高橋 孝之氏 絵羽「松竹梅」
手描きです
今回、高橋さんの出展作品のほぼすべてが賞をとっていました。
でもそれは確かにそうで、作品はどれも勢いと力にあふれており、
こちらに訴えかけてくるものばかりでした。
「こすもす賞」に決まった作品は、無線友禅といって、
糸目糊で防染をする本友禅に対して、糸目糊を使わずに
筆で直接生地に模様を描いて染める技法で作られたものです。
「その中でも原点の縞」を手描きで。
「最後までまっすぐ引くだけじゃなく、
これは模様の途中でいったん止めて、
また同じ調子で引いていくのが難しかったところですか」
ここしばらく手描きの線描に夢中になっていらっしゃるので、
よろけ縞はなさらないんですかとたずねると
「まっすぐに引くのが気もちいいんでね。
よろけは逆に意図的になっちゃうんだよ。
それにまっすぐでも、ちょっとした手で
色の違いや味わいが出るんです。それがたのしい」
今回各賞を総ナメした線描シリーズにはこんな裏話も。
「おととし初めてこの縞を出したときは、事前審査でハネられたんですよ。
その理由が手描き染めに見えないと。型染か織りか分からない、
江戸小紋と紛らわしいというところまで出た。
これを見て手描きだって分からないのか!とカーっと来ちゃってね(笑)。
それで翌年は途中で縞をねじったりして縞だと分かるようにしたんです」
この論議はけっこうな波紋を投げかけたそうです。
でもさすがは江戸っこ。負けず嫌い。
とはいえ、そのおかげですてきな縞のねじり小紋も、
今回の絵羽も生まれたのだから、終わりよければすべてよしです。
上は、最優秀賞を受賞した
高橋さんの作品「白樺」。
西澤 幸雄氏 帯「蔦(つた)」
小津映画のきものは、ほとんどが浦野利一もの。
当時のおしゃれな女性の憧れのきものでした。
鬼シボ(古代ちりめん)のたっぷりした質感に
ダイナミックな蔦がいっぱいに。
2007年につづき、二度目の受賞です。
「ちょっと変わっていて、着やすそうなものというところを
狙いました。配色にもこだわりました」
西澤さんの作品の特長は何といっても素材です。
西澤さんは、今ではなかなか染め帯では
お目にかかれない古代ちりめん一筋。
シボの高いちりめんです。
「たっぷりの古代ちりめんだけを二十年来使っている」
というのですから相当です。
「古代ちりめんは同じ色を使っても、
深みのある色が出るんですよ。その魅力にとりつかれたんですね。
九十九パーセント、生地はこれです」
審査会で賞を決める際の札入れは早い者勝ちなのですが、
この「蔦」は『きものサロン』副編集長から寸での差で勝ちとりました(!)。
色の美しさにも魅せられます。
西澤さんご自身がすきだという「藍でもない紫でもない」地色は
「他に何の色をもってきても映りがいい」。
実際、この蔦の葉には黄色やモスグリーン、
そして白が部分的に射されているのですが、
その洗練された美しさははっと人を惹きこむのです。
「濃淡はっきりした色味がすきです。
だけど原色ではなくてね。能衣装の生(ナマ)の色を
ちょっと殺すっていうのかな。
わりと好みがはっきりしているので色では迷いません」
小津安二郎監督作品の衣装きものを
担当していたことでも有名な先代の浦野理一氏とは、
ずっと一緒に雑誌『ミセス』掲載用の作品づくりを
なさっていたそうです。
「浦野さんとはけんけんごうごうやりあってましたが、
あの人の影響ってのはずっと受けています」