さてまえのページの説明で物事が終われば話は簡単なのですが、なかなかそうはいきません。
まずは「 Ives と Stilwellの実験(1941年)では横ドップラー効果を測定していない」という事から始めましょう。
この実験では縦ドップラー効果で生じるプラス方向(=周波数が上がる方向)とマイナス方向(=周波数が下がる方向)を同時に測定し、その和をとって「特殊相対論が予測した時間の遅れを検出した」と言うものです。(注1)
そうであればアインシュタインが希望した「特殊相対論の予測=運動するものは時間が遅れる」はこの実験で確認できたのですが、横ドップラーシフトそのものの確認はこのタイプの実験では確認はできてはいないのです。
さてそうであれば「 Ives と Stilwellの実験(1941年)では横ドップラー効果を測定しその結果は赤方偏移を示した」と言う認識は誤りなのです。
しかしながら今ではこの実験結果を横ドップラーシフトの代表例として取り上げ「横ドップラーシフト=赤方偏移」と認識されているのです。(注2)
それに対してアインシュタインは「いいや、静止光源からみれば横ドップラーシフトは青方偏移である」と主張しているのです。
しかしながら今まで「横ドップラーシフトを観測したら青方偏移した」という実験結果は一つも報告されていません。(注3)
これは「光源を静止させて観測者を高速で動かす」という実験方法が技術的にとても難しい、という事に起因しています。
それに対して「光源を高速で動かし、観測者は静止させておく」と言うのははるかにたやすい方法、実際にはいままで行われてきた多くの横ドップラーシフトの測定は、そうやって行われたものでした。
そうしてその結果といいますれば「全て赤方偏移を観測した」のでした。(注4)
さてそうではありますが、だからといって「横ドップラーシフトは赤方偏移である」という主張が正しい、という事にはなりません。
すくなくともアインシュタインは「光源を静止させて観測者を動かした場合、横ドップラーシフトは青方偏移となる」と主張しているのですから。
そうして数少ない観測者を動かす実験では確かに青方偏移を確認しているのです。
そのあたりの話は「相対論的ドップラー効果」 : https://en.wikipedia.org/wiki/Relativistic_Doppler_effect :の「横ドップラー効果」にまとめられています。(注5)
さてそれで「 Ives と Stilwellの実験結果(1941年)」についてはもう一つ指摘しなくてはならない事があります。
ですがページが尽きた様ですので、その話は又次回、という事にしましょう。
注1:この件、詳細につきましては
「アインシュタインの特殊相対性理論(1905年):http://fnorio.com/: https://archive.md/Gl1Hd#3-2-2 :の「2.ドップラー効果」の[補足説明2]および[補足説明3]の下段の記事『実際、Einsteinは1907年に陽極線(カナル線)を用いれば横ドップラー効果を検証できるかもしれないと提案した・・・』以降の記事内容を参照ねがいます。
特に[補足説明2]の(11.23)式はプラス方向とマイナス方向のドップラーシフトの和をとると時間遅れを表す因子sqrt(1-V^2)が現れる事が示されています。
ちなみにこの計算はウルフラムで確認できます。
sqrt(1-x)/sqrt(1+x)+sqrt(1+x)/sqrt(1-x)
「別の形」に答えがでています。
注2:上記(注1)で示したアインシュタインの記事をまとめたfnorio氏も[補足説明3]において『ν’はνよりも小さくなり“赤方偏移”を生じる。これが真の“横方向のドップラー効果”です。』と主張されています。
何故氏が「真の“横方向のドップラー効果”です。」と「真の」と言うような注釈をつける必要があったのか、といいますれば「横ドップラーシフト=赤方偏移である」という認識が氏にあったからであると思われます。
つまりは「横ドップラーの観測では青方偏移を観測する事はない。そうしてもし青方偏移を観測した」のであれば「それは実験のやり方がおかしい」とまで主張できるとする立場に立っておられます。
さて「何故そのよな認識になっているのか?」といいますれば「 Ives と Stilwellの実験(1941年)では横ドップラー効果を測定しその結果は赤方偏移を示していた」し、くわえて「その後の直接、横ドップラー効果を測定した実験でも赤方偏移を示していた」ので「横ドップラー効果を測定すれば必ず赤方偏移を観測する」となっているのです。
注3:実は「青方偏移をという報告はあるのですが、その実験を「横ドップラー効果の実験」と認める事には異論があるのです。
従って「誰もが認める横ドップラー効果の実験」という条件を付けますと「横ドップラー効果の実験ではいまだ青方偏移は観測されていない」となるのです。
注4:同上「相対論的ドップラー効果」 : https://en.wikipedia.org/wiki/Relativistic_Doppler_effect :の「横方向ドップラー効果の直接測定」にまとめられています。
以下、そこからの引用となります。
『横方向ドップラー効果の直接測定
粒子加速器技術の出現により、アイブスとスティルウェルが利用できたものよりもかなり高いエネルギーの粒子ビームの生成が可能になりました。これにより、アインシュタインが最初に想定した方法に沿って、つまり粒子ビームを 90° の角度で直接観察することによって、横ドップラー効果のテストを設計することが可能になりました。
たとえば、ハッセルカンプら。(1979) は、 2.53×10^8 cm/s から 9.28×10^8 cm/sの範囲の速度で移動する水素原子によって放出されるH α 線を観察 し、相対論的近似における 2 次項の係数が 0.52±0.03 であることを発見しました。 、理論値 1/2 と見事に一致しています。[10ページ]
回転プラットフォーム上での TDE の他の直接テストは、核ガンマ線の放出と吸収のための非常に狭い共鳴線の生成を可能にするメスバウアー効果の発見によって可能になりました。[17]
メスバウアー効果の実験では、2×10^4 cm/s程度のエミッターとアブソーバーの相対速度を使用して TDE を簡単に検出できることが証明されています。
これらの実験には、Hayらによって行われた実験が含まれています。(1960)、[p 11] Champeney et al. (1965)、[p 12]、およびクンディッヒ (1963)。[p 3]』
注5:以下、「相対論的ドップラー効果」の引用となります。
『発信元と受信機の両方が、衝突しない経路に沿って均一な慣性運動で互いに接近していると仮定します。横ドップラー効果(TDE) は、
(a)送信機と受信機が最接近点にあるときに発生する、特殊相対性理論によって予測される名目上の青方偏移を指します。または
(b)受信機が送信機が最接近しているとみなしたときに、特殊相対性理論によって予測される名目上の赤方偏移。[5]
横ドップラー効果は、特殊相対性理論の主な新規予測の 1 つです。
科学報告書が TDE を赤方偏移または青方偏移として説明するかどうかは、関連する実験計画の詳細によって決まります。
たとえば、1907 年のアインシュタインによる TDE の最初の説明では、実験者が「運河線」(特定の種類のガス放電管によって生成される陽イオンのビーム)のビームの中心(最も近い点)を観察していると説明されています。特殊相対性理論によれば、移動するイオンの放出周波数はローレンツ係数で減少し、受信周波数も同じ係数で減少 (赤方偏移) します。[p 1] [注 1]
一方、Kündig (1963) は、メスバウアー吸収体が中央のメスバウアーエミッターの周りで高速の円形経路で回転する実験について説明しました。[p 3]
以下で説明するように、この実験的な配置により、クンディッヒによる青方偏移の測定が行われました。』
この説明文は何を言っているのか、といいますれば「横ドップラー効果を青方偏移と計算するか赤方偏移と計算するかは舞台設定による」もっと端的にいえば「光源を動かす」と赤方偏移が出てきて、「観測者を動かす」と青方偏移が計算結果として出てくる、と言っています。
そうしてまた、実際の実験結果もその通りとなっています。
従って「特殊相対論は実験結果を予測し説明できる」という限りにおいて正しい、という事になります。
ちなみに「光源を動かしての横ドップラーテストでは全て赤方偏移を観測した」のですから、前のページで示した「宇宙船Aは赤方偏移を観測する」という結論に変わる所はありません。
前のページでは「横ドップラー効果の実験的な裏付け」として「 Ives と Stilwellの実験結果」を示しましたが、その実験は実は「横ドップラー効果の実験にはなっていなかった」と言うのは上記で示した通りです。
しかしながら「本来の光源を動かした場合の横ドップラー効果の実験結果」も「確かに赤方偏移を観測した」のですから「前のページで示した結論に変わる所はない」のです。