ロシアは野田新政権を日露経済協力に誘おうとしている/原発政策を見極めながら、LNGカードを切ってくる

2011-09-02 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

野田新政権に「日露経済協力」へのメッセージを送るロシアは、エネルギー=LNGカードを切ってくる
現代ビジネス2011年09月02日(金)佐藤 優
 ロシアは民主党代表選挙で前原誠司前外相が代表に選出され、首相に就任することに期待していた。それは前原氏が外相時代に北方領土における日露共同経済活動の検討を含む2国間の提携を強化する意思を示したからだ。ロシアの意図は、日本との戦略的提携を強化し、中国の影響力拡大を牽制することにある。端的に言うと、ロシアは前原氏を帝国主義者と見なしている。ロシアは帝国主義外交を展開しているので、「力の論理」の信奉者である前原氏とならば、帝国主義的な勢力均衡外交というゲームができると認識しているのだ。
 8月29日に野田佳彦財務相が民主党代表に選出されたことを受け、同日、ロシア国営ラジオ「ロシアの声」(旧モスクワ放送)が興味深い論評を行ったので、全文を引用しておく。

〈 引き継いだ問題 どう解決するか --- 野田政権誕生へ
 日本では与党・民主党の代表選挙が行われ、54歳の野田佳彦氏が新しく代表に選ばれた。野田氏は官僚出身ではないものの、官僚からも人気があり、演説にも優れ、人との関係を作るのが上手な人物だ。また日本経済の先行きについても、幻想を抱いてはいない。地に足がついた人物だといえるだろう。早ければ30日にも首相としての指名を受ける可能性もある。
 野田氏が首相として引き継ぐものは決して楽な仕事ではない。世界経済危機のあおりを受けた経済問題など、首相が交代したことによって自動的に消え去るようなものではない。また世界情勢も単純なものではない。というのも前政権の間、中国や韓国、ロシアなどの隣国との関係がさらに複雑化したとも言えるからだ。
 野田氏は政治経済改革の信奉者として知られている。また前任者と同じく、デフレ退治に重きを置いており、そのほかの問題解決はデフレ克服の後にすべきだという意見を持っている。財務大臣任期中の政策を振り返ってみても、野田氏が保守的な意見の持ち主であることが分かるだろう。財政の建て直しのため、支出の削減と新しい国債発行を支持していた。
 また原発問題については、より厳しい安全基準のもとでの原発保全を唱えている。外交については、ほかの民主党議員と同じく、アメリカとの軍事政治同盟を支持すると共に、中国の急速な強大化に警戒感を有している。 それではロシアとの関係にはどのような変化が見られると予測されるだろうか? ロシア戦略研究所のウラジーミル・チェレホフ専門家は次のように述べている。
「ロシアとの関係で言えば、日本がすでにロシアに対して持っている戦略を変更しようとするような政治指導者は日本にはいないと考えています。つまりクリル4島返還という問題です。日本がそのような要求をあきらめることは将来的にもほとんどあり得ません。ただそのやり方については、また別です。日本にとって、ロシアとの関係改善が必要になることもあり得ますし、そうなれば領土問題はまた棚上げとなるでしょう。」
 世界には、領土問題を抱えながらも、成功裏に経済関係を発展させている国々が多く存在する。また確かにロシアと日本の経済関係は、潜在力を生かしきれてはないにせよ、それほど悪いものではない。露日の経済関係の見通しについて、再びウラジーミル・チェレホフ専門家に意見を聞いてみた。
「中国との競争という背景があることを考慮に入れれば、露日の経済関係の改善は大いにあり得ることです。客観的な状況によって、日本にとってもロシアにとっても、プラグマティックな関係を構築していくことの必要性が明らかになってきています。たとえば、インドと中国の間には非常に緊張した領土問題が存在していましたが、小平が経済関係の発展と領土問題の棚上げを提案したことによって、経済関係が急速に良くなった経緯もあります。それはおそらく、ロシアと日本との関係にも当てはめてみることができるでしょう。」
 最近では、日本の実業界がロシアとの協力に大きな関心を示していることがより明確となってきている。また日本はロシアからのエネルギー輸入を増加させる準備もある。サハリン3のプロジェクトはいつでも開始できる段階だ。
 野田氏は2002年、ロシアとの関係について、ロシアは日本という国が友好国となることを望んでおり、また日本もロシアと正常な関係を持つことを望んでいる、といった趣旨の考えを示したことがある。しかしそれ以来ロシアとの関係について、公式の場所で発言したことはない。 〉(
http://japanese.ruvr.ru/2011/08/29/55329251.html)

 ロシアは、この論評で、「(野田新首相の)外交については、ほかの民主党議員と同じく、アメリカとの軍事政治同盟を支持すると共に、中国の急速な強大化に警戒感を有している」という認識が示されている。ロシアは野田新首相が前原氏同様の帝国主義的な勢力均衡外交を行う意思があるかについて探りを入れているのである。チェレホフ氏のコメントを通じ、ロシア政府は「野田新政権も北方4島返還を要求してくる。ロシアは交渉を回避するつもりはない」というシグナルを出し、日本に安心感を与えようとしている。同時に「領土問題を棚上げにして経済関係を発展させる可能性はないか」と水を向けている。
*「南クルリの問題は何の制限も生み出さない」
 翌8月30日には、「ロシアの声」のタチアナ・フロニ氏の論評を通じて、より直裁にロシアの希望を伝えている。骨子は、日本の新政権は経済を重点課題とし、野田新首相が得意でない外交問題、特に複雑な北方領土問題でロシアに対して勝負をかけることはないという見通しを示し、日本政府がどう反応するか様子をうかがっているのである。フロニ氏の論評を全文引用しておく。

〈 ロシアは野田首相から何を必要としているか?
 日本では新しい首相が決まり、これは最近5年間ですでに6回目となる。世界はすでに日本で毎年首相が交代することに慣れつつある。東日本大震災後の国の復興という課題のほかに、野田政権には中国やロシア、韓国などとの領土問題も残されている。しかし野田首相はそれらの問題を先鋭化させることはないだろうし、日本の外交政策になにかラディカルな動きがあるとは考えられない。野田氏が得点を稼がなくてはならないのは経済分野においてだ。
 東洋大学のアナトリー・コシキン教授は、日本社会では首相の交代によって、経済的な奇跡が期待されており、経済の救済が望まれていると指摘している。
「日本製品は品質は高いものの、諸隣国の製品の安さに押されて、競争力を失いつつあります。まずもってそれは中国および東南アジア諸国です。日本では消費税引き上げのほかに電力価格の引き上げも検討されています。このような状況のなかで野田政権はおそらく、諸隣国との関係改善に取り組むことになるでしょう。」
 また南クリル諸島については、日本外交の立場に変更は当面ないと予測されるものの、一時のような激しさはもはやみられない。元駐日ロシア大使のアレクサンドル・パノフ氏は、今回民主党代表選挙に立候補した各政治家はいずれも、領土問題での日本の立場を守りながらも、ロシアとの経済関係の発展を望んでいると指摘している。
「日本の実業界および政治エリートの立場からすれば、南クリルの領土問題はなんらの制限も生み出すものではないと見ている。日本の実業界が関心を持てば、プロジェクトは実現されるだろう。かつてソビエト連邦時代には、領土問題の存在さえ認められていなかったものの、多くのプロジェクトが実現されていた。サハリン2の成功や、ヴォストーチニイ港の建設、林業やヤクートの石炭などだ。相互の関心さえあれば、経済協力の問題は容易に解決できるものです。今日、まさにそのような状況だと言えるだろう。」
 専門家らは、日本とロシアの関係が今後もますます発展することを予測している。 〉(
http://japanese.ruvr.ru/2011/08/30/55421255.html)

*日本経済のネックはエネルギーとみるロシア
 ここに出てくるコーシキン教授は、旧ソ連共産党中央委員会国際部で対日工作を担当した対日強硬論者だ。ゴルバチョフ、エリツィン、プーチンの3大統領が北方領土問題に関して日本に譲歩しすぎたという論陣を張る中心人物だ。「戦後現実を尊重すべきである。クリル諸島(北方領土)は合法的にロシア領になったのであり、ロシアは日本に領土を返還する法的、道義的義務は一切ない」という主張をする日本専門家の代表がコーシキン教授である。エリツィン時代に「ロシアの声」にコーシキン教授のコメントが取り上げることは考えられなかった。
 これに対して、パノフ教授は、ロシア外務次官、駐日大使をつとめた知日派で、北方領土問題で、日本に対する妥協が不可欠であるという立場を一貫してとっている。コーシキン教授は、「パノフ大使は売国奴だ」と非難したことがある。パノフ教授に対するプーチン首相の信任が厚い。パノフ教授はロシアの日本専門家の中で領土問題に関してもっとも柔軟な姿勢をとっている。
 コーシキン教授、パノフ教授という対極的立場にある日本専門家のコメントを通じ、ロシアは野田新政権を日露経済協力に誘おうとしている。ロシアは日本経済のネックがエネルギーにあると認識している。野田新政権の原発政策を見極めながら、ロシアはLNG(液化天然ガス)カードを切ってくると筆者は見ている。
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日本で新内閣組閣発表
ラジオ局「ロシアの声」2011,09,03 16:41

 日本の新内閣組閣が2日に発表された。新内閣が行う外交路線にはいかなる変更があるのだろうか。
 新内閣の顔ぶれを見ると、構成員全体が非常に若返ったのがわかる。また重要なポストにはまったく新しいメンバーが就いた。新外相に就任したのは47歳の玄葉光一郎氏だ。ここ最近、日本は領土問題で近隣諸国との関係を急激に悪化させてしまったことから、新外相は就任早々から関係改善の重い任務を背負うことになるのは必至だ。玄葉氏は国家戦略担当、宇宙開発担当大臣を務めたものの、外交分野では経験がない。ロシア科学アカデミー極東研究所日本調査センターのキスタノフ氏はこの点を指摘し、次のように語っている。
「玄葉氏自体についてあまり知られていない。国際政治で彼はまだ『だめになってはいない』。しかしながら、野田首相の先に行った声明からある程度の推測を行うことはできる。というのも国際舞台で日本がどういう外交政策をとるかは野田首相の決定にかかっているからだ。新首相は領土問題で日本の国益を強く主張していく構えだ。これはまず中国、韓国との問題においてそうであり、首相に就任する前の段階ですでに口にしていたが、就任後も同じことを繰り返している。南クリル問題では今のところ声明は表されていないが、全体として強硬なトーンであり、この問題に対する立場が近い将来柔軟化することはありえないと思う。」
 玄葉新外相は個人サイトで座右の銘を「不失恒心」と書いている。これは自分の使命を忠実に守り、心に決めたことをやりとげることを意味する。また尊敬する人物についてはチャーチルと石橋湛山を挙げているが、石橋氏とは1956年鳩山内閣の後首相に就任し、全体としては前鳩山内閣の路線を継続した政治を行って、「独立外交」と中国、ソ連との経済関係の発展を推し進めた人物だ。玄葉新外相も石橋氏、チャーチル同様、こうした健全な思考や柔軟性を発揮するだろうか? キスタノフ氏は、玄葉氏は外相の座にあって進化することのできる人物だと期待したいとして、さらに次のように語る。
 「前原前外相も就任当初は非常に強硬な態度で領土問題に臨んでいたが、就任中のたった半年間でも進化があった。私には、前原氏は南クリル諸島を自国の領土だとして一歩も引かない日本の立場と、島で協力を開始したいという願いをマッチさせるアプローチの方法を模索していたように思える。もし前原氏が影響力のある政治家として、こうした路線をとることが長期的視点では日本の国益に適うことを新内閣にわからせることができるなら、前向きな結果が生まれるかもしれない。」
 野田新首相は就任後初めて行った記者会見で声明を表し「中国、韓国、ロシアという近隣諸国と友好関係を維持していきたい。日本は経済外交に大きな意味を置いている。その目的は健全なアジア太平洋地域を創設することだ」と述べている。これが通常行われるような単なる外交的な発言ではなく、期待の持てるものであることを祈りたい。
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