コロナと障害者 課題に取り組む機会に
中日新聞 社説
2021年3月12日 金曜日
コロナ禍のしわ寄せは社会的弱者に集中している。障害者も例外ではない。長く放置されてきた問題が背景となり、事態が深刻化している例が目立つ。この災いを課題に取り組む機会にしたい。
身体、知的、精神の区分を問わず、コロナ禍は障害者たちにも厳しい日常生活を強いている。
例えば、視覚障害者。外出先で声をかけてくれる人が減った。物に触れることを制限され、マスクも嗅覚を鈍くするため、ストレスが増すという。多くの当事者たちが働く鍼灸(しんきゅう)院やマッサージ業も客が激減し、解雇が相次いでいる。
施設で暮らす知的障害者は家族らとの面会が制限され、孤立感を募らす人が少なくない。作業所などに通う人も、施設の一時閉鎖で生活リズムを崩す人が多い。
地域で自立生活を営む障害者らは深刻だ。複数の介助者たちが交代で付き添うケースが多いが、一人でも感染の疑いが出れば、ローテーションが崩れてしまう。
これらとともに、長く未解決になっている問題が事態の深刻化を招いているケースがある。
精神科病院でのクラスター(感染者集団)の多発が一例だ。これまで三十病院以上での発生が確認されている。換気が十分ではない閉鎖病棟が一因とされている。患者の対応の難しさを理由に一般病院が患者の転院を拒む例も少なくなく、死亡例も出ている。
精神科病院から地域医療中心へ移った欧米諸国に比べて、日本は精神科の病床数が多く、入院期間も突出して長く、かねて問題視されてきた。こうしたことがクラスター多発の背景になっている。
自立訓練などの障害福祉事業所もコロナ禍で経営難に直面している。事業者への報酬は現在、利用回数を基にした日額(実績)払いで算出されている。利用者がコロナ禍で減れば、減収となる。だが固定費は重くのしかかる。事業者団体は、かねて市場原理的な日額払い制度の廃止を訴えてきた。
いずれも先延ばしにされてきた問題だ。コロナ禍は災禍だ。だが、こうした構造的な問題を解決する好機にもなり得る。政府は前向きな姿勢に転換すべきだ。
緊急に対処すべき課題もある。検査の徹底やワクチン優先接種の対象に障害者を加えることだ。障害者には健常者に比べ、手洗いやマスクの装着が難しい人が少なくない。すでに病院団体や当事者団体なども要望している。政府には待ったなしの対応を求めたい。
◎上記事は[中日新聞]からの転載・引用です
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〈来栖の独白 2021.03.12 Fri〉
世の中に何が起きても、人はそれを「差別」に結びつける生きものだ。障害を持つ人は、その障害(「障害」という言葉を使うこと自体に、痛みを覚えずにはいられないが)の苦しみだけでなく、差別にも傷められる。