検察庁法改正案 疑念もたれぬ説明尽くせ 2020.5.13

2020-05-13 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

【主張】検察庁法改正案 疑念もたれぬ説明尽くせ
 2020.5.13 05:00|  
 検事長らの定年延長を可能にする検察庁法改正案をめぐり、衆院内閣委員会が紛糾している。
 政府・与党は週内にも衆院を通過させたい方針だが、新型コロナウイルスの感染収束が見通せない中で、野党側は「火事場泥棒だ」などと反発している。これに多くの芸能人らがツイッターへの投稿で参戦して、論争は茶の間にも飛び火している。
 事実の整理が必要である。
 コロナ対策を優先すべきだとの批判は当たらない。重要法案であればいくらでも並行して審議することは可能である。
 改正案は検事総長以外の検察官の定年を現在の63歳から65歳に段階的に引き上げ、63歳に達した次長検事と検事長らは役職を外れる「役職定年制」を設けるというものだ。これは国家公務員法の改正に伴うもので、野党も基本的に反対はしていない。
 問題は特例として、内閣が「公務の運営に著しい支障が生じる」と認めた場合、引き続き次長検事や検事長を続けられると定めたことだ。これに野党などは「内閣が恣意(しい)的に人事介入できる」と反発している。
 しかもこの特例は、黒川弘務東京高検検事長の定年を半年間延長するという前例のない閣議決定が行われた直後に加えられた。森雅子法相がいくら「東京高検検事長の人事と今回の法案は関係ない。法案自体は数年前から検討されていた内容で問題ない」と強弁しても、疑いは簡単に晴れない。
 そもそも森法相は内閣委の審議に参加していない。「国民の誤解や疑念に真摯(しんし)に説明したい」というなら、検察庁法の改正案は内閣委から分離して法務委員会で審議することが筋である。
 黒川氏の定年延長について森法相は2月、「検察官としての豊富な経験知識等に基づく部下職員に対する指揮監督が不可欠であると判断した」と述べた。
 こうした属人的判断が改正案の特例に反映されるのか否かが問われている。疑念をもたれぬ説明を尽くすには、法務委での審議が必要だろう。
 検察は捜査や公判を通じ、社会の安全と公平、公正に重大な役割を担う。時に捜査のメスは政府・与党に及ぶこともある。検察がその仕事を全うするには、国民の信用、信頼が欠かせない。それは政治も同様である。
  
 ◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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雑誌正論掲載論文
「官邸の検察介入」 無理筋のシナリオだ 
2020年04月25日 03:00
産経新聞政治部次長 水内茂幸 「正論」5月号
 政府は一月三十一日の閣議で、二月七日で退官予定だった東京高検の黒川弘務検事長の定年を半年間延長した。メディアでいち早くこの人事に疑問を投げたのは朝日新聞だった。
 閣議決定翌日の二月一日付朝刊では「異例の手続き」と表現。「次期総長の人選は昨年末から官邸と法務省で検討を開始。複数の候補の中から、官邸側が黒川氏を就任させる意向を示したという」と解説した。
 同四日付の朝刊では「検事長定年延長に波紋 首相・法相、詳細語らず 野党は批判」と題した特集記事も掲載した。記事では「安倍政権との距離が近いとされる黒川氏が、検察トップの検事総長に就く可能性が残ったことになる」と指摘し、「首相を逮捕するかもしれない機関に、官邸が介入するだなんて、法治国家としての破壊行為」とする立憲民主党の枝野幸男代表のコメントを紹介した。
 国会では、朝日に呼応するように、野党が次々と追及を始めた。
 枝野氏は二月二十六日の衆院予算委員会で「この方を検事総長に充てようとしているのは、『桜を見る会』の捜査を防ごうとするためではないかと疑われている」などと指摘。森雅子法相は、今回の人事で首相や菅義偉官房長官からの指示は一切なかったと反論したが、同日の質疑では、国民民主党の玉木雄一郎代表までこの問題を取り上げ「人事は違法」などと批判を重ねた。

稲田検事総長の居座り
 今回の定年延長がここまで波紋を広げた背景には、検察の人事をめぐる複雑な構図がある。
 黒川氏は「花の三十五期」と呼ばれる司法修習三十五期で、その中でも特に優秀と評価が高い。ただ、同期には同省刑事局長や官房長を歴任した林真琴・名古屋高検検事長というもう一人のエースがいる。刑事司法界では両氏とも「検事総長候補」と目されてきた。
 法務省関係者によると、検察首脳らは平成二十八年九月、林氏を検事総長の登竜門とされる事務次官に起用する方針を固めたが、省庁人事を一元管理する内閣人事局が却下。代わりに官房長の黒川氏が次官に昇格した。
 三十年一月には上川陽子元法相が、刑事局長だった林氏と対立したことから同氏の次官就任を承認しなかったという。上川氏は国際取引をめぐる紛争を当事者間の合意で解決する「国際仲裁センター」の誘致に熱心に取り組んだが、林氏はこれを強硬に拒んだことが背景にあったとみられている。
 一方の黒川氏は「人たらし」の異名をとるほど永田町に幅広い人脈を持ち、特に菅氏とは親密な関係があるとされる。こうしたことが、検察内でやっかみを生んだとの指摘もある。
 同関係者によると、検察内部では、上川氏との対立の一件で「政権が林氏に×を付けた」という見方が広がり、黒川氏を次期検事総長とすべきだという声が強まった。林氏は、最終的に名古屋高検検事長へ異動した。
 林氏が、検察庁法で定める六十三歳の定年の誕生日を迎えるのは、黒川氏より半年後だ。黒川氏が総長に就任するには、稲田伸夫氏の早期勇退が必要だったが、稲田氏にその意思はなかったとされる。
 関係者によると、稲田氏は、四月に京都で開催予定だった刑事司法分野で世界最大級の国際会議「国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)」の出席にこだわっていた。引退への花道としたかったようだが、肝心の会議は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、延期となった。
 稲田氏が早い段階で勇退していれば、黒川、林両氏が順番に検事総長に就く道があったとの見方もある。しかし稲田氏がポストに居座った以上、黒川、林両氏の誕生日を検察庁法の規定だけにあてはめると、黒川氏が定年引退し、林氏が次官に就く流れだった。ここに、「政府が違法な手段で定年を延長した」と批判される原因がある。

定年に関する法解釈の変更
 官邸は本当に人事に手を突っ込んだのだろうか。黒川氏が政治の絡む事件に積極的に取り組む〝武闘派〟であることを踏まえると、野党のシナリオには無理がある。
 カジノを含む統合型リゾート施設(IR)をめぐる汚職事件では、黒川氏が東京高検検事長として捜査を実質的に指揮。検察内に慎重論もあった中で、自民党の秋元司衆院議員の逮捕に踏み切った。東京地検特捜部が現職の国会議員を逮捕したのは、約十年ぶりのことだった。
 黒川氏は今回の事件に絡み、特捜部が宮崎政久法務政務官に事情聴取を行うことも認めた。宮崎氏は逮捕に至らなかったが、自民党幹部は「法務政務官が特捜部に事情を聴かれただけでも、次の選挙には打撃だ」と肩を落とす。政府関係者は「官邸に都合のいい検事総長を選ぶことができるなら、林氏の方がいい」と率直に打ち明ける。事件に取り組む検察本来の役割を考えるなら、黒川氏は優秀な人材との見方は強い。
 今回、黒川氏の定年延長を閣議請議した森氏は、産経新聞のインタビュー(二月十一日付)に「(人事案は)事務方から上がってきた案を尊重している。それに尽きる」と語った。法務省関係者は「検察内部で話し合った末に、黒川氏の人事案をまとめた。森氏はハンコを押しただけだ」と説明する。

 続きは「正論」5月号をお読みください。

■ みずうち・しげゆき
 昭和四十八年生まれ。平成十一年に産経新聞入社後、政治部で外務省、野党、自民党の各クラブキャップを歴任。現在は政治部次長。

 ◎上記事は[正論]からの転載・引用です


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