闇サイト殺人事件 名古屋地裁判決(神田司・堀慶末被告に死刑 川岸健治被告に無期)要旨 2009/3/18  

2009-03-19 | 死刑/重刑/生命犯

闇サイト殺人事件、判決の要旨
 「闇サイト殺人事件」で、神田司(38)、堀慶末(よしとも)(33)両被告を死刑、川岸健治被告(42)を無期懲役とした18日の名古屋地裁判決の要旨は次の通り。
 【量刑の理由】
 本件は、3被告が、帰宅途中の会社勤めの若い女性を営利目的で略取し、乗用車内に拉致、監禁して金品を強奪し、暴行脅迫を加えて銀行のキャッシュカードの暗証番号を聞き出し、殺害して死体を遺棄し、預金を引き出そうとするなどした事案である。
 3被告は、それぞれ金もうけの種を探す目的でインターネット上の掲示板を利用していたが、川岸被告が同サイトに書き込みをしたことをきっかけに知り合い、楽をして金もうけをする手段として強盗などの様々な犯行計画を話し合っていた。犯行は、3被告がそれぞれ強い利欲目的にのみ基づいて行ったもので、動機に何ら酌量の余地はない。
 本件犯行は、3被告がインターネット上の掲示板を通じて集まり、犯罪を計画し実行したという点に特色がある。素性も知らない者同士が互いに虚勢を張り、悪知恵を出し合うことで、1人では行えなかった凶悪、巧妙な犯罪が実行可能となる危険があるが、本件はこの種の犯罪が持つ危険性がまさに現実化したもので、悪質性はきわめて高い。匿名性が高く、仮に犯行後、集団が解消され、それぞれが連絡手段を断ってしまえば、犯罪者を発見し、捕らえることは著しく困難になると予想され、犯罪が模倣されるおそれも高い。このような犯罪は誠に悪質であって、社会の安全に与える影響も大きい。3被告の刑事責任は極めて重く、一般予防の必要性も誠に高い。
 3被告は「殺さないで」「話を聞いて」と哀願した被害者の必死の命ごいにも耳を貸すことなく、ハンマーで頭部を約30回も殴るなどして殺害を遂げており、無慈悲、凄惨(せいさん)で残虐というほかなく、想像するだに戦慄(せんりつ)を禁じ得ない。
 被害者を拉致した後、どのように殺害するかなどについて具体的、詳細な計画までは定められていなかったが、計画自体が通行中の女性を物色して襲おうというものであり、具体的、詳細な方法は成り行きに任せざるを得ない部分があることは当然で、最後に被害者を殺害するという点は当初の計画どおりに実行された。より綿密詳細な計画が立てられていた事案と比べ、刑の選択を分けるほど有利にすべき事情があると解するのは相当ではない。
 被害者が必死の思いで3被告からの理不尽な犯行に耐え、何とかして生きて帰ろうとする中で味わったであろう恐怖、苦痛、絶望感はいかばかりかと思われる。尊い生命が卑劣な犯行によって絶たれ、豊かな将来も無残に奪われたのであり、被害者の感じた無念さを言い表す言葉を見いだすことはできない。
 また、被害者の母親にとって、被害者は生きがいであり、宝であり、理不尽な犯行で失った苦悩を当公判廷で述べ、被告全員に対し、極刑を求める旨のしゅん烈な処罰感情を表明しているのは当然である。被害者の母親とともに被害者の成長を見守ってきた伯母や交際相手の男性の悲嘆、無念さも察するに余りある。
 殺害行為について、神田被告の果たした役割は計画段階においてほかの2被告よりも大きく、最も積極的に実行行為に及んでいるが、ほかの2被告も、自らの目的を満たそうとする側面が強かったと認められる。3被告の間に、量刑上、特に刑の選択を分けるほどの差異を設けるべき事情はない。
 川岸被告の自首は、神田被告らに腹を立てたことによると解するのが相当だが、自首しなかった場合、捜査は相当難航したことも予想される。次の犯行が行われた可能性が否定できないことを考慮すれば、量刑要素として大きく評価することができる。
 インターネットを通じて形成された犯罪者集団が遂行したこの種の犯罪は、社会の安全にとって重大な脅威というほかなく、厳罰をもって臨む必要性が誠に高い。殺害の態様においても極めて残虐であり、遺族の被害感情などを考慮すれば、殺害された被害者が1人であることなどを最大限に考慮しても、極刑をもって臨むことはやむを得ない。しかし、川岸被告は犯行後、短時間で自首し、神田、堀両被告の逮捕に協力しており、極刑をもって臨むには躊躇(ちゅうちょ)を覚えると言わざるを得ない。(2009年3月18日23時04分  読売新聞)
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自首減刑に納得せず、母親「控訴を」…闇サイト殺人判決
 名古屋市の契約社員、磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)が2007年8月、インターネットの「闇サイト」で知り合った3人組の男に拉致、殺害された事件で、名古屋地裁(近藤宏子裁判長)が18日、2被告を死刑、1被告を無期懲役とした判決に、磯谷さんの母、富美子さん(57)は控訴を求める意向を明らかにした。
 「人を殺しても、『ごめんなさい』と自首すれば、自分の命は守れるのか。それっておかしい」
 閉廷後、名古屋市内で行われた記者会見で、富美子さんは、無職川岸健治被告(42)のみ自首したことで量刑を考慮され、無期懲役となったことを厳しく批判。「控訴していただくよう検事さんにお願いしに行きます」と語った。
 死刑を言い渡された2被告のうち、愛知県豊明市、元新聞セールススタッフ神田司被告(38)は同日、控訴した。
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 3被告が出会うきっかけとなった「闇サイト」を利用した犯罪は、今回の事件以降も後を絶たない。
 07年12月には、闇サイトの掲示板で仲間を募り、交際していた女性を拉致しようとした岐阜県の男らが同県警に逮捕され、主犯格の男は、磯谷さんが殺害された事件を参考にしたと供述した。昨年4月には、闇サイトを通じて集まった中国人らが、偽造のクレジットカードを使って電化製品をだまし取ったとして、警視庁などに逮捕された。
 全国の都道府県警に昨年寄せられた、ネット上の違法情報や有害情報に対する相談件数は計約4000件で、前年(約3500件)より約15%増加。各都道府県警は、違法情報の書き込みをした者だけでなく、情報を放置しているサイトの管理者の責任も厳しく追及する方針をとっている。(2009年3月19日01時10分  読売新聞)
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<毎日新聞中部>
曲がり角で:18日・闇サイト殺人判決/上 意思疎通なき寄せ集め集団
 名古屋市千種区の派遣社員、磯谷(いそがい)利恵さん(当時31歳)が07年8月、拉致・殺害された事件で、強盗殺人などの罪に問われた3被告の判決公判が18日、名古屋地裁(近藤宏子裁判長)である。検察側は3被告全員に死刑を求刑。携帯電話の闇サイトで結び付いた3被告の異様な関係や変わる司法制度、刑の厳罰化など、時代の曲がり角を映し出した特異な事件の審理を追った。【秋山信一】
 ◇責任なすり合い 遺族「まるで10代の子」
 「こうやってがん首並べとるのは、お前らが悪いんじゃ」。08年11月7日、名古屋地裁2号法廷で行われた被告人質問の途中で、川岸健治被告(42)が突然声を荒らげた。神田司被告(38)がにらみつけると、川岸被告は「ガンをつけとんな」と畳み掛けた。堀慶末(よしとも)被告(33)は下を向いた。検察幹部は法廷の3人を「事件を人ごとと思っている現代的な犯罪集団」と表現した。
  ■    ■
 3人が初めて会ったのは07年8月21日。闇サイトで「愛知県の人で何か組みませんか」と誘った川岸被告に、他の2人が応じた。3人のうち川岸被告は「山下」、堀被告は「田中」と偽名を使った。
 神田被告は当時新聞販売店、川岸被告は直前まで家電製造工場に勤務。06~07年ごろにそれぞれ闇サイトを悪用した別の詐欺事件で執行猶予付き有罪判決を受けたが、金欲しさからサイトへの書き込みや閲覧を続けていた。堀被告が閲覧を始めたのは07年6月。外装工事の仕事を辞めて趣味のダーツにのめり込み、400万円以上の借金を抱えていた。
 3人は犯罪歴を誇示し合い、強盗を計画する中で相手を殺害することも「仕方がない」と虚勢を張った。3日後、路上で物色を重ね、最後に目に留まった磯谷さんを襲った。
 東海学院大の長谷川博一教授(犯罪心理学)は「初対面の仲間は互いの力関係を探って駆け引きするので、何が起きるか分からない。暴力的な方向に出れば冷静な判断ができなくなる」と指摘する。  ■    ■
 法廷で神田被告は闇サイトを悪用した一連の犯罪行為を「仕事としてやっていた」と述べ、川岸被告は自分たちの殺害場面を「サスペンス劇場を見ている感じだった」と表現。神田、堀両被告は互いに「相手が殺害を提案した」と主張した。
 裁判長がみけんにしわを寄せる場面が増え、証言の際に涙を見せた堀被告にさえ「他人のせいばかりにして本当に反省しているんですか」と厳しく問いただした。3人の弁護人は被告が語る言葉の軽さなどから逆に「寄せ集めの集団で、意思の通じ合いがない行き当たりばったりの犯行」と計画性を否定し、死刑回避を訴えた。
 傍聴を続けた磯谷さんの母富美子さん(57)は「まるで10代の子のよう。常識や感覚が違いすぎる」と話す。公判最後の意見陳述で、川岸、堀両被告は初めて謝罪の言葉を述べ、傍聴席の遺族に頭を下げた。富美子さんは目をそらした。
 ■ことば
 ◇闇サイト殺人事件
 起訴状によると、携帯電話の闇サイトで知り合った3被告が07年8月24日夜、名古屋市千種区の路上で帰宅途中の磯谷さんを拉致。25日未明、愛知県愛西市の駐車場で磯谷さんの頭をハンマーで殴り、粘着テープを顔に巻くなどして殺害し、現金約6万2000円が入ったバッグを奪ったとされる。
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18日・闇サイト殺人判決/中 被害者の「無念」代弁
 ◇存在感増す遺族 情緒面強調に疑問も
 2960。拉致された磯谷利恵さん(当時31歳)は川岸健治被告(42)ら3人に脅され、銀行口座の4ケタの暗証番号を教えた。磯谷さんを殺害した後、川岸被告が愛知県知立市内のATM(現金自動受払機)で預金を引き出そうとするとエラー表示が出た。「命をとられてまで、うそをつくはずがない」。もう一度キャッシュカードを差し込んだが、同じだった。
 「語呂合わせで『憎むわ』という意味です」。08年12月8日の第13回公判に証人として出廷した母富美子さん(57)が検察官の質問に答えた。続けて「(磯谷さんは)誰に一番伝えたかったのか」と問われ、富美子さんは正面の裁判官席を見据えた。「裁判官の皆様ではないでしょうか」
 名古屋地検は事前にこれを他言しないよう富美子さんに口止めまでしていた。幹部は「(暗証番号は)被害者の無念さを象徴するキーワード。一番ふさわしい人に言ってもらった」と明かす。
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 法廷での犯罪被害者や遺族の存在感が増している。被害者らが公判を優先的に傍聴する権利などを記した犯罪被害者保護法は00年11月施行。08年12月には被害者らが被告に直接質問したり、量刑意見を述べられる被害者参加制度が始まった。
 闇サイト事件が起きたのは制度導入前だったが、検察側は制度を先取りし、公判前整理手続きの段階から期日ごとに内容説明するなど遺族に配慮した。法廷では、磯谷さんの幼少期から事件直前までの16枚の接写写真をスライド上映。富美子さんによると、検察側は「よりきれいな姿を証拠にしたい」と撮り直しもする熱の入れようだったという。
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 証人の富美子さんに検察側の質問が続く中、3被告の弁護人の一人は質問をためらっていた。3被告に極刑を求める署名活動をした趣意などを確認したかったが「被害感情を刺激する恐れがある」と感じた。結局、親族らも含めた5時間の証人尋問で、弁護側は沈黙を続けた。
 「利恵ちゃんが残したメッセージはきちんと裁判官に届けました。31万5876人というたくさんの人が、極刑に賛同してくださいました」。1月20日の論告求刑公判で、富美子さんは署名活動の結果も報告した。傍聴席で女性がもらい泣きしていた。
 「犯罪事実と直接関係がない情緒的な面を強調する立証が、本当に望ましいのだろうか」。検察側のペースで進む法廷で、弁護人の疑問は膨らんだ。【秋山信一】
 ■ことば
 ◇犯罪被害者の司法参加
 00年11月の犯罪被害者保護法施行と同時に刑事訴訟法も改正され、被害者や遺族が法廷で被害心情について意見陳述できるようになった。04年12月には、被害者らを支援する施策の実施義務を国や自治体に課した犯罪被害者等基本法が成立。08年12月には被害者参加制度が始まった。
毎日新聞 2009年3月15日 中部朝刊
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18日・闇サイト殺人判決/下 被告の父も「極刑妥当」
 ◇変わる死刑基準「最後は裁判官の心証」
 「異議があります」。08年12月19日の第16回公判で、検察官が神田司被告(38)の父親(72)に「どんな刑が適切か」と尋ねると、弁護人がすかさず「意見を求めるのは不適切だ」と撤回を求めた。既に遺族が何度も極刑を訴えており、父親まで極刑と言えば情状面で不利になる。だが裁判長は異議を退けた。父親は「極刑が妥当じゃないかと思います」と息子を突き放した。
 弁護人の一人は「検察側は公判の早い時期から死刑求刑を意識していた」とみる。公判の最大の争点は、一貫して「死刑の適否」だったといえる。
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 死刑の適否を争う事件では「永山基準」と呼ばれる9項目の判断基準が必ず引用される。基準の一つが「結果の重大性(特に殺害の被害者の数)」だ。
 日本弁護士連合会によると、永山判決(83年7月)以降、被害者1人で死刑が確定した被告は26人。身代金目的誘拐や仮釈放中の事件が大半を占める。被告が3人で全員の死刑が確定した例はない。
 一方、04年の刑法改正で殺人罪などの法定刑が引き上げられるなど厳罰化が進む。死刑確定者数は89~03年に年1けただったが、04年以降は2けたに増え、07年は永山判決以降で最多の23人に上った。08年5月の長崎市長射殺事件の1審判決は「選挙を妨害し、民主主義の根幹を揺るがした」として被害者1人でも死刑を選んだ。
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 「今は死刑か無期かの判断基準が分からなくなっている」。94年に愛知など3府県で4人が殺害された連続リンチ殺人事件で、強盗殺人罪などに問われた元少年=上告中=の弁護を担当した村上満宏弁護士はそう語る。3被告のうち元少年ら2人は1審で「追従的な立場だった」として無期懲役だったが、2審では死刑となった。
 闇サイト事件では、川岸健治(42)、堀慶末(33)両被告とも「神田被告が殺害を主導した」と訴えている。だが、村上弁護士は元少年の例から「従犯でも積極的に殺害に関与すれば死刑になりうる」とし「行き当たりばったりの犯行」との弁護側の主張に対しても「最近は統制がない集団こそ厳罰にする傾向にある」と指摘する。さらに遺族が極刑を求めて集めた署名に触れ「(処罰感情の)厳しい遺族がいれば判決も厳しくなる」と話す。
 遺族は「3人への死刑判決を聞きたい」と望む。弁護人は「死刑なら基準から一歩も二歩も踏み込んでしまう」と懸念する。ある検察幹部は言う。「最後は裁判官の自由心証だ」【秋山信一】
 ■ことば
 ◇永山基準
 最高裁が83年7月、連続射殺事件の永山則夫元死刑囚への判決で示した。(1)事件の罪質(2)動機(3)態様(特に殺害手段の執拗=しつよう=性・残虐性)(4)結果の重大性(特に被害者数)(5)遺族の被害感情(6)社会的影響(7)犯人の年齢(8)前科(9)事件後の情状--を総合的に考慮し、責任が極めて重大でやむを得ない場合に死刑選択が許されるとした。


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