【犬】ケン(呉・漢)/いぬ
【狗】ク(呉)コウ(漢)/いぬ
【戌】ジュツ(慣用)シュチ(呉) シュツ(漢)/いぬ
【犬】quan3
<引用はじめ>
ニワトリはケーケーと鳴くので鶏(ケイ・唐代には kei)といい、カラスはアーアーと鳴くので鴉(ア・唐代には a1)という。トラはおそろしい声でホーホーとほえるので虎(コ・唐代には ho)と呼ぶし、キツネはクワクワと叫ぶので狐(コ・漢代には hua)という。してみると、イヌを犬(ケン)と称するのは、いうまでもなくそれがケンケン(k'uen)と鳴くからだ、と考えてよい。犬(ケン)ということばは、いわゆる擬声語なのである。
『漢字の話Ⅰ』(藤堂明保・朝日新聞社)
<引用おわり>
■解字
象形。いぬを描いたもの。
■意味
(1)いぬ。獣の名。家畜。猟犬・番犬・愛玩用、さらに食用として古くから飼われた。
(2)いぬ。牛・馬・ぶたなどとともに、つまらぬもののたとえ。
▽自分を卑下し、他人に使役されるものという意を含めていう。「犬馬之労」
※動物のうち、もっとも早くから人間の生活の中にとけこんだのがイヌであった。だから犬という字が変形して?(けものへん)となり、それは猫、狸、猿など、およそ小型の動物一般を表す記号となった。
そのかわりに、身近なだけに人間の生活の犠牲とされたのもイヌである。
今から三千数百年前の商(殷)の時代の建物の下には、必ず地鎮祭のためにイヌを犠牲として埋めてある。
また、今から二千年前の漢の時代には、風よけのまじないとして、犬の皮を風に面して張るという習慣があった。
※「戌の神は風伯である」『風俗通儀』
※「犬×3+風」の「飆」(ヒョウ)は、つむじ風のこと
【狗】gou3
現在の北京語では、イヌのことを狗(コウ・gou3)という。イヌの肉は「狗肉(gou3・rou4)といって、たいていのレストランのメニューにある。年末に河南省で少々味見することになったが、おいしい部類に入るだろう。ただし、「羊頭狗肉」というように、おいしさは羊が筆頭。ただ、河南省で有名な「ロバのスープ」は珍味で、フカヒレや燕の巣のスープなどとは比較にならないほどおいしい。以上は余談。
「狗」で思い出すのは、秦の始皇帝暗殺を依頼されたあの荊軻。その友人の一人が高漸離であるが、もう一人は名前が記載されず「狗屠(クト)」(イヌをあつかう肉屋さん)と記されている。
この三人は、心底わかりあえる友達で、市中で酒を飲んだりすると、高漸離が筑をうち、荊軻がこれに和して高らかに歌い、感情が高ぶると三人で大声で泣いた。このような状況を「傍若無人」(かたわらに人なきがごとし)といった。あまりに心が通い合うので、自分たちの周囲の人々の目を気にする余裕もなく、感情を自然に吐露したのである。ただし他人に迷惑をかけたわけではない。荊軻なきあとの高漸離の行動は・・・。ぜひ、『中国任侠伝』「荊軻、一片の心」(陳舜臣・文春文庫)をご覧ください。
他にも、この「狗」ということばは、
※「狡兔死、走狗烹=狡兔死して、走狗烹らる」という人口に膾炙した成語があるが、あの韓信のことばは「狡兎死、良狗亨。高鳥尽、良弓蔵。敵国破、謀臣亡。」
狡兎(こうと)死して 良狗(りょうく)亨(に)られ
高鳥(こうちょう)尽きて 良弓(りょうきゅう)蔵(おさ)められ
敵国破(やぶ)れて 謀臣(ぼうしん)亡(ほろ)ぶ
ただし、こう気づいたときはもう遅かった。
この「狗」という字は、ろくな熟語に使われない。「鶏鳴狗盗」のように、こそ泥のことを「狗盗」といい、悪者の手下を「走狗」という。あげくのはてには「狗種!」という罵りことばも生み出され、「狗屁!」「狗屎!」というのも使われるそうだ。
■解字
会意兼形声。「犬+音符句(小さくかがむ)」。
■意味
いぬ。愛玩用のこいぬ。
▽後世には、いぬの総称となった。いやしいもののたとえとして用いることがある。
※およそ小さく曲がったものを「句」と称する。「句」は、口じるしをかぎ型で「」のように区切ったことを表している。言葉や文章を句切るかぎかっこを「句」といい、小さく曲がった釣針を「鉤」という。だから「狗」とは、もとせまく区切った小屋に入れられて、丸く体を曲げた小犬のことである。それがかわいい飼い犬という意味となり、やがて広くイヌ一般を意味することとなり現代の北京語で使用されるにいたった。ちなみに文章を句切る小さく丸い点を句点という。
久しぶりに書込をすると、例によって「なぐりがき」をしただけなのに、疲れてしまった。「戌」については、次回にまわします。できれば下記のURLも参照してくださいね。
■十干十二支 -- 干支(えと・かんし)
■鳥 隹 酉(とり)干支(えと) ─ 漢字家族
■子(ね)-- 干支(えと)漢字家族
■牛 丑 うし ウシ
■虎・寅・とら・トラ
「♪いぬに棒」ですよね w
お隣の国のK国はオリンピックを堺に犬肉を食べない事に成っています。
しかし、裏通りに行けば犬の形状そのままの
形で売っているようです。
しかし、漢字の表現は「狗肉」に成っています。
狗と犬の違いはなんでしょうか?
K国は習慣的に狗を使っているんでしょうか?
私は愛玩用が「犬」。食用が「狗」と解釈
しましたが、如何思われますか?
ご教授願います。
なんということでしょう! (^^;
致命的なミスですね。
ご指摘ありがとうございました。「お節介」どころか、誠にお恥ずかしいかぎりです。
このブログもずっと「管理人不在」でした。心より御礼とお詫びを申し上げます。
>私は愛玩用が「犬」。食用が「狗」と解釈
しましたが、如何思われますか?
たあーさん、投稿ありがとうございます。resが遅くなりましたが、漢字の本場の中国で使われている用例も聞いてみます。
たとえば中国では、イヌのことは通常はペットでも食用でも「狗」だそうです。自分の子どものことを謙遜していうばあいに「犬子」ということがあるそうですが、文章で表現するときに「犬」と表記する以外、日常生活では「犬」は使われないということです。中国人に教えてもらいました。
凄く助かりました!!
ありがとうネ!