだの象だのと動物的な動きに見えたが、この日はピエロかサンタクロースのようにコスプレ系な動き見えてしまった。それにしても、この人のピアノは見ていて楽しい。曲よりそちらの方が印象に残ってしまった。

3曲目。オケのメンバーに日本人が何人か入る。フルートに甲斐雅之(ピッコロ持ち替え)、オーボエに池田昭子、ファッゴットに佐藤由起(コントラファゴット持ち替え)、ホルンに日高剛と勝俣泰(ワーグラナーチューバ持ち替え)と5人のN響メンバーが舞台にいる。またチューバにも日本人奏者が加わっていた。

さて、演奏だが、これは期待した以上の出来。第1部の「序奏」のファゴットは悠々としていて、バレエ音楽ならではの優雅さも備わって、この曲の期待感を高めてくれる。そして「春のきざし(乙女達の踊り)」以降はストラヴィンスキーならではの不協和音と複雑なリズムが絡みあっていき、一気にストラヴィンスキー・ワールドに突入である。ゲルギエフの左手も例によって蝶のようにヒラヒラさせはじめて、オケを快調に飛ばしていく。

第2部になると第1部に比べるとテンポはトーンダウンしていくが、逆に音色の方はアップしていく。それでも耳をつんざくような爆音は全くなく、引き締まった民族性のある濃厚な音色を次から次へと響かせていく。ただ、願わくばバレエ音楽ならではの洗練された理知的な感覚をもう少し味わせてほしかった。

NHK交響楽団@NHK音楽祭2009

2009-12-02 11:24:09 | N響
一昨日(30日)、NHK音楽祭のNHK交響楽団公演に行ってきた。指揮は現在来日中のマリインスキー劇場の芸術監督ワレリー・ゲルギエフ。ピアノはアレクサンドル・トラーゼ。チケットは完売。

アレクサンドル・トラーゼは1952年グルジア・トビリシ生まれ。1978年にモスクワ音楽院を卒業。1983年にアメリカへ移住。ニューヨーク・フィル、バイエルン放送響などの世界の主要オケと競演。現在はインディアナ大学サウスベンド校教授として後進の指導も行っている。ゲルギエフとはこれまでに何度も共演していて気心の知れている仲らしい。

【演目】
芥川也寸志/弦楽のための三楽章「トリプティーク」
プロコフィエフ/ピアノ協奏曲第3番
  ~休 憩~
チャイコフスキー/交響曲第6番「悲愴」
《19時00分開演、21時10分終演》

1曲目。この日の最大のお目当て。芥川也寸志の作品は民俗的かつ土着的味わいを出しつつ、流れるようなメロディ、江戸っ子たる小粋なテンポ、明快なリズムがうまく噛み合っている曲が多い。この「トリプティーク」もその一つ。

第1楽章はアレグロ。中低音部から始まる導入は躍動感に満ち溢れている。両翼配置の弦楽5部から陽気で快活な音色が響いてくる。一瞬どことなくショスタコーヴィッチの作風を思わせるが、粘土質な音色は師匠である伊福部昭のようで、これがいつしか芥川節に変わっていく。ゲルギエフとN響の呼吸もぴったり合っている。

第2楽章はアンダンテ(子守歌)。娘のために書かれたと言われ、ヴィオラから始まる導入部の抑揚のきいた旋律が美しい。そして、途中からヴィオラとチェロが弦楽器が胴を叩く音(ノック・ザ・ボディ)も加わり、それが打楽器のような効果を表し音楽性を高めていく。

第3楽章はブレスト。お祭りをイメージして書かれているが、第1楽章ほど快活ではない。それでも、ここはもう少しメリハリをつけてほしかった。それだけが不満に残ったが、芥川也寸志の素晴らしさを実感した。定期公演でも是非とも芥川作品を取り上げてほしい。

2曲目。アレクサンドル・トラーゼは顔が達磨さんなら、体形も達磨さんという、愛くるしい超メタボな巨体。しかしながら、決して細いとはいえない指が繰り広げる演奏はドラマティックにして繊細。以前、この曲を弾いた上原彩子のことをオラウータンのお母さんのようだと書いたが、トラーゼはゴリラのようにでもあり象にも見えてしまった。プロコフィエフはこの曲の奏者を動物に見えるようでも作曲したのだろうか。(笑)

第1楽章。椅子の位置がピアノから少し遠かったせいか、トラーゼは演奏しながら何度も座席を前の方にずらそうとするが、巨体ゆえに椅子が動かず、あまり長いといえない足がペダルまで遠そう。それでも、そのペダルの踏み方が、踏みっぱなしという感じでなく、こちらも指先同様にダイナミズムに動く。そして、時には立ち上がるかのようにして鍵盤を叩く。いや~、ダイナミズム。

第2楽章。旋律が何度も変わる変奏曲のためか、トラーゼはここではまるで石橋を叩いて渡るかのような慎重にも慎重を重ねたような演奏をくりひろげる。それでも、時たま大胆な手振りをして、ピチピチの服が破れるのではないかとハラハラさせてくれる。

第3楽章。ここからプロコフィエフおよびトラーゼの独壇場だ。次々に繰り出される不協和音的音色を軽々とこなしていく。最終部分はもうキングゴングがエンパイア・ステイト・ビルディングに上がったかのように、ゴリラがピアノの上で吠えまくるかのような勢いで音を奏でていった。オケのメンバーも観客も唖然といった演奏であった。ブラボー!

演奏後、アンコールを用意していたようだが、あまりの激しい演奏だったせいかトラーゼはコンマス(マロさま)に「わしゃ、疲れたよ」と耳打ちをしたようで結局アンコールはなかった。アンコールなどいらない十二分の熱演だった。

3曲目。N響の「悲愴」を聴くのは何度目だろうか。最近では一昨年のオーチャード・ホールでのロッセン・ミラノフ、今年1月のサントリーホールでのドミートリ・キタエンコと、いずれも素晴らしい演奏を聴いている。そして、今回はワレリー・ゲルギエフである。外れるはずがない。確信していた。そして、その通りの結果になった。N響は完全にこの「悲愴」を完全に手の内に入れたようである。

なお、放送予定は下記の通り。
12月5日(土)午後11時~午前2時[BShi]「ハイビジョンウィークエンドシアター」
12月7日(月)午前1時~4時[BS2]「クラシックロイヤルシート」

また、NHK音楽祭2009ハイライトは下記の通り。
12月18日(金)午後10時30分~午前1時30分[教育]
12月26日(土)午前9時~午後0時[BShi]