金沢発 あれやこれや

-ヒントをくれる存在に感謝しつつ物語をすすめます-

発火

2009-04-12 18:56:53 | 燃えだす人
薄明かりの先は別世界が広がっていた。
彼は一歩あゆむごとにその場所での記憶を思い出していた。
元はこのフィールドの主に仕える童子のひとりで、
地上で人間に転生していた時、事件に巻き込まれたのだ。

彼は主の名を思い出し呼んだ。
「カノンさま」

しばらくして重い口調の声が応えた。
「さきほどからお前の身体に生じている異常を調べている。
 悪い予感がしたので、人間に転生中のお前をここに
 引き寄せたのだが、こんな身体になっているとは。」
「見た目は変わらないが、体内の水分がかなり減っている。
 生体組織が作り変えられ、炭のように変わろうとしている。
 火をつけたら引火してしまうだろう。
 生体ウイルスが使われたようだ。」
カノンが彼に次の言葉をかけようとした時、彼は熱気を感じた。
ふと目をやると、自分の手が発火して燃え出していた。
「ああ、熱い。助けて」彼は絶叫した。

「気をしっかり持ちなさい。お前の身体は全身が石炭化し
 すでに痛みを感じることも無くなっている。
 あたふたすることで、さらにウイルスを周りに広める
 たちの悪い生体テロだ。苦しいだろうけど落ち着いて。
 私が両手で抱えていてあげるから。」
残りの童子が彼を囲んで、火を消そうと水をかけたり
草で払ったりしたが普通の火ではないようで、あっという間に
全身に火がまわり、しばらくして灰となって粉々に散った。
カノンの両手のうちには抱えられた彼の魂が残った。
「大変な目にあったわね。しばらく安静にするといいわ。
 皆で看病してあげなさい。」
残る9人の童子らはいっせいに駆け寄り、彼をふとんに寝かせ、
医者、看護婦、祈祷、まじないなど9人9様に看病を始めた。

「さて、王子を呼ぶべき事態が起きているのかのう。」
カノンは、精神を集中し地球の隅々まで探索し始めた。

<2007年10月1日発表稿の見直し>
コメント
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