秋葉原無差別殺傷事件〈加藤智大被告〉第8回公判2010.5.21〈目撃者〉証人尋問 -上-
《黒いスーツに髪をポニーテイルに束ねた若い女性が証言台に立つ》
証人「良心に従って偽りのないことを誓います」
検察官「あなたは20年6月8日当時、現場を目撃した警察官ですね」
証人「はい」
《検察官の説明によると、証人は19年7月、警察学校を卒業、事件当時は秋葉原を管轄する警視庁万世橋署交通課交通執行第2係に配属されていたという》
検察官「あなたは(上司の)○○警部補が犯人から攻撃を受けた状況を目撃していたのですね」
証人「はい」
検察官「当時はどんな職務についていましたか」
証人「(秋葉原の)歩行者天国の警戒に就いていました」
検察官「服装は?」
証人「紺のポロシャツにベージュのズボンでした」
検察官「どうして私服だったのですか」
証人「パフォーマンスをする人がおり、一般人に紛れて取り締まりをするためでした」
検察官「当日午後0時半ごろはどこにしましたか」
証人「外神田3丁目交差点付近におりました」
《法廷に備え付けられたモニターに現場の見取り図が映し出され、証人が自分がいた場所を赤いペンで印をつけた》
検察官「何か異変を感じましたか」
証人「バーンという大きな音が聞こえました。女性の悲鳴のような声も聞こえました」
検察官「何が起きたと感じましたか」
証人「交通事故が起きたと感じました」
検察官「そのとき、どうしましたか」
証人「係長(○○警部補)から『走って見てこい』と言われ、走って見に行きました」
検察官「何が見えましたか」
証人「(パソコン量販店)ソフマップと横断歩道上に男性が倒れているのが見えました」
検察官「ソフマップ前の男性はどのような状態でしたか」
証人「顔が血だらけで、周りに救護する人がいました」
《男性は重体に見えたが、証人はすぐにその場を離れたという》
検察官「なぜすぐに移動したのですか」
証人「交差点に倒れている人は誰も救護する人がおらず、救護の必要性を感じました」
《交差点に倒れていたのは若い男性で、服がはだけていた。証人は肩をたたきながら意識の確認をしたという》
検察官「そのとき、何か見ましたか」
証人「男の人が走ってくるのが見えました」
検察官「特徴は?」
証人「ベージュ色の上着にベージュ色のズボン、眼鏡を掛けていました」
検察官「被告席に座っている被告と同一人物ですか」
証人「正面から見たわけではありませんから…」
検察官「男が目の前を通り過ぎたんですね」
証人「はい」
検察官「手に何か持っていましたか」
証人「黒い先のとがったナイフのようなものを持っていました」
《男は交差点に向かった。交差点の真ん中には、事件を受けて駆け付けた○○警部補がいた》
検察官「男は何をしましたか」
証人「係長の背中にぶつかって走っていきました」
検察官「ぶつかった際、男はどんな状況でしたか」
証人「ひじを曲げた状態で、ナイフのようなものの先を係長の背中に向けるようにぶつかりました」
検察官「どんな感じでぶつかりましたか」
証人「体当たりのような状態でした」
検察官「その後は?」
証人「交差点を湾曲するように走りながら何人かにぶつかっていきました」
検察官「手に持ったナイフを動かすような行為はしましたか」
証人「はい…」
証人「いまの時点では覚えていません…」
検察官「視覚として覚えていないということですね。事件直後に上司に目撃したことを話した記憶はありますか」
証人「はい」
検察官「当時、上司に『犯人は、係長にぶつかった後、プスプスと人を刺しながら走っていった』と話しましたが、覚えていますか」
証人「はい」
検察官「○○警部補はどうなりましたか」
証人「座り込むように倒れてしまいました」
検察官「どんな状態でしたか」
証人「とても苦しそうで、顔色が悪かったです」
検察官「○○警部補から何と言われましたか」
証人「『背中を押さえてくれ』と言われました。係長のシャツに穴があいていて、血がにじんでいました」
検察官「救護を手伝ってくれた人はいましたか」
証人「白人の男性や電器店の店員、『自分は医師だ』と名乗る男性が来てくれました」
検察官「○○警部補の状態はどうでしたか」
証人「とても苦しそうで、みるみるうちにシャツが血で染まりました」
検察官「あなたは今も、○○警部補と同じ万世橋署で働いていますね」
証人「はい」
検察官「○○警部補は、事件の前後でどう変わりましたか」
証人「はい。事件が原因かは分かりませんが、歩くスピードが、少しゆっくりになりました」
《検察側の冒頭陳述によると、○○警部補は肺や気管を傷つけられ、3カ月の重傷を負った。一時は心肺停止に陥っている》
検察官「最後です。今の犯人についての気持ちを聞かせてください」
証人「えーと…。事件は一瞬で終わりましたが、命を落とした方や、けがをした方、目撃した方が、いっぱいいます。被害者の家族の方も、被害者に当たると思います。それだけのことをしたと、深く反省してもらいたいと思います」
検察官「どのような刑罰を望みますか」
証人「自分がしたことに相当する処罰を望みます」
弁護人「あなたは○○警部補と一緒に、2人で組んで取り締まりをしてたのですね」
証人「はい」
弁護人「そういう風に、○○警部補と組むのは過去にもありましたか」
証人「いえ、係長(○○警部補)とペアになったのは、その日が初めてでした」
《弁護人は、検察側の尋問に対する答えを再度、確認するような質問を続けていった》
弁護人「地図に書いた印の位置から、初めて警部補を見たとき、警部補は何をしていましたか」
証人「…。もう一度、いいですか?」
弁護人「最初に警部補を見たときの、警部補の体勢は?」
証人「…走ってくる男に、背中を向けて立っていました」
弁護人「犯人は(警部補を刺した後、走りながら)刺すような動作をしていましたか」
証人「刺すような動作を見たと思いますが、今は視覚としては覚えていません」
弁護人「上下とか、水平にナイフを振るような行動を見たと、上司に説明したわけではないと」
証人「はい」
裁判長「では、続いてもう1人の尋問に移ります。特に弁護人、被告人で、休廷を求めませんね?」
「…はい、ではこのまま続けます」
《次の証人が入廷してきた。30代くらいのスーツ姿の男性。白いシャツに紺色のネクタイを締め、短めの髪を真ん中で分けている》
検察官「では、落ち着いて答えてくださいね。あなたは今日、会社を休んで出廷してくださいましたね」
証人「はい」
検察官「あなたは、平成20年6月8日に秋葉原で起こった殺傷事件の目撃者ですね」
証人「はい」
検察官「その日は、なぜ秋葉原に行ったのですか」
証人「はい。パソコンの部品を買いに、秋葉原へ行きました」
検察官「何時ごろ、秋葉原に着きましたか」
証人「着いたのは、昼過ぎと記憶しています」
検察官「事件前、どの通りを歩いていましたか」
証人「私は、中央通りを、下(南)から上に歩いていました」
検察官「何を見ながら歩いていましたか」
証人「はい。交差点の左上にある、工事現場を見ながら歩いていました」
検察官「何か視界に入りましたか」
証人「左の方向から、トラックが交差点に進入してくるのが見えました」
検察官「トラックの様子は?」
証人「すごいスピードでした。瞬間的に『まずい、速すぎる』と思いました」
検察官「交差点の信号は?」
証人「はっきりと青と覚えていませんが、人がいっぱいいたし、自分も渡ろうとしていたので、青だったと思います」
検察官「速度は?」
証人「(時速)40キロくらいだったと思います」
証人「大きな音でドンと聞こえ、人がはねられたと思いました」
検察官「はねられた人は見ましたか」
証人「直接は見ていません」
《トラックが停止した場所を見取り図に書き込むように促され、証人は、パソコン量販店のソフマップを通り過ぎたところの路上に印を付ける》
検察官「当時の状況を教えてください」
証人「何が起きたのか分からず、混乱しました」
検察官「交差点で動きはありましたか」
証人「ソフマップのあたりから警察官が警笛を吹きながら入ってきました」
《証人はソフマップ前の車道の警察官の場所にAと記した。当時、証人は交差点の対角線上にいたという》
証人「血を見るのが苦手で、意図的にはねられた人は見ませんでした」
検察官「何を見ていましたか?」
証人「ソフマップの前あたりの様子を見ていました」
検察官「そのとき何か視界に入りましたか?」
証人「はい。(警察官と証人の間に)警察官に男が割り込むように入ってきました」
《証人は男がいた場所に(1)と書き込む》
検察官「この男を見たとき、どう思いましたか」
証人「様子がおかしいと思いました。気が動転して、錯乱していると思いました。交差点内のほかの人はひかれた人を『大丈夫?』と見ていた。でも、男は違っていて、錯乱したように走っていました。トラックの運転手は、事実を受け止められていないと思いました」
検察官「その男はここにいますか」
証人「はい、います。左手にいる加藤被告です」
検察官「それではこれから、犯人と呼びます。犯人は(1)からどこに行きましたか」
《証人は自分がいた場所の印と近接したところに、加藤被告が移動した先として(2)を書いた。証人は加藤被告が(1)から(2)まで走り抜けたことを証言する》
検察官「どのように走りましたか」
証人「手を伸ばし、脇を開いていました」
《証人は当時の様子を再現しようと、実際に自分の両手を広げた。加藤被告は当時、両手を飛行機の翼のようにしていたようだ》
検察官「(2)の地点に人はいましたか」
証人「記憶では数人いました。(加藤被告が何をしたのかは)記憶があいまいで覚えていませんが、こちらを向いて正対したことは、はっきり覚えています」
検察官「加藤被告で間違いない?」
証人「はい」
検察官「何か声は聞きましたか」
証人「(加藤被告が)(1)から(2)に移動するとき、2つ聞こえました。ソフマップのほうから『逃げろ』と聞こえ、続いて『そこの茶のジャケット、ナイフを持っているぞ』と聞こえました」 検察官「どう思いましたか」
証人「犯人の手を見ました。でもジャケットのサイズがあっておらず、だぶつき、手のナイフは確認できませんでした」
検察官「犯人はあなたの近くを通りましたか」
証人「はい。『まずい、逃げなきゃ』と思った。でも足が地面にはりつき、いうことをきかなかった」
《加藤被告は証人の横を通りすぎ、中央通りを南に駆け抜けていった。証人はその姿を見た後、交差点内の(2)の方に視線を向けたという》
検察官「誰か見ましたか」
証人「はい。しゃがみ込む男性を見ました」
《証人は男性がいた場所にBと書き込む。加藤被告がいたとされる(2)とほぼ同じ場所だ》
検察官「男性の特徴は?」
証人「厚手のジャケット、濃いめの(色の)ズボンをはいていました。年齢は私と同じくらいに見えました」
検察官「男性はどのような体勢でしたか?」
証人「男性は私のほうに体を向けて、しきりに左腹あたりのシャツをズボンから出し、何かを訴えていました」
検察官「どう思いましたか」
証人「刺されたと思いました。血は見ていませんが、横にいた人が『こっちも刺された。救急車を』と叫んでいました。さっきまで男性のところにいた犯人が刺したと思いました。また、右手から『誰かきれいなハンカチを』という声が聞こえました。右手に視線を向けると、男性が倒れていました」
検察官「男性の特徴は?」
証人「中年の男性で黄色のTシャツを着ていました。こちらに背中を向ける形で倒れ、Tシャツに血が大量にしみ出していた。さきほどの犯人に刺されたと思いました」
検察官「何をしましたか」
証人「自分のハンカチを手渡しました。その後、交差点に視線を戻したら、最初の警察官が座り込んでいました」
《証人は検察官から事件直後の写真を示され、そこに写る被害者、証人自身に印を付けた。その際、Bの男性が松井満さん=当時(33)=だと説明を受ける。》
検察官「Bの男性がどうなったか知っていますか」
証人「東京地検で検事から話を聴かれたとき、亡くなったと聞きました。年齢が自分と同じと知り、無念と思い涙が出ました」
検察官「事件についてどのように思いますか」
証人「いろいろなことが犯人にあったと思いますが、7人が亡くなっています。悔しいだろうなと。被害者と遺族のことを思うと、極刑を希望するだろうと思います」
《検察官の証人尋問が終わった。弁護側と裁判官側は質問せず、村山浩昭裁判長が休廷を告げる。休廷をはさんで2時間後に、この日3人目の証人尋問が始まる予定だ》
◎上記事は[産経新聞]からの転載・引用です
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