出かけよう、日美旅 「日曜美術館」その舞台をめぐる
2019年9月 1日 / 旅の紹介
第98回 鳥取県・日野町/日南町へ 小早川秋聲のふるさとを行く旅
人口約4300人の小さな町、鳥取県日野郡日南町にある町立美術館「日南町美術館」。「國之楯」を描いた画家、小早川秋聲の展覧会を毎年のように開催、詳しい年譜をまとめ、画集も刊行するなど、地道な活動を続けてきました。今回は日南町と、隣接する小早川秋聲の郷里・日野町を訪ねます。
8月18日まで日南町美術館で行われた企画展「とっとり美術散歩―名品セレクション編―」における小早川秋聲展示室にて。この後、「國之楯」は東京の画廊で8月31日から行われる展覧会に出展される。
日南町美術館
1995年、美術雑誌『芸術新潮』で戦争画が特集された際に巻頭カラーで「國之楯」が紹介されました。当時は地元にゆかりのある作家として、小早川秋聲を知っていた人は鳥取県の美術関係者の間でも多くはなかったそうです。また県下に作品があることもわかっていませんでした。 「けれども、その後郷土にゆかりのある作家のグループ展を開催しようと考え、調査を進めていくうちに、日野郡でも小早川秋聲の作品をお持ちの方が結構いらっしゃることがわかってきました。また、そのグループ展で小早川秋聲の作品を展示したところ、ある日、作品の前で和服姿の女性がじっとご覧になっているのに気がつきました。気になって話しかけたところ、その方が小早川秋聲さんの長女の山内和子さんだったのです。その後、山内さんにご協力いただいて、2000年の『没後二十五年 小早川秋聲展』が実現しました」(日南町美術館 主任学芸員・浅田裕子さん)
日南町美術館では2000年以降、ほぼ毎年のように小早川秋聲の企画展が開催されてきた。
一方で、同じように山内さんと知り合い独自に小早川秋聲について調べていた研究者の松竹京子さんとも縁がつながり、以来、松竹さんの集められた資料を整理・保管し、新たに発掘された作品を展示するなど、二人三脚で小早川秋聲に関する仕事を行ってきたそうです。
また2000年の展覧会の際には、地元の印刷会社が援助してくれたおかげで、画集の刊行もできました。大手出版社の手がけた画集がない中、小早川秋聲の世界をふかんすることのできる貴重な資料です。2017年には小早川秋聲の詳しい年譜も完成。美術館に来られた方は無償で持ち帰ることができるそうです。 右手に見える作品は「出陣の前」。
出陣前、抹茶をたてて精神を落ち着かせた様子が描かれている。
「小さな町の美術館ですが、いろんな方の応援があって活動が成り立ってきたのだと思います。何より、松竹先生による膨大な量の調査がまずあって、そのお手伝いをしてきたと感じています」(浅田さん)
美術館で管理している小早川秋聲の作品のほとんどは寄託ですが、その数は400点近くに上ります。ちょうど取材に伺った折は「とっとり美術散歩―名品セレクション編―」という企画展の展示がされているところで(※8月18日に終了)、小早川秋聲の作品は「国之楯」「護国(御旗)」「出陣の前」などが展示されていました。
「淨魂(突撃)」(部分)。小早川秋聲は、戦地の最前線に同行する中で絵を描いた。
全館を使ってさまざまな企画を行わなければいけないため、常設展示はありません。2019年はもう小早川秋聲の展示はありませんが、2020年にはまた展示を検討しているとのことです。
「国之楯」。小早川秋聲はこの絵を描くとき長男に日章旗をかぶせてデッサンをしたという。
以下略(=来栖)
◎上記事は[出かけよう 日美旅]からの転載・引用です