空が青いから白をえらんだのです―奈良少年刑務所詩集―
寮美千子/編
発売日:2011/06/01
奇跡の詩集! 受刑者たちの言葉、切実さに、誰もが胸を打たれる――。朝日新聞、毎日新聞、など各紙誌で話題。
受刑者たちが、そっと心の奥にしまっていた葛藤、悔恨、優しさ……。童話作家に導かれ、彼らの閉ざされた思いが「言葉」となって溢れ出た時、奇跡のような詩が生まれた。美しい煉瓦建築の奈良少年刑務所の中で、受刑者が魔法にかかったように変わって行く。彼らは、一度も耕されたことのない荒地だった──「刑務所の教室」で受刑者に寄り添い続ける作家が選んだ、感動の57編。
◎上記事は[新潮社]からの転載・引用です
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〈来栖の独白 2020.8.8 sat 〉
2020年7月18日(sat)、本屋さんで見かけて購入。しばらく放置していたが、最近、読む気になった。文庫本だし、詩集なので、すぐに読める。
著者寮美千子さんの「はじめに」と、この本の表題にもなっているA君の「くも 空が青いから白をえらんだのです」を転記してみたい。
* * * *
(p3~)
はじめに
むじゃきに笑う。すなおに喜ぶ。ほんきで怒る。苦しいと訴える。
悲しみに涙する。いやだよと拒否する。助けてと声に出す。
日常のなかにある、ごくあたりまえのこと。
そんなあたりまえの感情を、あたりまえに出せない子どもたちがいます。
感情は鬱屈し、溜めこまれ、抑えきれないほどの圧力となり、
爆発して、時に不幸な犯罪を引きおこしてしまいます。
その原因は、さまざま。その子自身の性質だけではなく、
家庭や学校の環境、社会環境などが、複雑に絡まっています。
どこかひとつでも、助けになる何かがあったら、
理解してくれる人がいたら、溜めこまずに少しずつ思いを吐きだせたら、
もしかしたら、その犯罪は、防げたのかもしれません。
被害者を作ることもなく、彼らは犯罪者にならずにすんだことでしょう。
この詩集は、奈良少年刑務所の更生教育である。
「社会性涵養プログラム」から生まれた作品を中心に57編を編んだものです。
「詩」は、閉ざされた彼らの心の扉を、少しだけ開いてくれました。
詩など、ほとんど書いたことのない彼らには、
うまく書こう、という作為もありません。
だからこそ生まれる、宝石のような言葉たち。
心のうちには、こんなに無垢で美しい思いが息づき、豊かな世界が広がっています。
そこから垣間見える、彼らのやわらかな心、やさしさや苦悩。
彼らはいつか、あたりまえの心を素直に表現できるようになるでしょうか。
あたりまえの感情を、あたりまえに表現できる。
受けとめてくれる誰かがいる。
それこそが、更生への第一歩です。
受刑者たちの心の声に、どうか耳を傾けてみてください。
* * * *
(p14~)
くも
空が青いから白をえらんだのです
Aくんは、普段はあまりものを言わない子でした。そんなAくんが、この詩を朗読したとたん、堰を切ったように語りだしたのです。
「今年でおかあさんの七回忌です。おかあさんは病院で『つらいことがあったら、空を見て。そこにわたしがいるから』とぼくにいってくれました。それが、最期の言葉でした。
おとうさんは、体の弱いおかあさんをいつも殴っていた。
ぼく、小さかったから、何もできなくて・・・」
Aくんがそう言うと、教室の仲間たちが手を挙げ、次々に語りだしました。
「この詩を書いたことが、Aくんの親孝行やと思いました」
「Aくんのおかあさんは、まっ白でふわふわなんやと思いました」
「ぼくは、おかあさんをしりません。でも、この詩を読んで、空を見たら、ぼくもおかあさんに会えるような気がしました」と言った子は、そのままおいおいと泣きだしました。
自分の詩が、みんなに届き、心を揺さぶったことを感じたAくん。いつにない、はればれとした表情をしていました。
たった一行に込められた思いの深さ。そこからつながる心の輪。
「詩」によって開かれた心の扉に、目を見開かれる思いがしました。