在外邦人救出、陸上輸送も可能に 自衛隊法改正案を決定 / 野党の理解を得る見通しは立ってない

2013-04-19 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

在外邦人救出、陸上輸送も可能に 自衛隊法改正案を決定
共同通信 2013/04/19 09:25
 政府は19日午前の閣議で、緊急時に在外邦人を救出するため、自衛隊による陸上輸送を可能とする自衛隊法改正案を決定した。これまで飛行機と船舶に限定していた在外邦人の輸送手段に、車両を追加した。政府、与党は今国会中の成立を目指すが、参院で多数を占める野党の理解を得る見通しは立ってない。
 1月のアルジェリア人質事件を受けて、自民、公明両党が法改正を検討。3月に安倍首相に提言した。自衛隊の任務拡大に伴う武器使用基準の緩和に関しては、公明党が慎重姿勢を示したことから見送られた。
 陸上輸送のための車両は、装甲車などが想定されている。
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日本「金払うから…」でいいのか 邦人救出へ自衛隊法改正を急げ 2013-01-30 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 日本「金払うから…」でいいのか 邦人救出へ自衛隊法改正を急げ
 産経新聞2013.1.30 03:19 [正論]帝京大学教授・志方俊之
 アルジェリアの人質事件への対応は、007で有名な軍情報部第5班(旧称MI5)を持つ英国ですら手遅れだったのだから、わが国の国家的な情報、対応能力で何ができただろうか。アルジェリア政府が関係諸国と人質解放に関して何ら調整せず、直ちに武力制圧に踏み切ったことを平和な東京から非難しても始まらない。
 ≪邦人輸送に非現実的条件3つ≫
 いまなすべきは、犠牲になった10人の日揮関係者が尊い命に代えてわれわれに残した教訓を分析して、国家と企業の国際的な危機管理能力を強化することだ。
 今後、海外で邦人が危険に遭遇する機会はますます増える。危険地で個々に活動するジャーナリストやボランティアの場合も、多数の人々が働く進出企業の場合もある。ペルー大使館事件のように在外公館が襲撃されるケースや、地域全体が危険になり在外邦人全員を緊急に退避させなければならないケースなど多様である。
 在外邦人の緊急退避で人数が少なければ、最寄りの在外公館や警察庁の「国際テロリズム緊急展開班(TRT-2)」が現地の救出活動に協力することもある。人数が多ければ、自衛隊を派遣して輸送(自衛隊法第84条3)させられることやその際の権限(同法第94条5)も規定されている。
 だが、問題は現行法に大きな制約が課されていることだ。
 第1に、外務大臣の依頼が必要であること、輸送の安全が確保されていること、自衛隊の受け入れに関わる当該国の同意を要すること、という3つの前提が満たされるときに限定されている。
 外務大臣の依頼は当然だが、現地で輸送の安全が常に確保されているとは限らない。そもそも安全が確保されていないからこそ、邦人の緊急避難が必要になるのだ。当該国が混乱して自衛隊の受け入れに同意しない最悪の状況も考えておかなければならない。
 「行動権限」も極めて非現実的な範囲に限られている。自衛隊の行動はあくまで「輸送」であって「救出」はできない。使用する輸送手段も輸送機(今回は政府専用機)、船などに限定され、陸上輸送は想定外となっている。
 ≪ついでに助けての小切手外交≫
 輸送の安全が確保されているのは、緊急避難が極めて早期に発令されてまだ現地が安全な場合か、現地に危険があっても、当該国や他国の部隊が在外邦人を安全な空港や港湾まで輸送してくれる今回のような場合か、である。
 邦人が輸送されて安全な空港や港湾に集まっているのなら、自衛隊の航空機や艦船が迎えに行くまでもなく、民間航空機か、チャーター機が迎えに行けばよい。今回は、迅速性を重視した政府の特別判断で政府専用機(航空自衛隊が管理・運航)が使われた。
 多くの邦人が危難に直面する場合、邦人だけが大挙して緊急避難することはほとんどなく。多国籍の避難者多数がその場にいることが多い。そうした状況下では、避難者の多い関係国が、協働・調整・協力して救出活動や輸送活動をするのが国際常識である。
 緊急避難すべき外国人の中で在外邦人がかなり多いと、現地の日本大使や領事、防衛駐在官は関係国の担当者と会談して、次のような交渉をすることになる。
 「日本の国内法で、自衛隊は安全が確保された地域での海空の輸送に限った任務しかなく、救出に当たれない。申し訳ないが、貴国の避難者を救出するついでに日本人も救出して安全な所(空港や港湾)まで運んでいただきたい。経費と礼金は必ず支払う。そこから先の輸送は自衛隊が行う」。まるで「小切手外交」である。
 ≪国際非常識の武器使用権限≫
 わが国特有の制約はもう一つある。現場での自衛隊の武器使用権限を極端に制限していることだ。輸送の安全が確保された場所で航空機や船舶を守るため、保護下に入った邦人などを航空機や船舶まで誘導する経路で襲撃された場合に限り、正当防衛・緊急避難としての武器使用が許される。
 テロ集団と銃火を交え、自国民だけでなく日本人も救い出し安全な場所まで警護してくれた諸外国の避難者が、空港などの別の地点で襲撃されているのを見ても、自衛隊は自国の避難者と保護下に入った者を経路上で守るためにしか武器を使用できない。恩ある国の避難者を見殺しにして国際的な顰蹙(ひんしゅく)を買っても、である。
 根底には、集団的自衛権の行使に関わる問題や憲法上の自衛隊の位置づけに関わる問題もあって、憲法改正には時間を要するが、第二、第三の人質事件はそれを待ってくれない可能性がある。
 輸送の安全の確保を避難措置の要件としないこと、外国領内での陸上輸送も含めること、避難を妨害する行為の排除に必要な武器の使用を認めることである。そのための自衛隊法の一部改正は喫緊の課題だ。今回の人質事件は、それを悲痛な形で教えてくれた。
 参院選などが理由となって、自衛隊法の改正が遅れることがあってはならない。国民の生命を守れない政治は政治ではない。(しかた としゆき)
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〈来栖の独白 2013/01/30 Wed. 〉
 正論である。同様のテーマを扱った中日新聞のコラムは的外れであり、まったく意味をなさない。
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アルジェリア人質事件と自衛隊法改正  中日新聞 【核心】 2013-01-27 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
 自衛隊法 便乗で改正? アルジェリア人質事件
 中日新聞 【核心】2013/01/26
 日本人十人の犠牲が確認されたアルジェリア人質事件を受け、政府・与党は、邦人保護のため海外での武器使用基準を緩和するなどの自衛隊法改正や国家安全保障会議(日本版NSC)設置などを目指そうとしている。浮上している案は、自衛隊法改正を筆頭に、タカ派とされる安倍政権がもともと公約として実現をさせようとしていたものが多い。事件に「便乗」して世論を誘導しようという思惑も透けて見える。(政治部・金杉貴雄)
邦人保護に「陸上活動必要」 武器使用緩和 目的の恐れ
■非現実的
 「海外の最前線で活躍する企業・邦人の安全を守るため、必要な対策に政府一丸で迅速に取り組んで欲しい」。安倍晋三首相は二十五日、事件対策本部で、事件の検証と対応策の検討を指示した。
 事件発生後、政府・与党から「課題」として真っ先に声が上がったのは「邦人保護、救出」をできるようにするという自衛隊法改正だ。
 現在の自衛隊法では海外での災害、騒乱などの緊急事態の際、邦人を航空機や艦船での輸送はできるとしているが、陸上輸送の規定はない。陸上輸送を可能にし、そのために海外での武器使用制限を緩和する法改正を検討すべきというのが、改正を求める代表的な意見だ。
 しかし今回の事件では現行法に基づいて、政府専用機を首都アルジェに派遣した。安全性の確保や滑走路の状況などの条件が揃えば、事件現場近くのイナメナスの空港にも自衛隊機が行うことも可能だった。
 武器使用基準を緩和しても、活動する武装勢力や現地の情報もないまま、自衛隊が事件現場近くの陸上で活動するのは非現実的だ。
 このため「事件を契機に、これまで憲法との関係で禁じられてきた海外での武器使用を緩和するのが目的ではないか」との指摘も上がっている。
■機動性に疑問
 NSC創設についても事件後、必要性を強調する声が上がっている。菅義偉官房長官は二十二日の記者会見で、「今日までの対応の中でNSC設置は極めて大事だと思っている」と述べた。
 NSCは、外交・安全保障政策の企画を官邸に一元化させることを狙いとした組織。第一次安倍政権でも設置を目指したが、実現していない。安倍首相は、事件前から仕切り直しを目指し、有識者を交え検討を始める考えだった。
 だが、今回の事件との関連でいえば、官邸内部からも「危機管理は現在、首相、官房長官、危機管理監などの縦の命令系統で対処している。NSCのような合議体では、逆に機動的に対応できないのでは」(首相周辺)と疑問視する声もある。
■焼け太り
 事件では、情報収集力の不足が指摘されたため、防衛駐在官の増加を含め、在外公館の人員体制を強化すべきだとの意見もある。
 だが自民党幹部からも「体制を十倍にしてもテロ事件を未然に察知、予防することは困難。事件のたびに役所は体制強化を主張し、焼け太りになるパターンだ」と懐疑的な見方もある。
 安倍首相は二十二日のテレビ番組では、「事件を利用し(自衛隊法改正などの)法律を通そうとの考えは毛頭ない」と予防線を張るが、政府高官は「事件の検証では自衛隊法改正も含め、幅広く検討する」と、事件を追い風にしようという意欲を隠さない。
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〈来栖の独白2013/01/27 Sun. 〉
 中日〈東京〉新聞は、浅薄な左翼に成り下がった。光市事件の元少年被告(死刑確定囚)の実名報道を控えるなど、優れた面も垣間見られるのだが。
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日本は、専門家でさえも他人事のように自国の主権・領土に関わる問題を語る/地球市民を気取っている 2012-10-14 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
【産経抄】10月14日
産経ニュース2012.10.14 03:03
 チベット文化研究所名誉所長のペマ・ギャルポ氏が月刊誌『教育再生』に巻頭言を寄せている。「中国の侵略主義に対抗する政策」という、領土問題での日本人へのアドバイスである。中でも興味深いのは、領土や主権に対する日本人と中国人の意識の違いだ。▼中国では徹底した領土拡張主義の教育が浸透し、自信を持って自国の理屈を唱える。これに対し日本は、専門家でさえも他人事のように自国の主権に関わる問題を語る。しかも「恥ずかしくなるくらいに地球市民を気取っているのが情けない」と述べる。▼見事なご指摘と感心ばかりしてはおれない。専門家どころか、外相経験者の前原誠司国家戦略担当相までが領土問題を「他人事」と見ているようだからだ。民放の番組収録で、石原慎太郎東京都知事の尖閣購入計画を批判したという発言からそう思えた。▼前原氏は「石原氏が(購入を)言い出さなかったら問題は起きていない」と述べた。中国の反日はそのせいだというのだ。だが中国はそれ以前から尖閣への攻勢を強めていた。これに対する政府の無策を見かねて購入計画を打ちだしたのだ。▼前原氏は、石原氏と野田佳彦首相の会談で石原氏が「戦争も辞せず」みたいな話をしたことを明かしたそうだ。だがそれを批判するなら戦争の代わりにどうやって尖閣を守るかを語るべきだ。そうしないなら「他人事」であることを露呈したにすぎない。▼日露戦争前夜、黒岩涙香は主宰する新聞で、けんかの最中に賊に入られた夫婦が力を合わせて退ける話を例に存亡の機の不毛な論争を戒めた。領土が脅かされているとき、政府要人が相手国ではなく国内に批判の矛先を向ける。中国の思うツボである。
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『憲法が日本を亡ぼす』古森義久著 海竜社 2012年11月15日 第1刷発行 2012-11-28 | 読書
p78~
 2 日本のソフト・パワーの欠陥
○ハード・パワーは欠かせない
 「日本が対外政策として唱えるソフト・パワーというのは、オキシモーランです」
 ワシントンで、こんな指摘を聞き、ぎくりとした。
 英語のオキシモーラン(Oxymoron)という言葉は「矛盾語法」という意味である。たとえば、「晴天の雨の日」とか「悲嘆の楽天主義者」というような撞着の表現を指す。つじつまの合わない、相反する言葉づかいだと思えばよい。(略)
p79~
 日本のソフト・パワーとは、国際社会での安全保障や平和のためには、軍事や政治そのものというハードな方法ではなく、経済援助とか対話とか文化というソフトな方法でのぞむという概念である。その極端なところは、おそらく鳩山元首相の「友愛」だろう。とくに日本では「世界の平和を日本のソフト・パワーで守る」という趣旨のスローガンに人気がある。
 ところが、クリングナー氏はパワーというのはそもそもソフトではなく、堅固で強固な実際の力のことだと指摘するのだ。つまり、パワーはハードなのだという。そのパワーにソフトという形容をつけて並列におくことは語法として矛盾、つまりオキシモーランだというのである。
 クリングナー氏が語る。
 「日本の識者たちは、このソフト・パワーなるものによる目に見えない影響力によって、アジアでの尊敬を勝ち得ているとよく主張します。しかし、はたからみれば、安全保障や軍事の責任を逃れる口実として映ります。平和を守り、戦争やテロを防ぐには、安全保障の実効のある措置が不可欠です」
p80~
 確かにこの当時、激しく展開されていたアフガニスタンでのテロ勢力との戦いでも、まず必要とされるのは軍事面での封じ込め作業であり、抑止だった。日本はこのハードな領域には加わらず、経済援助とかタリバンから帰順した元戦士たちの社会復帰支援というソフトな活動だけに留まっていた。(略)
 クリングナー氏の主張は、つまりは、日本は危険なハード作業はせず、カネだけですむ安全でソフトな作業ばかりをしてきた、というわけだ。最小限の貢献に対し最大限の受益を得ているのが、日本だというのである。
 「安全保障の実現にはまずハード・パワーが必要であり、ソフト・パワーはそれを側面から補強はするでしょう。しかし、ハード・パワーを代替することは絶対にできません」
p81~
 となると、日本が他の諸国とともに安全保障の難題に直面し、自国はソフト・パワーとしてしか機能しないと宣言すれば、ハードな作業は他の国々に押しつけることを意味してしまう。クリングナー氏は、そうした日本の特異な態度を批判しているのだった。(略)
p82~
 しかし、日本が国際安全保障ではソフトな活動しかできない、あるいは、しようとしないという特殊体質の歴史をさかのぼっていくと、どうしても憲法にぶつかる。
 憲法9条が戦争を禁じ、戦力の保持を禁じ、日本領土以外での軍事力の行使はすべて禁止しているからだ。現行の解釈は各国と共同での国際平和維持活動の際に必要な集団的自衛権さえも禁じている。前項で述べた「8月の平和論」も、たぶんに憲法の影響が大きいといえよう。
 日本の憲法がアメリカ側によって起草された経緯を考えれば、戦後の日本が対外的にソフトな活動しか取れないのは、そもそもアメリカのせいなのだ、という反論もできるだろう。アメリカは日本の憲法を単に起草しただけではなく、戦後の長い年月、日本にとっての防衛面での自縄自縛の第9条を支持さえしてきた。日本の憲法改正には反対、というアメリカ側の識者も多かった。
 ところがその点でのアメリカ側の意向も、最近はすっかり変わってきたようなのだ。共和党のブッシュ政権時代には、政府高官までが、日米同盟をより効果的に機能させるには日本が集団的自衛権を行使できるようになるべきだ、と語っていた。
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テロリズムと人命尊重/自衛隊法改正は焦眉の急だ/「世界は平和で優しい」という幻想 2013-02-07 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉 
 テロリズムと人命尊重
 産経新聞2013.2.7 07:32[from Editor]
 海外の日本人がテロリズムの標的となりうる現実を本格的に突きつけたのは、ペルー日本大使公邸占拠事件だった。
 襲撃から127日目の1997年4月、ペルー軍特殊部隊の突入で日本人24人が無事救出された。日本人10人が命を落とす最悪の結末となったアルジェリア人質事件との比較は難しい。が、2つの事件からは、テロに直面した際の日本人、とりわけ政治指導者の変わらぬ思考が見えてくる。
 「人命尊重が最優先」。橋本龍太郎首相(当時)がペルー政府に訴えたのはこの一言に尽きる。
 当時、取材班の一人として首都リマに滞在していた私は、車で移動中、現地の日系人通訳からこう言われた。
 「日本人の命は特別なんだね」。沿道のビルの窓は鉄格子がはめられたり、内側から板が張り付けられたりしている。2万5千人が犠牲となった80年代からのテロの嵐の名残だ。そんな国にとって、「人命尊重」は、テロに屈しても日本人の命は救ってほしい、という圧力に響く。彼はそう言いたかったのだ。
 アルジェリアの事件でも、安倍晋三政権から発せられた第一方針は「人命第一」。武力突入の報に安倍首相は「控えてほしい」とセラル首相に電話で抗議さえした。
 無論、人質の犠牲を伴った救出作戦には国際的な批判が上がり、メデルチ外相も「誤りを検証中」とAP通信に語った。しかし、関係国で犠牲者が最も多かったのは、「人命最優先」の日本。この事実から何を学び取ればいいのか。
 「9・11」後のテロとの戦いは、アルジェリア事件によって「最前線」がアフリカ地域に拡散したことを裏付けている。標的は「投資家とそこで働く外国人」(同外相)であり、戦いは「何十年も続く」(キャメロン英首相)。資源がない日本がこの地域から背を向けることはありえない。
 「国民の生命を守り抜く」「テロと闘い続ける」。安倍首相は1月28日の所信表明演説で決意を述べた。この2つの課題をどう両立させるのか。16年前、ペルーの事件調査委員会でも提起された問いに、解は示されないままだ。
 邦人救出のための自衛隊法改正は焦眉(しょうび)の急だ。が、何よりも日本もテロと戦う国であることを行動で示すことが最大の人命尊重につながる。つまり意識の変革が不可欠なのだ。それにより現地の政府や軍とのパイプも生まれてくる。
 言葉だけで人命は救えない。(外信部次長 渡辺浩生)
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世界は平和で優しいという幻想/どの国も民主主義になるわけではない/世界の変化を知らない日本人 2013-02-06 | 国際/中国/アジア
 防衛大学校教授・村井友秀 世界は平和で優しいという幻想
 産経新聞2013.2.6 03:17[正論]
 日本の常識は世界の非常識といわれることがある。テロ事件でも日本人にとり想定外の事態がしばしば発生する。そもそもテロとは何か。日本ではゲリラとテロが混同されている。ゲリラはスペイン語で、「小さな戦争」という意味である。ゲリラは組織的、継続的な戦争を意味し、ゲリラ戦闘員は正規軍の兵士と同様、捕虜になった場合は国際法により人道的に扱われることが保障されている。
 ≪ゲリラとテロを混同するな≫
 他方、テロリズムの語源はフランス革命の「恐怖政治」である。テロリズムの定義は、非合法な暴力を行使することによって一般大衆に恐怖を与え、政治的な目的を達成しようとする行為である。
 政治的な目的を達成するためには、一般大衆に対する宣伝が重要なポイントになる。テロはマス・メディアに注目されるために象徴的、劇的な標的を攻撃し、過激化していく傾向がある。ペルーの反体制武装集団「輝く道」のモットーは「残酷な暗殺」であった。
 テロの本質は、物理的被害よりも心理的効果(恐怖)である。従来、テロは戦争ではなく犯罪であり、テロリストは戦闘員ではなく犯罪者であると見なされてきた。故に、拘束されたテロリストは、捕虜資格を有せず、当事国の刑法によって裁かれることになる。
 また、国際法により、文民は戦争中に敵から攻撃されないことになっており、同時に文民が敵を攻撃することも禁じられている。故に、敵対行動に参加する文民は国際法に違反する「不法戦闘員」として攻撃対象になり、捕虜資格もない。また、文民は戦闘から保護されているものの、文民と軍人が混在していて、軍人を攻撃した結果、文民に死傷者が出たとしてもやむを得ない「付随的損害」として違法とされない場合がある。
 ≪対テロ強硬作戦は世界の常識≫
 テロは従来、その政治性が重視され、賛否両論に割れる行為であった。植民地独立運動の英雄の中には多くのテロリストがいた。しかし、1980年代になると、テロの標的になることが多かった先進国を中心に、テロに反対する国際世論の形成が進行していった。先進国首脳会議や国連総会・安全保障理事会では、テロに反対する決議や宣言が採択されている。
 また、テロの過激化に伴い、国際社会の対応も変化していった。83年、ベイルートで米海兵隊司令部がテロリスト1人により爆破され、海兵隊員ら241人が死亡する事件が起きた。この事件以降、米国は「直接的・間接的に国家が関与するテロは戦争と見なし、テロに関与する国には軍事力を含めた対応をする」(国家安全保障決定令138号)ことになった。
 85年にレーガン米大統領は「米国はテロに決して譲歩しない。譲歩すればさらにテロを招くだけである」と主張し、その結果、大統領の支持率は48%から68%に上昇した。また、ワインバーガー米国防長官は「テロを実行した国家、あるいは個人に恐怖の破壊と恐るべき代償の支払いを強要することがテロに対する究極の抑止法である」と述べている。米国は約3000人が殺害された2001年9月11日の米中枢同時テロを受け、アフガニスタンとイラクで6000人以上の米国兵士の犠牲を出しながら軍事作戦を行っている。
 他の多くの国もテロには譲歩せず戦っている。1977年9月、西ドイツでドイツ赤軍がシュライヤー経営者連盟会長を誘拐する事件が発生した。誘拐犯は獄中のテロリストの釈放を要求したが、西ドイツ政府は要求を拒否した。
 ≪問われる「正義」守る覚悟≫
 これに対して、シュライヤー会長の家族が「父の生命を救うために、誘拐犯の要求を受け入れるように西ドイツ政府に指示してもらいたい」と、憲法裁判所に提訴した。憲法裁は、「西ドイツ政府にはドイツ市民個人の生命を守る義務があるとともに社会の秩序を維持し、国民全体の安全を守る義務がある」として訴えを却下した。その後、シュライヤー会長は殺害されたが、西ドイツ政府に対する国民の支持は揺るがなかった。
 だが、当時の日本政府の対応は異なっていた。77年9月、日本赤軍が日航機をハイジャックし、600万ドルと獄中のテロリストの釈放を要求した。これに対し、日本政府は「1人の生命は地球よりも重い」とし、超法規的措置を取って獄中メンバー6人を釈放し、身代金を支払った。乗客乗員は全員解放されたものの、日本政府の対応は国際社会から批判された。
 今回のアルジェリア人質事件での同国政府の決定も、テロと戦う世界の常識に従った行動である。故に、人質を取られた英国やフランスその他の国はアルジェリア政府の行動を支持したのである。
 テロと戦う世界の常識は、「正義」を守るためには「平和」を守れないこともあるというものである。戦う国々は覚悟を決めて「正義」を守ろうとしている。各国の治安部隊が対テロ作戦を決行する際、人質の犠牲を20%以下に抑えることが目標だともいわれる。世界は日本人が信じているほど平和でもなければ、優しくもない。(むらい ともひで)
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『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
 〈抜粋〉
第2章 アメリカは中東から追い出される
p93~
第5部 どの国も民主主義になるわけではない 
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『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店
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