尖閣諸島は、我が国の実効支配が及んでいる我が国固有の領土/中国を利する枝野官房長官発言/眼光紙背

2011-08-13 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

枝野官房長官は自らの発言が中国を利していることを理解しているのだろうか
2011/08/12(金)11:07佐藤優の眼光紙背
:第107回
  わが国が抱えている領土問題は、北方領土と竹島の2つだけである。わが国固有の領土である歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島からなる北方領土はロシアによって、竹島は韓国によって、不法占拠された状態にある。これらの領土に対する日本の主権を相手国との間で確認することが、日本外交の目標である。
  尖閣諸島は、わが国の実効支配が及んでいるわが国固有の領土だ。実効支配とは、当該領域においては、日本の公権力の執行が適正になされるということだ。尖閣諸島をめぐり、日本はいかなる国家や地域とも領土問題を抱えていない。これが日本国家としての原理原則だ。この原理原則に則して、日本の領土と国境の保全に関する国家戦略を構築しなくてはならない。
  8月10日の参議院沖縄北方対策特別委員会で枝野幸男官房長官が尖閣問題に関して勇ましい発言をした。産経新聞の報道を引用しておく。
  「他国が侵略してきたら、あらゆる犠牲を払ってでも自衛権を行使し、これを排除する」というのは、常識的に考えれば、武力行使も辞さずに領土を断固防衛するということだ。「あらゆる犠牲を払ってでも」ということも、枝野氏の言葉を額面通りに受け止めるならば、官民が一体になって、戦うということだ。
  もっとも8月11日午後の記者会見で、琉球新報の記者が「『あらゆる』犠牲には民間地域への影響とか、民間人の犠牲をも含むのでしょうか」という質問に対して、枝野官房長官はこう答えた(ソースは官房長官記者会見動画の音声
  要は民間への影響を及ぼさない範囲で自衛権は行使されるということだ。このことから透けて見えるのは「あらゆる犠牲を払ってでも」というのが、枝野氏の強い政治的信念に基づく発言ではなく、熟慮されていない不規則発言であったということだ。
  枝野発言は国際社会にどのようなメッセージを発したことになるのだろうか。
  まず、日本は尖閣諸島の実効支配が中国によって切り崩される危険があると考え、「他国が侵略してきたら、あらゆる犠牲を払ってでも自衛権を行使し、これを排除する」という最大限に強硬な発言をした。その後、琉球新報の記者からの質問を受けて、「あらゆる犠牲を払ってでも」という表現が沖縄戦における大本営の方針と沖縄では二重写しになっていることに気づき、発言をトーンダウンした。日本は尖閣諸島の領土保全に不安をもっているが、確固たる戦略を持っていないということが透けて見えた。こういう態度を日本政府高官が取ると、国際社会は、日本と中国の間に深刻な領土係争があるという認識を強める。これは中国に利益をもたらす。
  日本政府が行わなくてはならないのは、「あらゆる犠牲を払ってでも」などという勇ましい言質を弄ぶことではなく、尖閣諸島における実効支配を担保する行為を淡々と行うことだ。2010年9月に発生した尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に関し、那覇地検が那覇検察審査会の1回目の起訴相当議決後に、再度不起訴処分としたことについて、那覇検察審査会は7月21日、2回目の審査で中国籍のセン其雄船長を「起訴すべきだ」と議決した。刑事訴訟法第271条第1項の規定により、裁判所は、遅滞なく起訴状の謄本を被告人に送達しなければならないとされ、同条第2項の規定により、公訴の提起があった日から2か月以内に起訴状の謄本が送達されないときは、公訴の提起は、遡ってその効力を失うとされている。尖閣諸島周辺で日本の法令に違反した容疑で強制起訴されたセン其雄船長を裁判にかけるべく日本への召喚を枝野官房長官が在京中国大使に淡々と要請することが尖閣諸島に対する日本の実効支配を担保することにつながる。(2011年8月11日脱稿)
 ・佐藤優(さとう まさる)
  1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「3.11 クライシス!」(マガジンハウス)がある。
..................
軋む世界/巨額の財政赤字、国防費削減を迫られる米国/経済力をバックに軍備拡張を進める中国 2011-07-31 | 国際/中国
中国の漁業監視船、再び尖閣へ 中国は国内法で尖閣諸島や西沙・南沙諸島を中国領土だと主張2011-01-28 | 政治〈国防/安全保障/領土〉
自分の国は自分で守る決意/境外を保護するのは法律、正義、自由ではない。国際法も国力の強弱に依存2011-01-12
一触即発の中国・朝鮮半島情勢。米・韓・中、そして北朝鮮とどう渡り合えばいいのか2011-01-12
経済発展によるカネで軍拡を続ける中国 2010年度の国防予算は日本円で6兆292億円2011-01-10
新防衛大綱;「動的防衛力」へ/田母神俊雄著『田母神国軍』2010-12-17 
「核心的利益」中国は主権や領土に関わる問題で外国に妥協しない姿勢を強めた2011-07-18 | 国際/中国
旧ソ連から買った中国の空母「ワリヤーグ」/有事の戦闘では弱いが、平時に発揮される中国空母配備の効果2011-07-14 | 国際/中国
中国は、南シナ海の領有権や海洋権益を巡り、ベトナムやフィリピンなどとのトラブルが絶えない2011-06-20 | 国際/中国
IMF、報告書発表「中国が今後5年以内に世界一の経済大国になる」/民主主義と経済的成功の関係2011-06-11 | 国際/中国
中国、原子炉新規稼働へ/原発を持つ国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができる/原発保有国の本音2011-05-11 | 国際/中国 
..................
 関連記事

【佐藤優の眼光紙背】尖閣ビデオ流出は官僚によるクーデターだ
【佐藤優の眼光紙背】尖閣ビデオ流出問題
一色正春氏会見「現政権の外交姿勢がハッキリしていれば、映像を流出させることはなかった」(情報提供:眼光紙背)

【関連記事・情報】
【赤木智弘の眼光紙背】やらせやらせと言うけれど(2011/08/06)
【佐藤優の眼光紙背】韓国政府による自民党視察団入国拒否にどう反撃するのが竹島問題をめぐる日本の国益に適うか(2011/08/01)
【赤木智弘の眼光紙背】声の大きなネット住人は、多数派ではない(2011/07/30)
子供を守りたい親の気持ち? 知るかそんなもの!(2011/07/23)
【佐藤優の眼光紙背】竹島問題を巡る外務省の中途半端な対応が、ロシアに付け入る隙を与えている(2011/07/21)
【赤木智弘の眼光紙背】国は、夏場に向けて国民服を提供せよ(2011/05/19)
【赤木智弘の眼光紙背】原発のリスク 社会のコスト(2011/05/12)
【赤木智弘の眼光紙背】安全であったという前提(2011/05/05)


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。