裁判所がうっかりホンネを公表?後見人制度で露骨な利益誘導か 成年後見制度の深すぎる闇⑪

2017-11-08 | Life 死と隣合わせ

裁判所がうっかりホンネを公表?後見人制度で露骨な利益誘導か 成年後見制度の深すぎる闇  長谷川 学 ジャーナリスト
 現代ビジネス 2017/11/06
■専門家も驚く家裁「手引書」の中身
 認知症の高齢者など、判断能力が著しく低下した人が、財産を悪意の第三者に奪われたり、間違った契約をして貯蓄を減らしたりしないよう、本人の財産権を停止し、それを肩代わりする後見人を置くとする、成年後見制度。
 最高裁事務総局家庭局を筆頭に、家庭局の配下にある全国の家庭裁判所が、これを推進している。
 ところが、その家庭裁判所が、とんでもないミスリードを誘発する手引書を作成し、あろうことか弁護士や司法書士など、後見人につく専門職に利益を誘導するかのような記述をしていることが発覚した。
 問題視されているのは、大阪家裁がインターネット上で公開している「成年後見申立の手引き」(http://www.courts.go.jp/osaka/vcms_lf/ofc2812_18.pdf)だ。

 
 問題部分を囲んだ赤枠は編集部で追記大阪家裁「成年後見申立の手引き」より。問題部分を囲んだ赤枠は編集部で追記
 たとえば3ページ目では、「成年後見制度を利用されるにあたっては、以下の点について、ご注意ください!」として、次のように書かれている。
 <3 候補者に関する注意事項
 後見人等の選任は、家庭裁判所が総合的に判断して行います。後見人等には、原則として第三者専門職(弁護士、司法書士、社会福祉士等)が選ばれ、必ずしも申立てどおりに選任させるとは限りません>
 この記述に、専門家らは驚いたという。なぜ驚いたのかは、以下順を追って説明していくが、一口に言えば「そんな『原則』は法律上、定められていない」のである。
■批判を恐れて転換した「運用方針」
 我々、一般市民からすれば、後見を受ける本人(被後見人)にとっても家族にとっても、いちばん納得できる後見人の候補は、本人のことをよく知っている親族だろう。
 だが現在では、家族が老親の後見人になるつもりで家裁に後見制度の利用を申し立てても、家裁が親族を後見人に選任することは、基本的にない。
 制度の発足初期に、後見人に選ばれた親族が高齢者の資産を横領するケースが複数、発覚したことで、最高裁家庭局が方針を転換したことが理由だ。司法側は、制度への非難が集まり、先行きが不安視されることを恐れたと言っていい。
 結果として、2000年の成年後見制度スタート時には、後見人全体の9割を家族などの親族が務めていたのに対し、現在では7割が弁護士、司法書士ら専門職後見人が占めることになった。
 だが、ここで確認しておきたいのは、「親族より専門職を選ぼう」というのは、あくまで司法内部での運用方針であって、法に定められているわけではない、ということだ。
 本来、後見人の選任は、個別の事情に合わせ、事案ごとに柔軟に運用すべきだということは論を待たない。たとえば、親族間に遺産問題などで争いがある場合は、法律職である弁護士を後見人に就けたほうがよいだろう。
 一方、親族間の紛争がなく、家族の人柄も信頼できそうであるという場合は、認知症のお年寄りのこれまでの人生や生活信条、健康状態などをよく知り、日常的に本人と寄り添える家族を後見人にしたほうが、本人の生活の質の向上につながるはずだ。
 ところが、そうした柔軟な運営を実現することは、現在の体制では困難なのだ。
■「チェック機能不在」の制度欠陥を棚にあげて
 実は、成年後見制度には、「一度、後見人に選任された者が、本当に適切に後見人の務めを果たしているか」をチェックする第三者的な機関が存在しないという、およそ致命的な欠点がある。
 このため、不届きな一部の親族による横領などの行為を監督・発見することができないだけでなく、実際にたびたび発生している専門職後見人による使い込みや横暴、過剰な人権侵害などの事案がチェックされることもない、という大きな問題が指摘されている。
 ところが司法・行政サイドは、現在まで、この根本的な問題に対処する姿勢を見せていない。そして全国の家裁は、いわば対症療法として「親族後見人排除」「専門職後見人への誘導」を行なっている。
 家裁が選任した親族がトラブルを起こせば、責任を問われ、批判を浴びるのは家裁自身だ。しかし、専門職によるトラブルが発覚した場合には、弁護士会や司法書士の団体などが処分を発表することで、一見、社会的制裁が行われたような形式が整う。
 専門職後見人だからといって、トラブルを起こさないわけではないにもかかわらず、親族は信用せず、専門職を偏重する態度は、まるで司法の権威と制度自身を守るための予防線であるかのようだ。
 ただ、これまで家裁はこうした「親族排除・専門職優先」の運用方針を表立って表明することなく、形式的には公平な態度を装ってきた。明確な法律的裏付けがないことに配慮してのことだろう。
 ところが、問題の大阪家裁のホームページには、露骨な専門職への誘導があけすけに記されていたために、成年後見制度に詳しい専門家たちは、驚きを隠せなかったのである。■報酬の記述でも「専門職優遇」?
 この手引書の9ページ目を見ると、さらに詳しい記載がある。
 <裁判所は、申立人の意見以外に、本人や他の親族の意見、予定される後見等事務の内容、本人や候補者の資産状況、これまでの本人との生活関係などを総合的に判断して、後見人等を決定します>
 ここまでは公平性に気を使った記載だが、その後の記述はいただけない。
 <後見人等には原則として第三者専門職が選ばれ、親族を候補者として挙げても、候補者が後見人等に選任されるとは限りません。
 また、第三者専門職が後見人に選ばれた場合には、その費用(弁護士等への報酬)は、家庭裁判所が公正な立場から金額を決定し、本人の財産から支払われることになります

   
 大阪地裁「手引書」9ページ目の記述。親族ではなく専門職が後見人になることが「原則」や「前提」であるかのような記述が並ぶ。
 これについて、成年後見制度に詳しい一般社団法人「後見の杜」代表の宮内康二氏(元東京大学医学系特任助教)が問題点を指摘する。
 「大阪家裁のホームページの記載を見て、正直、驚きました。<原則として第三者専門職が後見人等に選任される>といった”専門職ありき”とも言える露骨な専門職への誘導には非常に問題があります。
 なかには真面目に後見業務に取り組もうとする専門職もいるでしょうが、一方で現在、”食えない”司法書士や弁護士が、後見分野を”カネの成る木”と見て、続々参入してきている実態もあるのです。
 家裁による専門職への誘導の背景に、司法書士などの専門職団体からの働きかけがあったかどうかは不明ですが、少なくとも大阪家裁の手引書の記載については、法務省内の一部からも『異常だ』という声が挙がっていると聞いています」
 さらに、宮内氏ら専門家が首をひねる記述が、この部分には隠されている。それは、<第三者専門職が後見人に選ばれた場合には>裁判所が決定した報酬が後見人に支払われる、という部分だ。
 まるで、専門職が後見人になった場合のみ、報酬が発生すると読めなくもない記述だが、これはミスリードではないかと宮内氏は指摘する。
 「大阪家裁以外でも、この種の説明を受ける人が多いためか、親族後見人になった人の多くが、『親族後見人は報酬を取れない、取ってはいけない』と誤解しているのですが、そんなことはないのです。法的には、親族後見人も専門職後見人同様、報酬を取ってもよいことになっています。
 ただ、被後見人の財産から報酬を取ると、その分、財産は目減りしてしまうので、慣例上、報酬を取らない親族が多いというだけのことなのです。このホームページのような記載では、報酬が取れるのは専門職後見人の特権であり、親族後見人が報酬を取るのは法的に許されないかのように受け止めてしまう人が出てくるのは当然です。
 家裁や、家裁と連携している専門職後見人らの特権意識が、こうした言葉の端々にあらわれているのではないでしょうか」
 専門家らによると、成年後見制度を持つ先進国を見渡しても、親族後見人の比率が3割という低さになっているのは日本だけで、他の先進国では一般的に、親族後見が7割程度を占めているという。
 第三者的なチェック機関の設立に動くでもなく、ひとたび作られた制度の欠陥には目をつむって盲従し、自らの権威を守ろうとし、組織が批判を浴びることだけは巧みに避ける――。
 日本の官僚組織がしばしば批判される典型的なパターンに陥っているのが、現在の成年後見制度の実情なのだ。置き去りにされているのは、制度が本来守るはずの認知症を患う高齢者や家族の平穏な暮らしである。一刻も早い制度の改善が必要だ。

 ◎上記事は[現代ビジネス]からの転載・引用です
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