福井県立大学水産経営学研究室のブログ(教員)

福井県立大学の水産経営学研究室(小浜キャンパス)のブログです。

原発のリスクの想定

2011-04-27 20:00:00 | Weblog
原発事故の直接的な原因となった大津波は1200年ぶりだという。
1200年間こなかった大津波が、
原発が稼働しだしてから50年もたたないうちに発生したのだから、
想定外だったというのもわからないわけではない。

一般の災害対策としての防波堤や防潮堤、ダムなどの公共事業は、
50年から100年に1度の災害を想定して建設されている。
それより過去に大きな災害があっても、
コストが大きくなり正確な記録もないから、
それを想定した安全対策はできないのが普通である。
そう考えると、100%安全なものはなく、
まったくリスクのない安全対策はないとも言える。

しかしながら、今回の原子力発電所の事故は、
純粋な自然災害とはいえない。
むしろ原子力発電所は人間がつくりだしたものであり、
事故は人災だと考えるほうが正しい。
原子力によって外部の環境が汚染された場合の影響が
きわめて大きいことは明らかであったのに、
100年に一度程度の通常の公共事業のレベルで建設していながら、
安全だと考えてきたのではないか。
その必要性やメリットばかりが強調され、
万一の場合のマイナスの影響が想定外になっていたのではないか。

このように考えると、
これまでの安全性の科学的根拠は、砂上の楼閣だったといえる。
1000年に1度という想定外だった事態を想定内に入れること、
これを新しい安全対策の前提としなければ、
原発の安全性が確保できないことは明らかになったといえる。
(T・K)

原発のコストと便益

2011-04-26 18:43:46 | Weblog
福島原子力発電所の事故は、その安全性への信頼を失墜させ、
制御不能になった場合の、被害の大きさをみせつけている。
これまで、電力会社も国も安全性を前提にして原子力政策を
進めてきたから、その前提がくずれてしまった事態の収拾は
いちじるしく困難で、高い代償を支払わなければならないだ
ろう。原発の安全神話が崩壊したといわれても当然だろう。

それどころか、「原子力発電は環境にもよい」として、
電力会社も国も原子力発電を過去50年にわたって進めてきた
のであった。
立地している自治体も安全を前提に協力してきた。
「東京のためになぜ福島県民が犠牲に?」
という今回の事態は、
いったん大事故がおきれば、被害が大きく環境にも大きな
マイナスになるということを忘れていたためといえる。

長期的な原子力政策を変更するためには、
冷静になって原子力のコストと便益をかんがえなおしてみる
必要があるだろう。
大事故を想定することにより、原発のコストは上昇し、
利益のほうも被害が大きな分だけ大きく減少することになる。
これまでの火力の半分程度だという原子力優位のコスト計算が、
大事故を想定すると逆転する可能性も十分ある。
少なくとも今回のような被害が想定されるとすれば、
まったく採算があわないだろう。

それでも原子力発電を進めることが、なお必要だとするならば、
大事故をおこさないような対策が低コストで可能なのか、
どれだけ大事故のリスクを小さくできるか、
また被害額を小さくできるかを再計算しなければならない。
経済学的に考えるならば、そういうことになる。(T・K)






食品の風評被害

2011-04-18 11:25:16 | Weblog
東日本大震災から1ヶ月以上が経過し、ようやく復興にむけての動きがでてきたように思います。


しかし、原子力発電所の被害のほうは、いまだに先行きが読めず、
放射能汚染が長期化することが明らかになってきています。
今回の原発事故は、直接の死亡者がでていないとはいうものの、
放射能汚染の収束に1年ほどもかかり、
被害が広範囲に及ぶことが明らかになりつつあります。
政府は最近になってレベル7に引き上げましたが、これは予想外でした。
もちろん発電所は廃炉になり、直接的な被害をうけた周辺市町村の問題は深刻であり、
風評被害と言われる間接的な被害も福島県をこえて日本全体に及んできました。
甘い想定のもとにあった原子力政策は当然見直すべきでしょう。
日本の他の原発も、世界の原発も、想定のレベルは同じようなものだとすると、
原子力への信頼が失われて世界のエネルギー需給さえも変更されかねません。

これまでも、原子力発電の事故のたびに風評被害がありました。
風評被害はまちがった情報によって発生するとされ、
政府が正確な情報を発表しないからだなどと批判されていますが、
実際には、誤った情報によるだけではなく、
放射能汚染の場合には特に、イメージダウンや消費者の不安によって
引き起こされる部分がかなり大きいと思われます。
後者の場合には、たとえ正確な情報を提供しても解消できるものではありません。
たとえば、今、福島県産の米や野菜、関東の魚がうれません。
今流通している米は昨年産の米だから、汚染されていないことが明らかなのに、
茨城や千葉の魚は問題のあるものは出荷されていないのに、すべての魚が売れません。
食品の安全性にかかわるような商品のイメージダウンや不安感が強いとき、
いかに正確な情報を提供しても、正常な価格で取引することは不可能でしょう。


福井県でもかつて事故がありましたし、風評被害も発生しました。
その時は発電所外部への放射能汚染がないことが明らかなのに風評被害が発生したのです。
今度は外部環境が汚染されたのだから、
同じことがもっと大規模に今おきていると考えられます。
被害をうけた農林水産業については、
このことを考慮して被害額を算定し、保障すべきだと思います。
ここまで読んでくれる学生がいるかどうかはわかりませんが、
当研究室の研究課題の一つにしてもよいのではないかと思います。(T・K)