「あの判決ってやっぱりヘン!和歌山カレー事件最高裁判決」集会。辛淑玉さんが関係者にインタビュー

2009-07-22 | 死刑/重刑/生命犯
記者の目:毒物カレー事件被害者と、私の取材姿勢=加藤明子(和歌山支局)
 ◇つかず離れず変わらず 60歳警察官から学ぶ
 98年7月に和歌山市で起きた毒物カレー事件の犠牲者4人の慰霊祭が26日、殺人罪などに問われた林真須美死刑囚(48)の死刑確定後、初めて営まれる。昨年から遺族や被害者を取材し、その心情の一部に接した。「世間に早く忘れてほしい」という一方で、「こんな悲しみを生む事件や事故を繰り返さないで」と望み、事件の風化を懸念する思いがある。相反する気持ちの間で揺れる被害者をどう支えたらいいのか。ある遺族は「つかず離れず、見守ってくれた仲間に支えられた」と表現した。彼らの言葉を聞き、それを報じることで命の重みを伝え続けることが記者にとっての「つかず離れず」ではないか。記者として、その取材姿勢をぶれずに守っていきたい。
 「あの人が殺された子の……」。ある遺族は事件後、近所のスーパーで買い物しているとそんなささやきを聞いた。目が合うと顔見知りが避けるような仕草。外出が怖くなり買い物はやめた。そんな出来事が重なり、世の中と疎遠になった。
 孤独な遺族が引き寄せられるようにつくったのが、和歌山犯罪被害者自助グループ「なごみの和(わ)」だ。毒物カレー事件の遺族を含む女性3人が00年に設立した。「家族を犯罪で奪われた苦しみは、同じ立場でなければ分からない」。抱え込んできた思いを吐き出し合った。
 その一人に息子を別の殺人事件で亡くした母親がいる。彼女は「事件後しばらくは被害者の集まりの中にいる方が安心できた」と振り返る。制度や支援、法律など話題は尽きなかった。しかし、気がつくと、普通の日常会話ができなくなっていたという。体重も激減した。「私はおいしいものが食べられるけど、息子はもう何も食べられない」という思いにさいなまれた。今は、お好み焼きを食べながら「ごめんね、私一人で食べて」と遺影に話しかけられる。
 毒物カレー事件の遺族も、11年の間に少しずつ日常を取り戻していった。色あせた写真を飾り、柱の落書きに触り、亡き家族の生きた証しを確かめつつ、「いなくなった者はいくら追いかけたって戻って来ない。生きるために忘れるのでなく、心の中を整理していかなければ」と自らに言い聞かせる遺族がいる。
 しかし取材という行為は、ようやく引き出しの中に整理し始めた記憶を、もう一度取り出させる行為だ。最後に交わした言葉、病院の廊下の風景、後悔と自責の念……。何度も話が途切れ、沈黙が覆う。苦しそうな姿に、どこまで踏み込むべきかためらった。
 そんな私に、毒物カレー事件の被害者支援を続けるある警察官の姿が、多くのことを教えてくれた。和歌山県警和歌山東署で今春、再任用された丸山勝警部補(60)は、刑事としてこの事件の捜査にあたり、その後現場を管轄する交番所長に転じた。遺族らと毎日顔を合わせ、雑談を交わし、日常の悩みの相談にのる。裁判での証言を伝える報道に動揺した被害者がいれば共に怒る。丸山警部補は、事件を捜査員として目の当たりにし、被害者らの苦しみを知っていた。それでも苦しみを共有できたわけではない。むしろ共有できないことを知り、「被害者を守る」という揺るがぬ信念で接しているように見える。
 どう取材すればいいか分からず、おずおずと近づいた私は、事件後に遺族を避けた人と同じだった。「なごみの和」のメンバーは「同情心から一時、近づくんじゃなく、何年もスタンスを変えず付き合えば信頼関係が生まれる。それが『寄り添う』ということではないか」と私に助言してくれた。毒物カレー事件のある遺族には趣味の太極拳の仲間が事件後も変わらず接した。「つかず離れず、いつも見守ってくれた」人たちだ。「だから、自分で立ち直っていこうと思えた」と、この遺族は言う。
 記者として、多くの遺族が節目の会見などで「家族を返して」と訴えたのを取材してきた。その声は、亡き家族を取り戻したいという思いであると同時に、同様の被害を出してほしくないという願いだ。だが、その思いも加害者の心に届かず、悲惨な事件や事故は繰り返されている。そのたび遺族は「加害者にも守り守られた家族があるはずなのに、家族を奪われる悲しみを考えてくれないのか」と憤る。平穏を強く願いながらも、遺族はそうした思いを社会に訴えたい時がある。その時、その声を世に発することが、記者にとっての「つかず離れず」だと思う。
 警察官や記者という立場に限らず、多くの人は犯罪被害に遭わず、その苦しみを共有することはない。だが、それぞれの距離で変わらず接することは、だれにでもできるはずだ。
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和歌山・毒物カレー事件:林死刑囚支援者、大阪で集会開く /和歌山
 和歌山市園部で98年7月起きた毒物カレー事件で、殺人罪などでの死刑判決が今年5月に確定した林真須美死刑囚(47)の支援者集会が19日、大阪市中央区久太郎町4の御堂会館であり、弁護団や関係者約200人が参加した。弁護団は再審請求を行う方針を明らかにしており、支援が呼びかけられた。
 集会は「あの判決ってやっぱりヘン!!-和歌山カレー事件最高裁判決」と題して、人材育成コンサルタントの辛淑玉(シンスゴ)さんが関係者にインタビューする形式で行われた。
 辛さんは林死刑囚の夫健治さんや弁護団に対し、「報道陣に水をかける場面はどうしてああなったのか」「どんな夫婦、親子関係だったのか」などと率直な質問を投げかけた。また、死刑判決の確定で家族と弁護人以外は面会や手紙のやりとりができない現状も報告された。【安藤龍朗】
毎日新聞 2009年7月20日 地方版


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