[なぜ監獄ビジネスが拡大しているのか―背景にあるのは] 窪田順生

2013-03-20 | 社会

なぜ「監獄ビジネス」が拡大しているのか――背景にあるのは
Business Media 誠 2013年03月19日 08時05分 UPDATE 窪田順生の時事日想
 日本の「監獄ビジネス」が拡大しているという。犯罪大国ともいえないこの国で、なぜ監獄ビジネスが広がっているのか。その背景にあるのは……。
 本日(3月19日)発売の『刑務所のタブー』(宝島社)というムック本のなかで、田中森一元弁護士へのインタビューをさせてもらった。
 田中氏といえば、暴力団組長や地上げ王などの顧問をつとめ、イトマン事件で知られる許永中とも親交が深いことから、「闇社会の守護神」などといわれた弁護士だが、その前は「特捜エース」と呼ばれる検事でもあった。日本の司法の表と裏を知り尽くした彼が、「塀の中」で何を見て、どう感じたのかというのは、個人的にはかなり興味深かった。例えば、前にも書いた「受刑者の9割以上が自分のことを冤罪だと信じている(関連記事)」ということもそうだ。
 田中氏がそのように主張するのには根拠がある。「田中森一」の名は受刑者たちの間でも当然知られており、収監されてからというもの自由時間などに「話を聞いてください」という受刑者が殺到したのだ。要するに、5年にわたって、塀の中で「行列のできる法律相談所」をした体験からだった。田中氏は言う。

 ほとんどはプロの目から見ると冤罪ではない。法律の素人だからしょうがないが、みんな「罪」と「責任の代償」がごちゃまぜになっている。ただ、共通しているのはみんな「納得していない」ということだ。

 罪を認めないので反省の土壌がない。要は「矯正の場」になっていないのだ。多くの犯罪者たちを取材してきた身からすると、すごく共感できる“刑務所あるある”だが、実はそれよりも印象的だったのは、塀の中に溢れ返る「ボケ老人」の話だ。
 自分がアパートにいるものだと思い込んで毎朝、「今月の家賃を待ってくれ」と言う者。「今から盆栽に水をやらないと枯れるから電車で帰る」と電車賃を借りにくる者……そんな高齢者たちの受刑者が想像していた以上に多かったというのだ。

 ほとんどは窃盗で入ったようだが、窃盗が本当に悪いことかもわからない。果たして、裁判所は責任能力というのを真剣に判断したのかと疑問が浮かぶな。判事も検事も面倒くさくて機械的に処理したのではないか。弁護士だって国選だからカネにならん事件はさっさと終わらせたい。この人は刑務所じゃなくて精神病院に行くべきじゃないの、というのが多いのはそれが理由だろう。

 平成23年度、刑務所に入所した「新受刑者2万5499人」のうち、中度の知的障害とされる「知能指数49以下」は957人。軽度とされる受刑者も4575人いた。この傾向はこの近年そんなに大差はない。つまり、刑務所にやって来る人の2割は知的障害者ということになる。このような人々のなかで、貧しさや生活環境から犯罪を繰り返してしまう、いわゆる「累犯障害者」が近年注目を集めたことで、刑務所が「福祉」の役割を担っているという歪んだ現実が明らかになったが、そこには身寄りのない高齢者たちも含まれるというわけだ。
 よく刑務所は社会の縮図といわれる。シャバが高齢化社会になるのだから当然、塀の中もそうなる。出所をしたところで仕事もない。待ってくれている家族もいない。ムショのなかなら罵声を浴びることを我慢すれば、栄養士が考えてくれたメニューを3食いただけるし、同じ房の仲間もいる。布団で寝れるし、衣類も支給される。ホームレスになるよりもよほど快適な「0円生活」が送れる、と考えて再び罪を犯す。そんな“監獄リピーター”を続けているうち、高齢になってしまったという受刑者が思いのほか増えている。  では、どうするか。受刑者が高齢受刑者の介護をするだけでは当然足りないので、民間の介護会社が寝たきりになった受刑者の面倒を見なくてはいけない。バカバカしいと思うかもしれないが、法律では受刑者を健康な状態で服役をさせなくてはいけないのだ。納得いかないかもしれないが、高齢受刑者の介護は国の義務なのだ。
■刑務所長たちの“天下り”
 そういう未来をみすえると、刑務所というのも、かなりビジネスの可能性がでてくる。それは、刑務所長たちの“天下り”を見ても明らかだ。
 昔は刑務所の所長などを経験してきた者たちの退官後のルートは決まっていた。まず、刑務所内の売店事業や刑務作業品の販売をおこなう「矯正協会」に天下ってから、売店に品物をおろす「矯正弘済会」という企業などを渡り歩くパターンだ。
 しかし、それが近年、警備会社や人材派遣会社なんかの社外監査役になるケースが増えた。背景には、施設運営の一部を民間に委託する「民営刑務所」の増加がある。
 これらの企業は、刑務所から警備業務や総務業務なんかを競争入札で受注している。だから、全国の監獄施設に顔がきくOBはいろんな意味で重宝されるというわけだ。
 あまりニュースにならないが、今年2月をもって矯正協会の売店事業はすべて民間企業に引き継がれた。幹部刑務官たちの天下り先がまた広がったというわけだ。
 天下りをすべて悪だとは言わない。ただ、せっかく所長やらを経験したのだから、「矯正の場になっていない」という問題にも目を向け、こっちのほうも民間の力を使って解決していただきたい。
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許永中受刑者 韓国に移送/田中森一氏 仮出所 2012年11月22日/ 『その男、保釈金三億円也。』宮崎学著 2012-12-15 | 読書 
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◆ 許永中受刑者と田中元特捜検事、実刑確定へ…石橋産業事件 2008-02-14 | 政治/検察/裁判/小沢一郎/メディア 
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検察を支配する「悪魔」 田原総一朗+田中森一(元特捜検事・弁護士)2007年12月5日 第1刷発行
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田中森一著『反転・闇社会の守護神と呼ばれて』幻冬舎刊 2007-08-03 | 読書
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『その男、保釈金三億円也。』宮崎学(著) 田中森一(監修)
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山本譲司著『累犯障害者』獄の中の不条理 新潮社刊
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