まずはドリフト量がゼロの場合を積分計算します。
但し「時間遅れの割合」を計算したいので予め被積分関数を2πで割っておきます。
(sqrt(1-((20*10^-7*cos 2x)^2+(20*10^-7*sin 2x)^2))-sqrt(1-((10*10^-7*cos x)^2+(10*10^-7*sin x)^2)))/(2pi) をxが0から2πまでの範囲で積分
答えは
1.5*10^-12
但しこの数字は桁落ちしています。
で右上にある「桁数を増やす」ボタンを2回ポチります。
1.500000000001875・・・*10^-12
一応小数点以下15桁の精度で区切っておきます。(注1)
得られた数字を使って44.9時間の飛行時間での時間遅れがどれほどかns単位で計算します。
44.9*60*60*10^9*(1.500000000001875*10^-12)
https://ja.wolframalpha.com/input?i=44.9*60*60*10%5E9*%281.500000000001875*10%5E-12%29
答えは
242.4600000003030375ns
はい、この数字は前のページで求めたものと確かに同じになっています。
つまり「積分は正常に行われた」のです。
さてそれで次は地球がX軸方向にドリフト速度Dで静止系に対してドリフトしていた、とする場合です。
そうすると最初に示した以下の式
(sqrt(1-((20*10^-7*cos 2x)^2+(20*10^-7*sin 2x)^2))-sqrt(1-((10*10^-7*cos x)^2+(10*10^-7*sin x)^2)))/(2pi) ・・・(1)式
のX軸を表す部分が
(20*10^-7*cos 2x)から
(20*10^-7*cos 2x-D)というように変更になります。
したがって(1)式はドリフトした場合は
(sqrt(1-((20*10^-7*cos 2x-D)^2+(20*10^-7*sin 2x)^2))-sqrt(1-((10*10^-7*cos x-D)^2+(10*10^-7*sin x)^2)))/(2pi) ・・・(2)式
というように変わります。
で、前のページで示したようにD=0.001程度がCMBに対する地球のドリフト量となりますので積分対象の式は
(sqrt(1-((20*10^-7*cos 2x-0.001)^2+(20*10^-7*sin 2x)^2))-sqrt(1-((10*10^-7*cos x-0.001)^2+(10*10^-7*sin x)^2)))/(2pi)
となります。
それでおもむろにこの式をゼロから2πまで積分すれば時間遅れの差分が計算できる、話の上ではそうなっています。
で、
桁落ち答えではゼロ
それで「表示桁数を増やす」をポチります。
答えは
1.5000015000035625・・・*10^-12 <--ドリフト0.001
それに対して
1.500000000001875・・・*10^-12 <--ドリフトなしの場合
上記表示では小数点以下6~7位で数字がアップしているのがわかります。
さてこれを例によってnsに直します。
44.9*60*60*10^9*(1.5000015000035625*10^-12)
https://ja.wolframalpha.com/input?i=44.9*60*60*10%5E9*%281.5000015000035625*10%5E-12%29
答えは
242.4602424605758425ns <--ドリフト0.001
それに対して
242.4600000003030375ns <--ドリフトなしの場合
「ハーフェレ・キーティングの第2地球を使った実験」では東回りの飛行機に積まれた原子時計の時間の遅れ量はドリフト量が0.001ありますと、確かに増加しています。
しかしながらその増加量は
≒0.00024ns
であって、これは「ハーフェレ・キーティングの実験の測定精度を超えている」という事がわかります。
つまりは「ハーフェレ・キーティングは北極上空に地球と同じ公転軌道を持っている静止系を設定」し「それがたかだか2日間の間」であれば「円運動している慣性系」ではなく「等速直線運動している慣性系=静止系であるとみなせる」として時間遅れの計算をしました。
それでその場合は「『設定した慣性系=静止系』と地球は同じ動きをしています」ので「静止系に対する地球のドリフト量はゼロ」でした。
それに対して上記の計算は「実は静止系に対して地球は0.001Cの相対速度を持っている」として計算した事になります。
その時に注意すべきは「その場合の計算は地球が静止系に対してどの方向にドリフトしているのか?」という事には関係なくただ単に「ドリフトの大きさだけで計算ができる」と言う点にあります。
なんとなれば「静止系に対して円運動している地球の一周分で積分しているから」です。
さてそのようにして積分して時間遅れ量をだしたのですが、0.001Cのドリフト速度ではドリフトゼロの場合に対してわずかに0.00024nsしか「飛行機の時間と地上の時間の差分」は増加していないのでした。
つまりは「ハーフェレ・キーティングの実験精度」では「ドリフトなしの場合」と「ドリフト速度0.001C」の状況を分離できない、という事になります。
もちろん実験精度をハーフェレ・キーティングの実験の100000倍程に上げる事ができれば「ドリフト速度0.001C」の状況であっても有意差は検出できる事にはなりますが、実際はその精度向上もなかなか難しいかと思われます。
ちなみに誤解してはいけない事は「0.001Cのドリフト速度で生じている時間の遅れ量はかなり大きい」という事です。
しかしながらその効果は地上に置かれた時計と飛行機に積まれた時計の両方に作用する為に「両者の差分をとる事しかできない我々」にとっては0.00024nsの増加分しか認識できないのです。
つまりは「静止系に置かれた時計」に対しては「0.001Cのドリフト速度で生じている時間の遅れ量はそれなりの値になっている」のですが「その値を我々は認識する事が出来ない」のです。
さてコトバでの説明は以上ですが、上の主張を計算で確かめておきます。
地上に置かれた時計に対して0.001Cのドリフト速度が与える時間の遅れ量を計算します。
それは上記で積分した式の後半部分に相当します。
(1-(sqrt(1-((10*10^-7*cos x-0.001)^2+(10*10^-7*sin x)^2))))/(2pi) をxが0から2πまでの範囲で積分
桁落ち回避した答えは
5.000006250005625007・・・*10^-7
nsに直します。
44.9*60*60*10^9*(5.000006250005625007*10^-7)
https://ja.wolframalpha.com/input?i=44.9*60*60*10%5E9*%285.000006250005625007*10%5E-7%29
答えは
8.08201010250909・・・*10^7ns
=80820101.03ns <--ドリフト0.001C(注2)
対してドリフト量がゼロの場合は前ページより
80.82ns <--ドリフトなしの場合
これだけの時間の遅れがドリフト0.001Cによって発生してはいるのですが、これは静止系に置かれた時計に対してであって、この時間の遅れを我々は認識する事はできないのです。
以上の事より分かります事は「地上で暮らす我々にとっては静止系に対して0.001Cで地球がドリフトしていてもそれを検出する事は相当に難しい」という事になります。
そのことは逆にいいますと「それゆえ我々は今までは地上に固定された実験室系を静止系として設定して実験を行って、そうしてまたその様にして解析を行っても不都合は見つからなかった」のでした。
しかしながら今後、実験精度をあげますと「困った状況が見えてくる」=「理論計算値と実測値が合わなくなる」という状況が現れる事になります。(注3)
注1:以下、数値で再確認しておきます。
ドリフトなしでの時間遅れ差分は三角関数展開しない場合は次の様になっています。
sqrt(1-(20*10^-7)^2)-sqrt(1-(10*10^-7)^2)
答えは以下の定数になっています。
(254sqrt(15500031)-3sqrt(111111111111))/1000000
小数点表示にしたいのでもう一度ウルフラムに入れます。
答えは
1.500000000001875・・・*10^-12
はい、一番最初に行った積分の値と同じになりました。
注2:80820101.03nsは0.0808sec
ストップウオッチで計測可能な量ですね。
注3:あるいは「すでに合わなくなってきている、という状況が発生している」のです。
-------------------------------