再来年、2013年(平成25年)の6月ごろ公示、7月ごろ投開票の見通しの第23回参議院議員通常選挙から適用される、ルール・オブ・ザ・ゲームづくり(選挙制度改革)について、2011年7月12日、公明党の山口那津男代表が記者会見し、公明党案を発表しました。
ポイントは、「全国11ブロック(衆院の比例ブロックとまったく同じ区割り)」、「定数200(100議席ずつ半数改選)」、「個人名の単記式」ということになります。
プロセス的には、参議院議長が4月に提示した案の「全国9ブロックの大選挙区」を「議長が案を出され、政党の側で応えていく必要があり、党の考え方をまとめた」(山口さん)格好になります。
ちなみに単記式とは、定数にかかわらず、1枚の投票用紙に1人の名前(ないし1つの政党名)を書く選挙のことです。連記式は過去にありますが、人気投票的になり知名度競争になる弊害があります。
この公明党案では、1票の格差は1・385倍。四国ブロックの有権者の1票が重く、北海道の有権者の1票が軽いのですが、わずか1・385倍に収まっています。私が公明党案で評価し、支持したいのは、議長案の「9ブロック」と違い、公明党案の「11ブロック」は現行の衆院の比例ブロックとまったく同じ区割りだからです。シンプル・イズ・ベスト、デモクラシーのプロセスの最初にある、選挙のルールはなるべくシンプルである方がよい。なぜなら、日本では、有権者は1億400万人います。ですから、ルールはシンプルな方がいいのです。そうでないと、デモクラシーのプロセスが見えにくくなります。シンプルで困る人はいます。それは小沢一郎さんです。ルールや状況が複雑であればあるほど、小沢さんの「剛腕」の出番となりますが、シンプルだと「国民の出番」が増えます。
ちなみに衆院のブロックは政党名だけで投票します。参院のブロックが個人名だけで投票することになると、そこが複雑で「なんとなく政治が大事だっていうのは感じるけど、正直言って、投票のしかたがよく分からなくて・・・」という有権者が出てきます。が、その辺をきっちり徹底させるというのも、選挙運動の一つだと考えます。
衆院の比例ブロックは、よく出来ています。あえて言えば、「北関東3県」といわれながらも「北関東ブロック」は埼玉県を入れた4県です。もう一つ、千葉県が「南関東ブロック」になり、東京ブロックをはさんで、「千葉県」と「神奈川県・山梨県」が飛び地になっています。新住民の多い両県ですから、なかなか分かりにくいという人も多いでしょうが、ここを除けば、ブロックの地域の名称と、各都道府県のイメージは合致しているのではないでしょうか。
山口那津男さんは「ミスター・バランス」の政治家で、じつによくできた案です。
まず定数200。これは現行の定数から42議席削減ということになります。民主党は09マニフェストで「衆院定数80削減」「参院はそれに準じた数」を削減する、と書いています。これは事実上「42削減」ということになります。衆参とも第一会派の民主党は賛成せざるを得なくなります。それに、改選100議席というのは、分かりやすいですね。
ちなみに、第23回参院選から第24回参院選までの2013年夏~2016年夏の3年間は、非改選の関係で「221議席(過半数111)」となります。参議院では平成元年(1989年)夏以降、過半数会派が一つもありません。かりに過半数を第23回参院選でとるならば、自民党は「定数100のうち61議席以上」、民主党は「定数100のうち67議席以上」が必要です。大選挙区では獲得不可能な議席数です。衆参ねじれは常態化することになります。それを当然とした国会運営が必要になってきますが、それは「熟議」につながります。両院協議会改革だけしっかりやれば、むしろねじれが常態化した国会の方が良いのかもしれません。
おそらくこの制度だと、各ブロックとも得票ラインは20万~30万票になると考えられます。一方で、タレント候補が100万票以上とってくる可能性があります。
ちなみに公明党案は公明党に有利です。そんなのは当たり前でなんら問題ありません。が、法制化には各党の修正協議は必要になってくるでしょう。ちなみに公明党は第23回参院選で10議席が改選を迎え、第24回で9議席改選を迎えます。つまり11ブロックに1人ずつ候補を立てて、公明党・創価学会の総力を結集すれば、11議席が可能で、今より増えることになります。ただ組織政党には「ガラスの天井」がありますから、倍増ということはないでしょう。近畿ブロック(改選定数16)には大阪のほかに、兵庫県などの候補者、東京ブロック(改選定数10)にも男性候補と女性候補、南関東ブロック(改選定数12)には千葉で1候補、神奈川で1候補という格好で、複数擁立してくるでしょう。そして個人名単記式だと、市町村ごとに開票結果が分かりますから、地方組織や地方議員の動きはチェックできます。
それから、民主党では、11ブロックになると、連合のうち、UIゼンセン同盟が不利になりそう。様々な業種に100万人以上のはたらく仲間をもつゼンセン同盟ですが、いわば「食品スーパーのあるところにゼンセン同盟員あり」という状況です。全国どこにでもいます。フツーに考えれば1ブロックにつき組合員が10万人ずつにわかれてしまい、最低得票ライン(20万票~30万票?)に届かないでしょう。ただ、繊維産業が盛んな琵琶湖周辺が近畿ブロック(改選定数16)になりますから、ここで1人絞って勝つということは可能でしょう。
国民新党の支持団体である全国郵便局長会「全特」は前回参院選からして、組織票は40万~50万票だとみられます。ここも、どのブロックでも単独では勝てない見通しになってきます。国民新党は島根と富山で改選を迎える議員がいますが、2人とも「無所属(民主党・国民新党・社民党推薦)」で当選していますので、原点に返れば勝てるかもしれません。
それから、中国ブロック(改選定数6)となると、ここで強い自民党が、山口県連、広島県連、岡山県連などのどこから候補者を出すかという問題が出てきそうです。あるいは四国ブロック(改選定数4)も、人口の多い愛媛県連に対して、人口の少ない香川、徳島、高知の自民党県連の間で軋轢が生まれないか。四国に限れば民主党各県連も同様の問題を抱えそうです。特に、山口、高知で自民党が強い理由は幕末・明治維新にまでさかのぼりますので、自民党の県連が強いところは、この案に反対する可能性があります。
これは国政ですから、衆院の21増21減案とセットで考えた方がいいと思います。
[画像]衆議院の「21増21減」による各県の小選挙区当選者の人数案
[画像]参議院選挙の11ブロック案。
このように衆参一体で見ると、鳥取県の国会議員が衆院1人だけになる可能性がなきにしもあらず。東北ブロック(改選定数8)の中で、仙台市に事務所を置く候補が各党から出てくると、秋田県が衆院2人だけになるかもしれません。それとやはり四国各県。あと、九州ブロック(改選定数11)で衆院は3→2に削減される佐賀県が参議院がどうなるか。福井も衆院2選挙区、参院北陸信越ブロック(改選定数7)となると微妙です。ただ、この辺は、例えば、近畿ブロック(改選定数16)で、「私は和歌山県の代表です!」という選挙運動をする有力候補者が1人だけなら、かなり有利になります。要は、現状分析と戦い方ということになるでしょう。そもそも、全国知事会の機能も強化されていますし、国の公共事業や交付金・補助金が右肩上がりの時代ではありませんからこれでもいいのではないでしょうか。
ひきつづき、組織は有利ですが、知名度のある県議やタレントを擁立した方が組織の重荷は軽くなります。その辺で、いろいろな人材が参議院に入りやすくなるのは確実です。東京ブロック、近畿ブロックに限らず、100万票以上で当選するタレント候補・議員は何人か出てきそうです。最近の参議院は昔に比べてタレント候補・議員が減っていますから、私はむしろ好感します。例えば、青島幸男・参院議員が佐藤栄作首相のことを「財界の男妾(おとこめかけ)」と呼びましたが、これは今でも通用する名言ですし、タレント議員だからこそ言えることです。また、青島さん質問のなかで、佐藤首相に「政見放送」というアイディアを提案し、佐藤自民党も「金権選挙でなくなる」と好感し、具体的な事業として実現し、今日に至ります。その後の青島さんは政見放送だけして、選挙期間中は「国政の勉強」と称して家に閉じこもり、街頭演説もせずに連続当選しました。まさに「ルールをつくった人間がイチバン強い」ということです。あるいは西川きよし参院議員が、地元で持っているラジオ番組に寄せられたハガキを読み上げて、宮澤喜一総理にダイレクトに“答弁”してもらっていたのも、だれか復活させてほしいものです。これも「100万票のきよしさん」だから出来たことです。
社民党も近畿、九州で議席を獲得できる可能性があります。公明党に敵愾心が強い日本共産党も、議席数を延ばす可能性があるし、闘争しやすい制度ではないでしょうか。で、これだと、参院で組織政党が一定の指定席を確保できます。そうすると、衆院の「比例定数180→100に削減」という民主党09マニフェストが実現する余地も浮上します。山口さんというのはそこまで考えている人だと思います。公明党はどこに行くのか?最近迷走がありましたが、47都道府県の地方議員3000人のネットワークを、11ブロックごとの衆参選出議員が集約して国に届けるということになればいいのではないでしょうか。今の公明党は「政調会長(兼)北関東ブロック選出衆院議員(兼)茨城県本部代表」というシステムになっていて、ごちゃごちゃしているように、傍目に見えます。例えば、この政調会長が昨年11月に突然補正予算案に反対しだしたのも12月に茨城県議選が控えていたからではないかと思います。こういうのが基礎自治体→47都道府県本部→11ブロックに集約してくると、地方分権改革にもつながってきます。
政党というよりも、各ブロック内で人口がイチバン少ない県の地方組織や選出議員が反対する可能性が高いということになりそうで、その辺の修正があるかもしれません。また、やはり公明党に有利な参議院選挙制度案ですので、各党現職幹部のメンツもありますから、修正はあるでしょうが、私は公明党案がベターだと思うし、たたき台として最適でしょう。
とにもかくにも、分かりやすい選挙制度にして、山本有三の緑風会があったころの、「閉鎖的でない参議院」を取り戻すことが絶対に必要です。