人を愛することは、家に引っ越すのに似ている。
最初は新しいものすべてに恋をし、そのすべてが自分のものなのだと、毎朝、驚きを新たにするの。
そして、ふいに誰かがドアからやってきて、じつは重大な取りちがえがあって、このすばらしい家は
あなたの家じゃなかったと言われはしないかと不安がる。
でも年月とともに外壁も痛んで、あちこちに木のひび割れができるようになると、
家が完璧だからじゃなくて、家の完璧じゃないところに愛情を感じるようになる。隅から隅まで知り尽くしてね。
踏んだときにどの床板がたわむとか、きしまないように箪笥の扉をあける正確な方法とか。
そうした小さい秘密を知っているからこそ、わが家だと感じるの。
(フレドリック・バックマン『幸せなひとりぼっち』早川書房)