ビタミンP

苦心惨憺して書いている作品を少しでも褒めてもらうと、急に元気づく。それをトーマス・マンはビタミンPと呼んだ。

人を愛することは

2020年03月10日 17時23分14秒 | Weblog

人を愛することは、家に引っ越すのに似ている。

最初は新しいものすべてに恋をし、そのすべてが自分のものなのだと、毎朝、驚きを新たにするの。

そして、ふいに誰かがドアからやってきて、じつは重大な取りちがえがあって、このすばらしい家は

あなたの家じゃなかったと言われはしないかと不安がる。

でも年月とともに外壁も痛んで、あちこちに木のひび割れができるようになると、

家が完璧だからじゃなくて、家の完璧じゃないところに愛情を感じるようになる。隅から隅まで知り尽くしてね。

踏んだときにどの床板がたわむとか、きしまないように箪笥の扉をあける正確な方法とか。

そうした小さい秘密を知っているからこそ、わが家だと感じるの。

 

(フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』早川書房)

 

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