プーチン大統領が見据える「新世界秩序」 By Nina Khrushcheva

2014-03-28 | 国際

コラム:プーチン大統領が見据える「新世界秩序」
 REUTERS 2014年03月28日 16:23 JST[26日 ロイター] -By Nina Khrushcheva
  ウクライナ南部クリミア半島の編入を強行したロシアのプーチン大統領。筆者の頭をよぎるのは、もしロシアの領土拡大への欲望が、クリミア半島だけで満たされなければどうなるかという懸念だ。プーチン大統領はウクライナ東部や、さらにモルドバなどにも次々と手を伸ばしていくのだろうか。
  実際、世界の目がウクライナの首都キエフでの反政府デモやソチ五輪に向いていた先月、モルドバのガガウズ自治区では、ロシアへの編入の是非を問う住民投票が静かに行われていた。クリミア同様に親ロシア派が多い同自治区では、住民たちは、「西側太陽系の小さな衛星群」でいるより、「プーチンの惑星」になる方が経済的に楽になると訴えている。
  ロシア編入という言葉が耳に心地よく響くのは、もちろん机上の空論に過ぎない。暮らし向きが良くなるという約束は、西側の制裁でロシア経済が急速な下降線をたどれば、消えてなくなる可能性が高い。ルーブルはすでに対米ドルで今年に入って約9%下落した。多くの人(筆者自身を含む)は、プーチン大統領は近いうちに国際的な反発を乗り切れなくなるとみている。
  しかし、もしプーチン大統領の真の狙いが、旧ソ連の再統合を指揮するだけにとどまらなかったらどうだろうか。プーチン大統領の長期的戦略が、世界で新たな保守的ブロックを構築し、冷戦構造の繰り返しを狙っているとしたらどうなるだろう。
  反西側を声高に訴えることで、プーチン大統領はロシア国民を、これまで以上に従順かつ愛国的な市民という型枠にはめこもうとしているが、すでにそれは効果を表しているようだ。プーチン政権下では、国民の実に63%が自国を「大国」とみるようになっている。これは、過去数年で最高の水準だ。
  西側と距離を置く今のロシアでは、プーチン大統領はジャングルの王として振る舞うことができる。そしてプーチン大統領にとってジャングルはロシア国内だけでなく、彼が作り上げようとしている全く新たな世界秩序でもある。
  ロシアが、特にモスクワが2008年までに、かつてキリスト教正教会の中心地だった東ローマ帝国の首都ビザンチウムを模倣し始めたことは今や明らかだ。東ローマ帝国の公式の国章だった双頭の鷲の紋章は現在、モスクワ市内の地下鉄や政府の建物、赤の広場、ボリショイ劇場など随所で見られる。
  これは、歴史的には適切なことだと見なされた。モスクワは1400年代から「第3のローマ」として知られていた。東ローマ帝国が滅びると、モスクワ公国は正教会の擁護者としての責任を引き受けるようになったからだ。今、モスクワはその役割を再び演じているのかもしれない。
  ソチ五輪開催の直前、プーチン大統領は、ロシアが「保守的価値観」の拠り所になると宣言した。プーチン大統領は、西側の「新植民地主義」に苦しむすべての国のリーダーになろうとしているように映る。
  プーチン大統領はまた、米国に力強く対抗することで、世界の表舞台での自身の存在感を巧みに取り戻して見せた。米国家安全保障局(NSA)が個人情報を収集していた問題では、それを暴露した中央情報局(CIA)元職員エドワード・スノーデン容疑者の一時亡命を認めた。世界が緊迫したシリア情勢では、化学兵器を国際管理下に置くという提案をアサド政権に受け入れさせた。米経済誌フォーブスは、2013年の「世界で最も影響力のある人物」にプーチン大統領を選んだ。
  なぜプーチン大統領はアサド政権への支援を続けるのか。その理由は恐らく、新たな「東側」ブロックを作り出すことで、ポスト冷戦構造を組み直すことにある。今や新たな軍事独裁政権下にあるエジプトは、米国よりロシアを好むとみられている。ロシアとエジプトは、保守的価値観や石油や武器に根差した「新たなワルシャワ条約機構」を構築するかもしれず、そこにはイランも参加する可能性がある。
  この反民主主義的国家の集合体に、世界第2位の経済大国となった中国が加われば、さらに心強いだろう。中国は中国で、人権問題で道徳性などを講釈してくる西側に不満を持っている。
  とは言うものの、中国は自分たち単独で世界のリーダーになろうと躍起で、イランは西側との関係を「リセット」しようとしているため、この戦略はうまくいかないかもしれない。しかし、こうも考えられる。もしプーチン大統領が、中国には彼らが欲しがる「領土の賄賂」を贈り、イランには核の技術を提供するなら、両国が新たなワルシャワ条約機構に参加する可能性はある。
  プーチン大統領は、ポスト冷戦構造への不満を新冷戦イデオロギーに変えることはできるかもしれない。そうなれば、しばらくは権力の座にもとどまれるだろう。しかしながら、そのイデオロギーに未来はない。
  1991年の旧ソ連崩壊以降、西側には矛盾や偽善もあったが、われわれの多くは、イデオロギーが渦巻いたり、司法制度や経済制度を軍が拒絶できる世界ではなく、安心と礼節のある世界に住んでいる。大局的に見るなら、こちらの方がすべての人に恩恵をもたらす。残念ながら、プーチン大統領に同じことはできない。
  *筆者は、米ニューヨークにあるニュースクール大学の国際関係学教授。
  *本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
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