スロヴァキアのスモコレッチから次の滞在地、オーストリアのザンクト・ミヒャエルまで700km もあるので、途中、スロヴァキアの首都ブラティスラヴァで一泊しました。ポーランドのワルシャワ、ハンガリーのブダペスト、そしてオーストリアのウィーンに似ていて、古くて由緒ありそうな建物が多く、興味深い町です。
中心部 ・ 歩行者天国
ブラティスラヴァ城塞
旧市街のはずれに見事な城塞がありますが博物館になっていて、食事も宿泊もできません。
それで、一夜を過ごしたのは旧市街の真ん中に建つ〈アルカディア〉という名前の5つ星ホテルです。
正面玄関に車で乗りつけたら、待機していたスタッフが荷物を降ろすのを手伝ってくれて、キーを預けるとガレージに停めに行ってくれました。その間にチェックインを済ませて部屋で待っていると荷物を届けてくれたのです。まさに超一流ホテルのやり方そのものでした。過去の宿泊客のなかには、マッケンローやレンデルなどのテニス選手や歌手などの有名人が何人もいるようです。
ホテルのロビー
このホテルの建物は12世紀後半に建てられ、時の流れとともにルネッサンス、バロック、および偽古典主義の様式を取り入れつつ、現在の形になりました。
私たちの部屋は重厚な扉をもち、古色豊かな質の良い家具が配置されています。アメニティーグッズは、驚いたことに、創業から145年以上にもなる英国王室御用達の「ペンハリガン」なのです。古い建物なので窓が小さいのが玉に傷ですが、それ以外は文句をつけるところがない部屋です。
客室
アーチ型天井の雰囲気が良いレストランでは、接客態度がおだやかな英語の出来る若者が、テキパキと基本にのっとった本格的なサーヴィスをしてくれます。バックには静かなジャズが流れています。
レストラン
お通しは、煙でいぶした温かいヤギ乳のチーズです。それに添えられているのは、赤カブ、オレンジ、イチゴジャム、クリーム、そして赤いシソの葉。チーズはヤギの臭みが無く旨かったし、ヨーロッパではほとんどまったく使われないシソの葉には驚きました。
煙でいぶしたヤギ乳チーズ
いつものように妻と私で別の料理を注文して、半分ずつ食べました。
前菜はオックステール・スープとブリムゼン(羊乳チーズ)です。
スープの方は野菜がたくさん入った濃厚なコンソメスープです。子牛の頬肉入りラヴィオロも入っています。とても美味しい。
もうひとつはスロヴァキア産羊乳チーズが入ったホウレン草ラヴィオロ。その下にホウレン草とカリフラワーのクリームが敷いてあります。これも熱々で大へんに美味しいのです。
オックステール・スープ ・ ブリムゼン(羊乳チーズ)
メインディッシュのひとつは軽くいぶした鹿肉のグリルです。少しの野菜と赤カブのピューレと自家製の指状ポテトヌードルにビャクシン・ベリーの果汁がかかっています。
そして、カモの胸肉のグリル。ソースの元は野生のスミノミザクラの実です。付け合わせとして、西側諸国ではあまり使われないサツマイモ、エンドウ豆のピューレと豆の鞘、そしてニンジンも付いていました。
主菜の時には料理の皿に銀色の丸いボウルを載せてきて、二人分同時にカパッと開けました。高級レストランでよくある演出です。
鹿肉 ・ カモの胸肉
デザートはコーヒー味のマスカルポーネ・チーズで、添えられているのはベリー系果物、カカオのシュトロイゼル、そして果物のエキスです。
もうひとつのデザートは、自家製の西洋梨コンポート (果物の砂糖煮)、卵リキュールのパフェ、クリームの焼き菓子の3点セットでした。最後のにはベリー系果物とミントの葉がのっています。
マスカルポーネ・チーズ ・ 3点セット
全料理を通じて感じたことは、盛り付けに食用花などの余分なものがないのでごてごてしていないし、奇をてらっていない。正攻法で料理して、それが極めて美味しく仕上がっている、ということです。あら探しをしようとも、これといって見つかりません。正統な食事を正統なサーヴィスでとった気がして、たいへん久しぶりに満足したレストランでの食事でした。
朝食は夕食と同じ部屋で、今朝は静かなクラシックが流れています。ビュッフェには良いものを多すぎることなく整然と並べてあり、好感が持てる若い女性のしっかりしたサーヴィスが受けられます。
朝食のビュッフェ ・ 私の朝食
ブラティスラヴァが良くないからではなく、他に行きたいところがたくさんあるという理由で、もう二度とこの町には来ないでしょうが、アルカディア・ホテルの素晴らしい印象は私たちの心にずっと残るだろうと思います。
〔2016年8月〕〔2023年4月 加筆・修正〕