【主張】核不使用声明 抑止力の維持を損なうな
産経ニュース2013.10.28 03:10
米国の核の傘が機能しなくなったら、日本は周辺国の脅威にどう対応するのか。そんな懸念を抱かせる文書に日本は署名した。
国連総会第1委員会(軍縮)で発表された核兵器の不使用を訴える共同声明である。被爆国として核廃絶・核軍縮を求めるのは当然だが、これは日本がとるべき対応の半面にすぎない。
より本質的なことは、日本の平和と安全が米国の核抑止力により保たれている現実であり、それが損なわれないことだ。
声明は、核兵器が「いかなる状況においても」使用されないことが「人類の利益」と強調する。日本は過去3回、これが核の傘と矛盾するとして賛同しなかった。
しかし、今回は、日本の要請で「核軍縮に向けた全てのアプローチ」を重視するとの表現が盛り込まれた。
これにより核拡散防止条約(NPT)が段階的に核軍縮を目指す存在として認められ、その結果、NPTに基づく核兵器保有国による核の傘は容認されたとの見解から、日本は参加に踏み切った。
もっとも、声明には法的な拘束力はない。肝心の核兵器保有国はどこも賛同していない。ドイツなど主要国も署名を見送った。核兵器は、核兵器でしか抑止できないことを認識しているからだ。
直視すべきは周辺国の核兵器が現実の脅威になっている点だ。
北朝鮮について平成25年版の『防衛白書』は、「核兵器の小型化・弾頭化の実現に至っている可能性も排除できず」と分析した。日本のほぼ全域が射程内のノドンミサイルに、核弾頭が搭載されれば深刻な脅威だ。
中距離核ミサイルの照準を日本に合わせているのが中国だ。尖閣周辺で力による威嚇を強め、核戦力増強にも余念がない。ロシアは米国を上回る数の核を持つ。
これらの核の脅威を抑止しているのが、日米同盟に基づく核の傘の存在だ。防衛大綱は「米国の拡大抑止は不可欠」と明記している。抑止力とは相手が脅威を感じる攻撃力である。
日本が取り組むべきは、米国の核抑止力が十分に機能しているかどうかの検証だ。加えて、あらゆる事態を想定し、自らの抑止力を強化することではなかろうか。
国の独立と安全をどう守り抜くか。国家の責務は重く厳しい。
◎上記事の著作権は[産経新聞]に帰属します
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〈来栖の独白 2013/10/28 Mon. 〉
国際政治を動かしているのは核武装国である。このことをよくわかっているからこそ、非核武装国は何とか核武装国になれないものかと考え、逆に、既に核武装国になっている国々は、自分たちの価値を下げないために、これ以上、核武装国を増やしたくないと考える。日本はアメリカの核の傘の下にある。この「傘」が何を考えているか、どこまで有能であるかは疑問であるが。
ところで安倍内閣は、今国会での日本版NSCの創設を目指している。このために総理は、無用な軋轢、反日メディアの無理解なプロパガンダを避けようと靖国参拝を見送った、と私は理解している。ソフトパワーとして、最大限にインテリジェンスを駆使する。これが、事あるごとに「唯一の被爆国」と名指しされる我が国の防衛のありかたではないだろうか。
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◇ 『防衛省と外務省 歪んだ二つのインテリジェンス組織』 福山隆著 幻冬舎新書 2013年5月30日第1刷発行
第1章 知恵なき国は滅ぶ
P12~
すべては情報が決する
「情報」を制する者は天下を制す
彼を知り己を知れば百戦して殆(あや)うからず------。
言わずと知れた、兵法書『孫子』の一節です。これが書かれたのは、中国の春秋時代(紀元前770~403年)のこと。それまで、戦争の勝敗は運不運に左右されると考える人が大半でした。そういう時代に、戦争には人為的な「勝因」と「敗因」があると考え、それを理性的に分析したのが、『孫子』の画期的なところです。
冒頭に掲げた言葉は、その「謀攻篇」(実際の戦闘によらずに勝利を収める方法)に書かれたものでした。敵と味方の情勢を知り、その優劣や長所・短所を把握していれば、たとえ百回戦ったとしても敗れることはない。これは、戦争における「情報=インテリジェンス」の重要性を指摘した言葉にほかなりません。
ちなみに、「謀攻篇」には、「百戦百勝は善の善なるものに非ず。戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」という言葉もあります。
(p13~)戦火を交えることなく敵を屈服させるのが最善だという意味ですから、もし情報戦で勝利を収めることができたとすれば、それにまさるものはないといえるでしょう。
p22~
敗戦と同時に「厚いコート」を脱いだ日本
このように、アメリカは第2次大戦、9.11という大きな情勢変化が起こるたびに、情報機関という「防寒着」を厚めのものに着替えてきました。
もちろん、これはアメリカだけの特徴ではありません。国家と情報機関の関係を如実に示す1例として今はアメリカのケースを挙げましたが、どの国においても、これが基本的なあり方だと考えるべきでしょう。
p23~
どんなに武力を整えても、それを効果的に使いこなす「知恵」のない国は滅びます。そして国家の「知恵」は情報機関の質と量に大きく左右されるのです。
p27~
軍事インテリジェンスはアメリカ頼み
GHQによる占領統治が始まって以来、今日にいたるまで、外務省のインテリジェンスは専らアメリカのほうを向いていたといっていいでしょう。それも無理はありません。日米安保条約で日本はアメリカの同盟国となり、そのアメリカはCIAの設立などによって「情報超大国」としての地位を固めてきました。
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核兵器不使用声明発表 日本が初参加
NHK NEWS WEB 10月22日 6時38分
核兵器は非人道的なものだとしていかなる状況でも使用すべきではないと訴える共同声明が、国連総会の軍縮問題を扱う委員会で発表され、アメリカの核抑止力に頼る安全保障政策上の理由からこれまで参加を見送ってきた日本も、初めて参加しました。
国連総会の軍縮問題を扱う第1委員会では、21日、提案国のニュージーランドを始め、日本を含む125か 国が核兵器をいかなる状況でも使用すべきではないとする共同声明を発表しました。
共同声明はまず、「核兵器は過去の使用や実験の経験から制御不能な破壊力と無差別さを持ち、受け入れがたい人道上の影響をもたらすのは明らかだ」として、その非人道性を強調しています。
そして、これまでの国際的な核軍縮への取り組みを踏まえながら、「いかなる状況でも核兵器を2度と使わないことが人類の生存の利益につながる」と核兵器の不使用を訴え、「すべての国は核兵器の使用を防ぎ、拡散を防止して核軍縮を達成する共通の責任を有する」としています。
こうした共同声明は、去年の国連の同じ委員会やことし4月のNPT=核拡散防止条約の会議など過去3回発表されていますが、日本はアメリカのいわゆる「核の傘」に頼る安全保障政策上などの理由から参加を見送ってきました。
しかし、唯一の被爆国でありながら共同声明に参加しないことに内外から批判が高まり、日本政府は今回、「声明全体の趣旨が日本の安全保障政策や核軍縮の取り組みとも整合性が取れる内容になった」として、初めて参加しました。
共同声明を発表したニュージーランドのデル・ヒギー軍縮大使は記者団に対し、「日本政府の求めに応じて声明文の原案に部分的な修正を加え合意に達した」としたうえで、「日本はこれまで広島・長崎の被爆体験から核軍縮に積極的に取り組んできた。今回、共同声明に参加する決定をしたのもその理由からだ。日本の行動が国際社会に認知され、日本がわれわれの仲間に加わってくれることを期待していた」と述べ、日本の参加を歓迎しました。
*岸田外務大臣「国際社会を主導」
岸田外務大臣は、「共同声明全体の趣旨が、わが国の安全保障政策などに整合的な内容に修正されたことを踏まえ、参加することとした。声明では、核兵器による壊滅的な結末が、人類の生存や環境などに深く影響することが述べられており、唯一の戦争被爆国であるわが国は、こうした考えを支持する。わが国としては、核兵器を使用することの悲惨さを、国と世代を超えて語り継いでいくことなどを通じて、『核兵器のない世界』の実現に向けて、引き続き国際社会の取り組みを主導していく考えだ」とする談話を発表しました。
*日本政府の思惑・背景は
「核兵器はいかなる状況でも使用すべきではない」とする共同声明に、日本は初めて参加しました。
核兵器の廃絶に向けた共同声明は、国連や核拡散防止に関する国際会議などで、去年の5月以来、これまで3回、提出されていますが、日本は、アメリカの核抑止力に頼る日本の安全保障政策と矛盾するなどとして、参加することを見送ってきました。
しかし、唯一の戦争被爆国である日本が参加しないことに、被爆地の広島や長崎をはじめ、各国のNGOなどから反発の声が上がっていました。
広島県選出の岸田外務大臣は就任以来、一貫して、核軍縮の推進に強い意欲を示していて、今回の声明についても、早い時期から担当者に対し、参加に向けた調整を指示し、みずからも声明の取りまとめ役であるニュージーランドの外相らに直接、日本の立場を説明するなど働きかけを行ってきました。
その結果、声明では、「いかなる状況でも使用すべきではない」という文言は残されたものの、「核兵器の廃絶に向けたあらゆる手法や努力を支持する」などという文言が新たに盛り込まれることになりました。
こうしたことから、政府は、声明全体の趣旨を精査した結果、アメリカのいわゆる「核の傘」のもとにある日本の立場を縛るものではなく、日本の安全保障政策と整合性が取れると判断し、参加することになりました。
来年4月には、広島市で、軍縮や核の不拡散に関する国際会議が開かれることになっており、今後、日本に対し、核軍縮の牽引役として役割を期待する声がいっそう高まることが予想されます。
◎上記事の著作権は[NHK NEWS WEB]に帰属します
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◇ 日本 NPTの核不使用声明に署名せず/原発保有国の語られざる本音 2013-04-25
日本 NPTの核不使用声明に署名せず
NHK NEWS WEB 4月25日 6時56分
スイスのジュネーブで開かれているNPT=核拡散防止条約の会議で、核兵器は非人道的なものだとして、いかなる状況でも使用すべきではないなどとする共同声明が提出されましたが、唯一の被爆国の日本はこの声明に署名せず、NGOなどから批判の声が上がりました。
この共同声明は、ジュネーブで行われているNPTの再検討会議に向けた準備会合で24日、南アフリカの代表団が提出しました。
声明では「核兵器の使用によって、直接に人が死ぬだけでなく、社会や経済の発展は停止し、環境は破壊され、将来の世代は健康や食糧や水を失うことになる」として、核兵器の非人道性を強調しています。
そのうえで、「いかなる状況でも核兵器を二度と使わないことこそが人類生存の利益につながる」として、核兵器の不使用を訴えています。
共同声明には74か国が名前を連ねましたが、唯一の被爆国である日本は署名しませんでした。
これについて、軍縮会議日本政府代表部の天野万利大使は、記者団に対し、「核兵器が使用された場合の影響が非人道的なものだという点では賛同している」としたうえで、「いかなる状況でも使用しないとしている点が、日本の安全保障政策と相いれない」と述べました。
日本がアメリカのいわゆる「核の傘」で守られていることを、署名をしない理由の1つにしたものですが、会議に参加しているNGOなどからは批判の声が上がり、ジュネーブの軍縮会議日本政府代表部の建物の前で、およそ50人が抗議活動を行いました。
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「核の傘」で守られている 署名見送り
NHK NEWS WEB 4月25日
13時55分菅官房長官は、記者会見で、NPT=核拡散防止条約の会議で提出された、核兵器をいかなる状況でも使用すべきではないなどとする共同声明について、日本がアメリカのいわゆる「核の傘」で守られていることなどから、署名を見送ったことを明らかにしました。
この中で菅官房長官は、スイスで開かれているNPT=核拡散防止条約の会議で提出された、核兵器は非人道的なものだとして、いかなる状況でも使用すべきではないなどとする共同声明について、「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しいので、『いかなる状況でも』という文言を削除してほしいと働きかけをした」と述べました。そのうえで菅官房長官は、「日本の置かれている安全保障の状況を考えたときに、ふさわしい表現かどうかを慎重に検討した結果、賛同することを見送った」と述べ、日本がアメリカのいわゆる「核の傘」で守られていることなどから、共同声明への署名を見送ったことを明らかにしました。
一方で、菅官房長官は「わが国は唯一の被爆国なので、核兵器使用の影響についてはどの国よりも実態を知っている。二度と核兵器が使用されないことが人類の生存にとって利益であるという方向に全世界が進んでいく努力をするのは当然のことだ。今後もこうしたテーマの共同声明に参加できる可能性を真剣に探っていきたい」と述べました。
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〈来栖の独白 2013/4/25 Thu. 〉
不器用すぎる。日本は核保有していないのだから、署名さえすれば余計な抗議も受けずにすんだのではないか。どうせ無い袖は振れないのだから。
核は、抑止のためにある。核兵器は決して使われることのない兵器で、通常兵器とは存在意義が違う。核戦争には勝者はいない。一発の核ミサイルは耐えることのできない被害を及ぼす。お互いに甚大な被害を覚悟しなければならないから、核武装国同士はお互いに手出しができない。核兵器出現以降、核武装国同士の戦争は一度も起きていない。
核兵器は2度と使われることはない。しかし核兵器を持つか持たないかでは大違い。国際政治を動かしているのは核武装国なのである。このことをよくわかっているからこそ、非核武装国は何とか核武装国になれないものかと考え、逆に、既に核武装国になっている国々は、自分たちの価値を下げないために、これ以上、核武装国を増やしたくないと考えるのである。
国連(国際政治)においても、核兵器を所有する大国は、話し合いの末の多数決を拒否するカードを持ち、自国が不利と見るや、すぐさまこのカードを切る。オバマ大統領も本気で核兵器を廃絶させるのなら、アメリカが音頭を取って「せーの」で核廃絶を決議すればいいのだが、そんなことを本気で考えてもいないし、重要な話し合いになればなるほど、どこかの国が国が拒否権カードを切るのがわかっているから、議題にも上らないのが現実だ。
第2次大戦、そして冷戦以後の国際社会がそれまでと変わったのは、腕力の強い者が腕力にものを言わせる、すなわち戦争を仕掛けるのではなく(そういうことも時には起こるが)、大声でものを言い、発言力で相手をねじ伏せるようになったことだろう。それは国連が機能した結果というより、核抑止の効果といえる面が大きい。
もっとも、ただ大声を出しただけでは、誰も聞いてはくれない。世界の国々の耳を傾かせ、従わせるのに必要なものこそが腕力、すなわち軍事力で、そのために大国は核武装をしているのである。
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◇ 原発保有国の語られざる本音/多くの国は本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり 2011-05-10
知らないのは日本人だけ? 世界の原発保有国の語られざる本音
JB PRESS 2011.05.10(Tue)川島博之〈東京大学大学院農学生命科学研究科准教授〉
4月の最終週に、ドバイ経由でエチオピアに出張した。出張ではホテルのロビーなどで外国人と何気ない会話を交わすことも多いのだが、今回出会った人々は、私が日本人と分かると、異口同音に「FUKUSHIMA」について聞いてきた。世界の人々が原発事故に関心を寄せているのだ。福島は広島、長崎と共に、広く世界に知られた地名になってしまった。
日本はこれからも原子力発電を続けるべきであろうか。それとも、原発は取り止めるべきなのだろうか。
報道各社による直近の世論調査では、賛否はほぼ拮抗している。多くの人が、地震が多い日本で原子力発電を行うことはリスクが伴うが、便利な生活を送るためには仕方がないと考えているのだろう。
現在は、原発から漏れている放射性物質の封じ込めや津波で破壊された町の復興に関心が集まっているが、一段落つけば、これから原発とどう付き合うか、真剣に議論しなければならなくなる。
その議論を行う前に、世界の原発事情についてよく知っておくべきだ。フランスが原発大国であることを知っている人は多いと思うが、その他の国の事情については、よく知られていないと思う。
筆者の専門はシステム分析だが、システム分析ではデータを揃えて広い視野から先入観を持たずに現実を直視することが第一歩となる。そこで本稿ではIEA(国際エネルギー機関)のデータを基に、世界の原発事情について考えてみたい。そこからは原発の意外な一面が見えてくる。
*原発を所有する国の意外な顔ぶれ
原発は最先端の科学技術を利用したものであるから、先進国にあると思っている人が多いと思う。しかし、調べて見るとどうもそうとは言い切れない。
現在、31カ国が原発を所有している。原発による発電量が最も多い国は米国であり、その発電量は石油換算(TOE)で年に2億1800万トンにもなる(2008年)。
それにフランスの1億1500万トン、日本の6730万トン、ロシアの4280万トン、韓国の3930万トン、ドイツの3870万トン、カナダの2450万トンが続く。日本は世界第3位だが、韓国も第5位につけており、ドイツを上回っている。
その他を見ると、意外にも旧共産圏に多い。チェルノブイリを抱えるウクライナは今でも原発保有国だ。石油換算で2340万トンもの発電を行っている。その他でも、チェコが694万トン、スロバキアが440万トン、ブルガリが413万トン、ハンガリーが388万トン、ルーマニアが293万トン、リトアニアが262万トン、スロベニアが164万トン、アルメニアが64万トンとなっている。
旧共産圏以外では、中国が1780万トン、台湾が1060万トン、インドが383万トン、ブラジルが364万トン、南アフリカが339万トン、メキシコが256万トン、アルゼンチンが191万トン、パキスタンが42万トンである。
その他では、環境問題に関心が深いとされるスウェーデンが意外にも1670万トンと原発大国になっている。また、スペインが1540万トン、イギリスが1370万トン、ベルギーが1190万トン、スイスが725万トン、フィンランドが598万トン、オランダが109万トンとなっている。
原発を保有している国はここに示したものが全てであり、先進国でもオーストリア、オーストラリア、デンマーク、アイルランド、イタリア、ノルウェー、ニュージーランド、ポルトガルは原発を所有していない。
ここまで見てくると、一概に原発は先進国の持ち物と言うことができないことが分かろう。
*多くの国は本音で核兵器を持ちたがっている
東欧諸国は旧共産圏時代に建設し、今でもそれを保有している。しかし、台湾やインド、ブラジル、南アフリカ、パキスタンになぜ原発があるのだろうか。韓国の発電量がなぜドイツよりも多いのであろうか。また、G7の一員でありながら、なぜイタリアには原発がないのか。
原発の有無は、その国の科学技術力や経済力だけでは決められない。
ある国が原発を所有する理由を明確に知ることは難しい。その国の人に聞いても、明確な答えは返ってこないと思う。しかし、原発を持っている国名を列記すると、その理由がおぼろげながら見えてくる。原発は国家の安全保障政策に関係している。
原子力による発電は原子力の平和利用であるが、ウランを燃焼させることにより生じるプルトニウムは原子爆弾の原料になる。また、原発を製造しそれを維持する技術は、原爆を製造する技術につながる。原発を持っている国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができるのである。
北朝鮮が原爆の所有にこだわり、それを手にした結果、米国に対して強い立場で交渉できる。この事実は広く知られている。そのために、イランも原爆を欲しがっている。
米国が主導する世界では、世界の警察官である国連の常任理事国以外は核兵器を所有してはいけないことになっている。それ以外の国が原爆を持つことは、警察官以外が拳銃を持つようなものであり、厳しく制限されている。
しかし、各国の利害が複雑にぶつかり合う世界では、金正日が米国に強気に出ることができるように、核兵器を持っていることは外交上で有利に働くと考えられている。
多くの国は、本音の部分では核兵器を持ちたいと思っているようであり、原発保有国のリストと発電量を見ていると、その思いの強さが伝わってくる。
*フランスが原発大国でイギリスの原発が小規模な理由
日本では、フランスが原発大国であることはよく報じられるが、その理由が語られることはない。フランスが原発に舵を切ったのは、地球環境問題がやかましく言われるようになった1990年代以前のことである。フランスはCO2を排出しない発電方法として原発を選んだわけではないのである。
それには、西側にいながら米国と一線を画したいと考えるドゴール以来の外交方針が関連していると考えるべきであろう。同様の思いは、国防に関心が深いスウェーデンやスイスにも共通する。また、フィンランドは常にソ連の脅威にさらされてきた。
そう考えると、西側の中でもイギリスの原発発電量がスウェーデンよりも少なく、フランスの約1割に過ぎないことがよく理解できよう。イギリスの外交方針が米国と大きく異なることは多くない。原子力の力を誇示して、ことさらに米国と一線を画す必要はないのである。
韓国に原発が多いことも理解できる。米国が作り出す安全保障体制の中で原爆を持つことは許されないが、北朝鮮が持っている以上、何かの際に原爆を作りたいと考えている。
その思いは台湾も同じである。旧共産圏に属する小国が、多少のリスクに目をつぶって原発を保持し続ける理由もそこにある。東西の谷間に埋もれるなかで、少しでもその存在感を誇示したいと思っているのだ。
*「絶対安全」とは言えない原発の所有を国民にどう説明するか
このような力の外交の一助として原発を位置づけるという考え方は、多くの国で国民にそれなりの理解を得ているようだ。だから、フランスや韓国や台湾、ましてパキスタンで反原発のデモが繰り返されることはない。
しかし、日本、ドイツ、イタリアではそのような考え方は国民のコンセンサスとはなり難い。言うまでもなく、この3国は第2次世界大戦の敗戦国であり、多くの国民は力による外交を毛嫌いしている。そのために、原発の所持を安全保障の観点から国民に説明することが難しくなっている。
この3国では原発所持の理由を、経済性や絶対安全であるとする観点から説明することになる。しかし、それだけでは、使用済み燃料の最終処理に多額の費用を要し、また、福島の事故で明らかになったように、絶対安全とは言えない原発の所有を国民に説明することはできない。
イタリアはチェルノブイリ原発事故の後に国民投票を行い、原発を廃止した。また、ドイツも緑の党などが強く反対するために、福島の事故を受けて、原発の保有が大きな岐路に立たされている。
ここに述べたことを文書などで裏付けることは難しい。しかし、原発の保有国リストや発電量を見ていると、自然な形で、ここに述べたようなことが見えてくる。世界から見れば、日本の原子力政策も潜在核保有力の誇示に見えていることであろう。
これまで、日本における原発に関する議論は、意識的かどうかは分からないが、本稿に述べた視点を無視してきた。
しかし、原発の経済性と安全性の議論だけでは、なぜ、原発を持たなければならないのかを十分に議論することはできない。福島の事故を受けて、今後のエネルギー政策を考える際には、ぜひ、タブーを取り除いて議論すべきであろう。
戦後66年が経過しようとしている。少子高齢化も進行している。そろそろ、老成した議論を始めてもよいのではないであろうか。(背景の着色は来栖)
〈筆者プロフィール〉
川島 博之 Hiroyuki Kawashima
東京大学大学院農学生命科学研究科准教授。1953年生まれ。77年東京水産大学卒業、83年東京大学大学院工学系研究科博士課程単位取得のうえ退学(工学博士)。東京大学生産技術研究所助手、農林水産省農業環境技術研究所主任研究官、ロンドン大学客員研究員などを経て、現職。主な著書に『農民国家 中国の限界』『「食糧危機」をあおってはいけない』『「食糧自給率」の罠』など
・世界の中の日本 メイド・イン・ジャパンの製品を世界中に売りまくりジャパンバッシング(日本叩き)が沸き起こっていたのは遠い過去の話となった。今では何を求めても反応すらしない国(ジャパンミッシング)として世界から忘れられようとしている世界第2位の経済大国ニッポン。国際社会から孤立しないためには何をすべきなのか。海外に張り巡らされた日本人随一のネットワークを生かして、日本の取るべき針路を考察する。
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◇ 広島原爆ドーム「核保有国でないから、こんな悲惨な被害を受ける」を心に刻むインド国防相 WiLL2013/5月号
WiLL5月号 2013年4月26日発行
蒟蒻問答 第84回 「中韓は対話の域を超えている」堤堯×久保紘之
(抜粋)
p246~
*核問題はインドを見習え
編集部 ところで、北朝鮮に対してはどう動いたらいいのでしょう?
堤 日本のメディア、評論家連中は、北朝鮮が実験をくり返すたびに「冷静に構えて話し合いの道を探れ」などと埒もないセリフを言うが、北は親子3代、核ミサイル保有への確固たる意志は変わらない。なのに、いたずらに時間を与えてきた。核に対抗できるのは核しかない。備えあれば憂いなしだ。何でその方向に議論が進展しないのかね。
久保 パワーポリティクスの世界を堂々と生き残るには、核を持たないと土台無理な話なんですよ。アルジェリアの事件について「なぜ守れなかったのか」と質問された際、安倍はこう言いました。
「イギリスなど、武力を持っていて戦争行為をする準備ができている国と、我々のような国と同じように論じられても困る」
これは全くその通りなんだけど、かつて池田勇人は外交交渉の帰りに思わず「ああ、日本にも核があったらなぁ」とため息混じりに呟いた。それから半世紀経っても、この問題は“呟き”の域を出ない。
堤 でも、いきなり世界に向けて「日本も核を持つ」と宣言するわけにいかんよ。手順というものがある。
久保 北朝鮮は核弾頭を作り、ノドン300発の照準を日本に合わせているという。そんななかで、悠長に手順を踏んでいる場合ですかねぇ。
たとえば現在、ロケット開発や原子力発電などを民間に委託しているけど、それこそ国家が前面に立ってやるべきことでしょう。いまの原発が危ないというのなら、国家が科学の粋を結集し、採算抜きで世界一安全堅固で高性能の原発を開発すればいいだけの話です。
山中伸弥教授のiPS細胞の研究は人間の生命科学の進展に大きく貢献したけど、一方では、その生命を守るために生命を犠牲にしなければならない時が、国家にはある。そのためには、まず国家の独立が必要。そして、その国家を有効に維持・防衛するためには核武装が必要になる。これはノーベル賞作家のクロード・シモンが、祖国フランスの核実験を支持するために展開した論理です。
堤 核の問題はインドがいい例となる。かつて佐藤栄作がひそかに核武装を意図し、西ドイツに共同開発を呼びかけたことがある。首相シュミットは拒否したけど、これを利用してアメリカから核のレンタルに成功した。一方、日本には核のレンタルすら認めない。
比べてインドは深く静かに潜行し、秘密裡に核を作ってしまった。当時、それに気付かなかったことでCIA長官がクビになり、CIA無用論まで出た。インドはアメリカから経済制裁を喰らったけど、こう訴えた。「われわれは中印戦争で惨敗した。中国は核を持っている。我々も持たねばまたやられる」とね。
中国の脅威を言い立てて、いまじゃインドの核は公認、アメリカから核の技術を提供されるまでになった。中国の脅威をいうなら、日本も同様だ。おまけに北の脅威も加わった。ドイツやインドにできたことが、なぜ日本にはできない。
加瀬英明さんに聞いた話では、インド国防相の部屋に行くと、広島の原爆ドームのカラー写真が壁に飾ってあるそうだ。聞けば、「核を持たなければ、こういう悲惨な被害を受けることを、毎日、心に刻むために飾ってある」という答えだ。
アメリカは核を持った国とは絶対に戦争をしない。イラクのサダムは核を持たないからやられた。金正日も金正恩もそれを知っているから核に執着する。
北朝鮮が最初の核実験を強行した時、安倍晋三と中川昭一は「日本も核の議論を始める必要がある」と発言した。この二人を朝日新聞はNHKと組んで叩きに叩いた。他の大手メディアも同様だ。かつて安倍の祖父・岸信介は「自衛のために小型の戦術核をもつことは憲法違反ではない」と発言して、これまた物議を醸した。安倍が官房長官の頃、早稲田大学のキャンパスで、祖父の「戦術核合憲論」をどう思うかと問われてこれを是認したときも、朝日以下のメディアは叩いた。核の議論をする者を目の仇に、袋叩きにして議論を封殺する。核だけではない。いまだに日本人は軍備や核という言葉にアレルギーをもっている。
久保 国民が反対しようがしまいが、国家が生き残るためにやらなきゃいけないことは、断固としてやらないといけないんですよ。
p250~
*ネクロフィリアからの脱却を
久保 「原発も国家も大企業もいらない。小さな共同体をつくり、再生可能エネルギーで十分生きていける」。「3・11以降の反核・反原発運動家らはどんどん“縮志向”になって、そんなユートピア像しか思い描けない。
エーリヒ・フロムは『悪について』(紀伊國屋書店)のなかで、ネクロフィリア(死への希求)とバイオフィリア(生への希求)という2つの概念を提示しました。
フロムによれば、「核戦争は戦争の一切の合理化を成立不能にする」ものであり、核戦争阻止、核実験反対に立ちあがらない人々をネクロフィリア、その逆をバイオフィリアと呼んだ。フロムは原発と原爆を混同したりはしていませんが。
さて、いま反原発デモに参加する大江健三郎や菅直人など、日本の反核平和愛好者たちは「生に向かおうとする気持ち」はあっても「平和を守るために命を犠牲にすることもありうる」という積極的平和主義を生きたことはない。だから彼らをバイオフィリアと言えるわけがない。
僕はかつて戦後知識人の核、“絶対悪”神話の原点はどこなのか、探ってみたことがあります。そうすると、荒正人の「火」(昭和46年6月14日)という論文に辿り着いた。荒はそのなかで、核は壊滅的、否定的な側面と、平和的な積極的な側面があると考えた。前者を取るなら世界はネクロポリス(死都)に、後者を取るならばアクロポリス(世界市)になる、と。そして、いずれの道を選ぶかは、人民の手による「政治」にかかっていると荒は書いています。荒は共産主義者なので、「ソ連の核はいい核」となってしまうわけですが・・・。
問題は荒が、「今日、人類は星のエネルギーを獲得したのである。この無限大のエネルギーもいつかは必ず産業化されるだろう」と書いたユートピア的なイメージが、いつ頃から反核・反原発を同列に扱い、マイナスイメージ一色に塗りつぶされたのか、です。(略)
p251~
ともあれ、安倍のキャラクターで僕がもっとも評価するのは、バイオフィリア的側面です。ならば、彼がやるべきことは「戦後レジームの脱却」、すなわちネクロフィリア的な核ニヒリズムという戦後精神の改革を断行することでしょう。
堤 それは参院選後にやると思うよ。まずは経済を立て直さないと、国防すら覚束なくなる。軍備も技術革新もカネがかかるんだよ。
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◆ 【脱中国元年】中国・北朝鮮には、防衛戦略の抜本的改変から(5) 2013-02-24
【脱中国元年】中国、北朝鮮には寝技で対抗 新外交は防衛戦略の抜本的改変から★(5)
zakzak2013.02.24
防衛大綱の見直しが決まった。
将来的に日本は、核兵器で恫喝する中国や北朝鮮の脅威に、どう抑止力(対抗能力)を持つことができるのか。あるいは核バランスをどうやって達成できるか?
選択肢として従来いわれたシナリオも多いが、本稿で筆者は「考えられないことを考える」(ハーマン・カーン)。
日本が自主的に核兵器開発を行うには、もはや間に合わない。そもそも、核拡散防止条約は日本に核武装させないための世界の監視体制であり、IAEA(国際原子力機関)の査察は日本の原発の軍事転用を防ぐ目的で設営された。
であるとすれば、短時日裡に日本が核保有するには、常識では「考えられないシナリオ」を検証しておく必要がある。
(1)パキスタンから買う。これまでの累積援助5000億円をチャラにするのが交換条件で軍事専制のパキスタンと秘密交渉を展開する。同時にこれはパキスタンの同盟国=中国に強い猜疑心を生ませるだろう。
(2)インドと安保条約を結び、インドが中国へ向けている核兵器を一時借用するなりの密約を締結する。密約がなくともあるように国際社会の舞台裏で撹乱(かくらん)情報を流す。
(3)日米安保条約の下、在日米軍があり、第7艦隊が横須賀、佐世保に寄港している。在日米軍の施設など総資産はおよそ25兆円程度で、年間維持費は2兆円程度と推計される。
日本が持つ対米債権は1兆2000億ドル、為替差損ですでに40兆円ほど損をしているが、これを政治的に有効に使えばよい。つまり対米債権を担保に、在日米軍と第7艦隊を一時的にでも日本の指揮下におく。在日米軍を核兵器付きで傭兵化するという日米同盟の密約は技術的に可能ではないか
(4)腐敗した中国軍の高官を買収し、中国から核兵器を横流しさせる。あるいは中国の軍の一部を買収し、将来の日本への亡命を条件に、日本向けミサイルの頭脳にあるコンピューターを入れ替えるなどして無効化する。
これらの作戦を実践するには、強固なハッカー部隊と、インテリジェンス部隊が日本に必要とされることは言うまでもない。
うさぎの耳はなぜ長いのか。
戦後日本は自ら謀略を仕掛けることもなく、ひたすら国際社会の「善意」に期待して外交を展開し、国家安全保障を米国に依存してきた。このため、未曾有の危機に遭遇しても自らは何をなすべきかの判定さえできなくなった。
尖閣戦争が近いという危機の到来がこうした幼児性、劣化した安全保障感覚を呼び覚まし、危機管理の中枢とは何かを考えさせてくれる絶好の機会となった。
国家たるべき条件は、インテリジェンス戦略の確立、そのための情報機関設立が喫緊に必要とされている。 (評論家、ジャーナリスト・宮崎正弘)=おわり *強調(着色)は来栖
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◇ 田母神俊雄著『田母神国軍 たったこれだけで日本は普通の国になる』(産経新聞出版) 2012-07-25
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◇ 中国、原子炉新規稼働へ/原発を持つ国は、何かの際に短時間で原爆を作ることができる/原発保有国の本音2011-05-11
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