世界潮流を読む 岡崎研究所論評集
南シナ海問題でフィリピンが提訴 尖閣も参考に
WEDGE Infinity 2013年03月01日(Fri) 岡崎研究所
WSJ紙が、1月24日付社説で、南シナ海問題について、フィリピン政府が国連海洋法条約(UNCLOS)に基づく調停を求めたことは、中国がこれを受け入れるか否かを問わず重要なジェスチャーであり、この問題について共同して中国に対抗しようとしている東南アジア諸国を、オバマ政権が支持することは、必要かつ有益である、と述べています。
すなわち、フィリピン政府は、UNCLOS(UN Convention on the Law of the Sea)の裁判所に、南シナ海における領域問題の調停を要求した。もし裁判所が受け入れたとしても、審議には何年もかかり、中国は不利な裁定には従わないであろうが、それでもこれは重要な政治的ジェスチャーである。
今回の提訴は、1940年以来の中国の広範囲の領有権主張に対抗するものであると同時に、中国が島と主張している岩礁にも関するものである。
フィリピン政府は、今回の提訴についての一連の動きの中で、領有権問題を多国間の問題として扱うよう改めて主張し、この問題の帰結は全世界にとっても利害関係のあるものだと論じている。世界貿易の流れの相当部分が通過している海域をめぐって複数の国が領有権を主張しているのだから、それは正しいアプローチである。
もちろんフィリピンは、バナナの輸入などで報復されるリスクを冒している。しかし、直面するリスクという点では、中国の方が大きいかも知れない。フィリピン政府による今回の申し立ては、中国の「分断-威嚇-制圧」戦略が機能していないことを示している。中国の威嚇外交と領土的野心を受けて、周辺諸国は結束を強めており、こうした周辺諸国の結束を、オバマ政権は支持すべきであり、支持すれば成功するであろう、と論じています。
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社説は、結論として、オバマ政権はこれを支持すべきであり、オバマ政権が支持すれば、周辺諸国が結束してこれに当たる形を作るのに成功するだろう、と言っていますが、この部分には、オバマ政権の新陣容に対する危惧が感じられます。それは、クリントン国務長官ならば当然にフィリピンの動きを支持したでしょうが、オバマの新体制がこれを支持するかどうか、疑問なしとしないのが現状だからです。
例えば、上院指名審議の過程で、ケリーは、アジア復帰政策について、対中包囲ではなく対中関係改善のためであると言ったり、東アジアにおける軍事力の強化についても、現在の水準以上の増強には反対の旨表明したりしています。これは、クリントンの元来の意図とは正反対です。
今回のフィリピンの提訴は、国際法重視という観点で、尖閣問題にも参考になります。日本は、中国側が国際司法裁判所(ICJ)に提訴すれば、これに応じる用意があると、明確に宣言しておくべきでしょう。提訴すれば負けるでしょうから、中国側が提訴する可能性は、まずないと考えられますが、堂々と受けて立つことを宣言することによって、日本の道義的優位性を示して、米国が日本を支持し易くさせることになります。
特に、オバマ政権の陣容が一新して、従来のように、この問題について中国に厳しい姿勢を示すかどうか分らなくなっている現状において、日本が道義的優位を持つことは、日本の今後の政策、すなわち、防衛費の増額、集団的自衛権の行使(中国はあらゆる影響力を行使して、米国内外で、これに反対する声を動員するでしょう)を、米国が支持する道義的立場を強化することになります。
ところで、ICJ付託を認めることは、「現状ではなんらの問題なく日本領である尖閣について、係争を認めたことになる」という議論がありますが、中国がこの問題を提起している以上、国際的には係争は存在します。日本はその係争に、法的に、勝てばよいのです。
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◆ 領有権問題 フィリピンが中国を提訴 / 国際司法裁判所=半世紀以上、実効支配すれば自国領土と認定 2013-01-22 | 国際/中国/アジア
南シナ海の領有権問題 フィリピンが中国を提訴
産経新聞2013.1.22 20:04【シンガポール=青木伸行】
フィリピンのロサリオ外相は22日、南シナ海の領有権を争う中国を、国連海洋法条約に基づき国際裁判所に提訴したと発表した。これにより領有権問題は新たな局面を迎える。
外相は「フィリピンは平和的な交渉のための政治、外交的なあらゆる手段を尽くしてきた。手続きが永続的な解決をもたらすことを望む」と述べた。
提訴の内容は「中国の南シナ海の(領有権)主張と、フィリピンの領有権を侵害する違法な活動に異議を申し立てる」というもの。フィリピン側は同日午後、マニラの中国大使館を通じ、中国政府に提訴した事実と内容を通告。外相は中国に「提訴に応じることを希望する」と促した。
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中国の「非合理的行動」に備えよ 尖閣棚上げ論は過去の遺物
産経新聞2013/01/22 03:13【正論】
「2013年、海洋強国に向け断固、歩み出す」(中国共産党機関紙、人民日報)。中国は、東シナ海や南シナ海で海洋監視船、漁業監視船や海軍艦艇の活動を強化して、「多彩なパンチを繰り出している」(同国国家海洋局)。
≪尖閣棚上げ論は過去の遺物≫
その国家海洋局の航空機が12年末には、尖閣諸島の日本領空を侵犯した。沿岸国の利益を侵害しない限り「無害通航権」が認められている領海とは異なり、政府機関の航空機が許可なく領空に侵入すれば重大な主権侵害である。棚上げ論など一顧だにせず、日本との対決をエスカレートさせている中国は、日本との軍事衝突をどのように考えているのであろうか。
中国共産党は中国本土を制圧すると同時に朝鮮戦争に介入し、台湾の島を攻撃し、チベットを占領した。1960年代になると国境をめぐりインドやロシアと軍事衝突し、70年代に入るとベトナムからパラセル(西沙)諸島を奪い、さらにはベトナム国内に侵攻し、「懲罰」作戦を行った。80年代には南シナ海でベトナム海軍の輸送艦を撃沈し、90年代にはフィリピンが支配していた島を奪った。
中国共産党は戦争を躊躇する政権ではない。彼らにとり、国境紛争のような小さな戦争は平和時の外交カードの一つに過ぎない。
中共は、核心的利益である「固有の領土」を守るためには戦争も辞さないと主張している。それでは、中国の固有の領土とは何であろうか。中国の領土について次のように説明されることがある。
「一度、中華文明の名の下に獲得した領土は、永久に中国のものでなければならず、失われた場合には機会を見つけて必ず回復しなければならない。中国の領土が合法的に割譲されたとしても、それは中国の一時的弱さを認めただけである」(Francis Watson、1966)。中国の教科書では、領土が歴史的に最大であった19世紀中葉の中国が本来の中国として描かれ、「日本は中国を侵略し、琉球を奪った」(『世界知識』2005年)との主張が今でも雑誌に掲載されている。
≪ミスチーフ礁を奪った手口≫
フィリピンが支配していたミスチーフ礁を中国が占拠した経過を見れば、中国の戦略が分かる。
中国がミスチーフに対し軍事行動を取れば、米比相互防衛条約に基づき米軍が介入する可能性は高かった。そうなれば、中国はフィリピンを屈服させることはできない。時のベーカー米国務長官は、「米国はフィリピンとの防衛条約を忠実に履行し、フィリピンが外国軍隊の攻撃を受けた場合には米国は黙認しない」と述べていた。
したがって、1974年の小平・マルコス会談、88年のトウ・アキノ会談で、は問題の棚上げを主張したのである。軍事バランスが中国に不利である場合、中国は双方が手を出さないように主張する。将来、ミスチーフ礁を獲得するために当面は問題を棚上げし、相手の行動を封じたのである。
91年9月、フィリピン上院が米比基地協定の批准を拒否し、92年11月に米軍がフィリピンから撤退した。第二次大戦中に建造された旧式駆逐艦1隻を有するフィリピン海軍は中国海軍の敵ではない。フィリピンのマゼタ国防委員長は「フィリピン海軍としては軍事力による防衛は不可能で、戦わずに撤退せざるを得ない」と発言している。中国はミスチーフ礁問題に米軍が介入する可能性が低いと判断し、問題の棚上げを放棄して95年にミスチーフ礁を占領した。
≪軍事バランス維持し抑止を≫
トウは尖閣についても、日中軍事バランスが中国に不利であった78年に棚上げを唱えている。「棚上げ」は時間を稼ぎ、不利を有利に変える中国の戦略である。中国の危険な行動を抑止するには、軍事バランスが日本に不利にならないようにすることが肝要である。
ただし、軍事バランスは相手の合理的な判断に影響を与えるが、相手は常に合理的に行動するとは限らない。人間は感情に動かされる動物である。人間は何かを得ようとして失敗するときより、持っているものを失うときにより大きな痛みを感じ、失うまいとして、得ようとするときより大きなコストに耐え、あえてリスクを取る傾向がある(プロスペクト理論)。
尖閣に関して中国が本来自分の領土ではない島を日本から奪うと認識していれば、あえて軍事行動といった大きなリスクを取ることはないであろう。しかし、失った「固有の領土」を取り戻すと中国が本気で認識していれば、大きなコストに耐え、軍事行動という危険を冒す可能性が高くなる。
「国家には我慢のできないことがある。国家の名誉、統合性、領土などに対する攻撃は我慢の出来ないことであり、こうしたことに対してはあえて危険を冒すものである」(ネルー・インド首相)
とすれば、中国が日本から見て合理的な判断を常に下すとは限らない。軍事バランスを維持し「合理的な中国」に対する抑止力を高めると同時に、想定外の事態を想定して、「非合理的な中国」に備えることが防衛の基本である。(防衛大学校教授 村井友秀=むらい・ともひで)
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◆ “理不尽”中国とどう向き合うべきか 南シナ海・中沙諸島スカボロー礁/フィリピン特命大使を直撃 2012-08-02 | 国際/中国
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◆南沙諸島:中国の基地化進む/ミスチーフ環礁に建造した「軍事拠点」 2012-08-02 | 国際/中国
南沙諸島:中国の基地化進む…フィリピンが写真公開
毎日新聞 2012年08月02日 09時53分(最終更新 08月02日 10時14分)
【バンコク岩佐淳士】海上に浮かぶコンクリート製の構造物。上には3階建ての建物などが見える。7月中旬にフィリピン海軍が撮影したこの写真は、中国が95年、南シナ海・南沙諸島(英語名スプラトリー諸島)のミスチーフ環礁に建造した「軍事拠点」だ。最近新設されたとみられる風力発電装置やヘリポートらしき施設も確認され、中国が実効支配を進めている様子が分かるという。
ミスチーフ環礁は、中国やフィリピンなどが領有権を争う南沙諸島のほぼ中央に位置。フィリピン側は自国の排他的経済水域(EEZ)内だと主張するが、中国はこの「拠点」を建設以降、周辺に艦船を常駐させている。
フィリピン海軍関係者によると、中国は南沙諸島にこのほか数カ所の「軍事拠点」を建設。ミスチーフ環礁のこの建造物は最大で「中国側は基地をどんどん建て増している」という。
南沙諸島では今年に入り、中国のレーダー施設とみられるドーム型の構造物も確認されている。
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◆ 竹島問題と領土紛争の解決方法 濱口和久「本気の安保論」 2012-09-23 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法〉
竹島問題と領土紛争の解決方法 濱口和久「本気の安保論」
NET IB NEWS 2012年9月12日~13日 日本政策研究センター研究員 濱口和久
<日本人88人が竹島に本籍を置く>
島根県・竹島に本籍を移した日本人が88人に達していることが明らかになった(読売新聞8月25日付)。
筆者も「日本政府の外交姿勢は消極的。領土を守るために自分にできることはないか」と考え、2008年(平成16年)3月11日に家族4人で竹島に本籍を移した。
正式には竹島の本籍地番は、島根県隠岐郡五箇村竹島官有無番地(現在は市町村合併で五箇村から隠岐の島町)となる。詳しくは拙著『だれが日本の領土を守るのか?』(たちばな出版)をご覧いただきたい。
<韓国による過去の蛮行を日本人は知るべき>
1952年(昭和27年)2月4日に李承晩ライン周辺で操業していた第一大邦丸が拿捕され、漁労長が射殺される事件が起きる。
その後も、日韓基本条約が署名されるまでの13年間に、李承晩ラインを盾に韓国は日本漁船328隻を拿捕し、3,929人の日本人漁師を抑留する。その過程で44人の日本人漁師が死傷する。
そして抑留した日本人漁師を人質に取り、日韓国交正常化交渉を有利に運ぶための外交カードとして利用してきた。
日本政府は日本人抑留者の返還と引き換えに、「常習的犯罪者あるいは重大犯罪者として収監されている472人の在日韓国・朝鮮人を収容所より放免して在留特別許可を与える」という屈辱的な要求まで韓国政府に呑まされている。
日本人の多くは、このような事実をほとんど知らない。竹島問題を考えるうえで、韓国の蛮行は記憶に留めておくべきである。
また最近では2005年、韓国政府は日本人の竹島上陸に備えて「危機対応指針」を策定している。
(1)日本側艦船を確認するや、海洋警察警備艦が緊急出動し、上陸時には身柄拘束する。
(2)大型船や自衛艦が接近すれば、韓国軍による対応に切り替える。
このような態勢を敷く韓国との間で、真の日韓友好など絶対にあり得ないのだ。
<国際司法裁判所(ICJ)への提訴>
日本政府は8月21日、李大統領の竹島への不法上陸を受けて、竹島の領有権について国際司法裁判所(ICJ)に付託するよう韓国政府に正式に提案した。しかし、「領土問題は存在しない」という立場から、韓国政府は付託を拒否することを決定した。
日本政府は過去、1954年(昭和29年)、昭和37年の2度にわたりICJに付託したが、いずれも韓国政府は同意していない。今回、日本政府は、韓国政府が付託を拒否した場合でも、単独で提訴することで、国際社会に竹島問題の存在をアピールする狙いがあるとしている。
<日本がICJで勝てる保障はない>
今後も韓国政府が付託に同意する可能性は低いと思われるなか、2008年5月、マレーシアとシンガポールが領有権を主張していたペドラ・ブランカ島の帰属問題を巡るICJの判例を紹介しておきたい。
ペドラ・ブランカ島の領有権は、そもそもマレーシアが主張していた。しかし、シンガポールは130年前から同島のホースバー灯台を管理しており、それに対してマレーシアは何の申し立てもしていなかった。このため暗黙のうちに領有権が移転したと、シンガポールは主張していた。
ICJは最終的に「1980年までにペドラ・ブランカ島の領有権はシンガポールに移転されていたとみなし、同国に帰属する」とする判断を下した。
ICJの判断は、誰の目にも明らかな条約に基づかない限り、「発見」や「歴史(文献を含む)」に由来する主権は退けられ、 「長期にわたる」継続的な実効支配や統治、管理の証拠の積み上げが重視されることを意味する。
不法占拠しているといえども、何事もなく半世紀から1世紀の間、実効支配すれば自国領土になるということをICJが示したのである。
この判例に従えば、竹島は韓国の領土となり、北方領土はロシアの領土になってしまうことにもなる。
仮に将来、韓国政府が付託に同意して、ICJが「竹島は日本領土」と認定したとしても、判決に強制力も罰則もないため、韓国が竹島を日本に返還するとは到底思えない。
昭和40年の日韓基本条約締結の際、竹島の領有権問題は、「外交上の経路を通じて解決を図り、これにより解決できない場合には、両国政府が合意する手続きに従い、調停による解決を図るものとする」と規定され、解決が先送りされた。
このとき先送りせず、日本政府が竹島の領有を最後まで主張し解決を図っていれば、現在のような韓国による不法占拠が続くような状態にはなっていなかっただろう。
現在、米国は竹島問題に介入する気は一切ないが、戦後の日韓関係を考えるうえで、竹島問題は米国にも責任の一端がある。ICJよりも米国を第3者機関とする調停役として解決を図ることを、日本政府は真剣に検討するべきである。
そのためにも民主党政権誕生後の日米関係のギクシャクを早急に解消する必要があることは論を待たない。
(了)
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