日高義樹・ワシントン情報 「アメリカは尖閣で戦う!」

2013-02-19 | 政治〈領土/防衛/安全保障/憲法/歴史認識〉

日高義樹・ワシントン情報 「アメリカは尖閣で戦う!」
PHP Biz Online 2013年02月19日 日高義樹(ハドソン研究所主席研究員)
『アメリカの新・中国戦略を知らない日本人』より》

      

■アメリカ国防総省には尖閣防衛の秘密計画がある
  2012年大統領選挙の直前、共和党のロムニー候補が当選した時には国防長官になると見られていた前国防次官のエリック・イーデルマン博士に、ハドソン研究所で会った。
  イーデルマン前国防次官はフィンランド大使やトルコ大使などを歴任したあと、2005年から2009年1月まで、ブッシュ政権のもとで対中国戦略とアジア戦略の政策決定に携わってきた。
  共和党のロムニー候補にきわめて近く、ロムニー陣営の安全保障政策についての重要なアドバイザーを務め、共和党と民主党が協力してつくっているアメリカ議会の「ディフェンス・カウンシル」と呼ばれる重要な防衛政策決定機関の責任者の1人でもある。ディフェンス・カウンシルの最高責任者は共和党がシュレジンジャー元国防長官、民主党がパネッタ前国防長官で、アメリカの防衛政策の最高決定機関である。
  アメリカの防衛政策で最も重要な問題は、いまや「アメリカの国益のために、どこまで戦争を遂行するべきか」である。これまでのような、アメリカの力に任せてどこまでも、といったような無制限な軍事戦略に歯止めをかけようというものである。
  シュレジンジャー元国防長官やキッシンジャー博士なども私に、「アメリカの若者の血を流す価値のある戦いであるかを見極め、決定する必要がある」と、くり返し述べている。このため日本では、「尖閣列島という小さな島をめぐるいざこざに、アメリカは介入できないのではないか」という考え方が強くなっている。
  日本の評論家たちのなかには、どのような根拠からか、「アメリカは尖閣列島を守らない」と断言する者までいるが、尖閣列島をめぐる紛争を、東シナ海の自由航行と安全を阻害すると考えれば、アメリカは自国の国益を守るために必ず介入してくる。だが日本もまた、日本の担うべき、つまり、分担すべき軍事的責任があることを認識し、戦いを起こさないための努力が必要になる。
  アメリカは日本のために尖閣列島問題に介入しない、尖閣列島防衛を助けないという考え方は、はっきり言って間違っている。最も重要なのは、中国に侵略的な戦争を起こさせないために努力するとともに、戦端が開かれた場合の日本のとるべき軍事行動について、アメリカ側と十分話し合うことである。
  重ねて強調したいが、アメリカが尖閣列島を守らないというのはきわめて無責任な発言である。その発言の前に、日本がどのような責任をとるかを問わねばならない。
  「日本が果たすべき責任の分担を話し合うことが最も大切だ」
  イーデルマン前国防次官はこう述べたうえで、私にこう言った。
  「アメリカ国防総省には、尖閣列島有事の際の緊急計画がすでにある」
  東シナ海の小さな島々、尖閣列島はまざれもなく日本の実効支配が行われている日本の領土である。日本政府が管理監督し、海上保安庁の艦艇が警戒している。そこに中国が領土権を主張して攻めかけてくれば、不法行為であることは明白だ。もっともアメリカは、領土権については問わない姿勢をとっている。
  明治政府は発足後まもなく尖閣列島の存在に気づき、現地調査を行って無人島であること、中国の支配が及んでいないことを確かめたうえ、日清戦争に勝ったあとの1895年、下関条約で正式に日本のものとした。この歴史的事実から見ても、尖閣列島はまぎれもなく日本のものである。
  ところが中国は東シナ海にある資源が注目されるようになると、突如として尖閣列島、中国名の釣魚島は中国のものだと言い始めただけでなく、中世の頃から中国の領土だったと主張するようになった。日本政府が尖閣列島を買い取り、国有地にする方針を打ち出してからは、軍事行動も辞さないという構えを見せている。
  すでに述べたように、日本では「尖閣列島をめぐって紛争が起きてもアメリカは助けてくれない」という説が流布されているが、つい先頃まで同問題の責任者であったイーデルマン前国防次官とのインタビューの模様をお伝えしたい。
  2012年10月25日、約束時間の午前11時ちょうどに、イーデルマン前国防次官は、私が首席研究員を務めるハドソン研究所の会議室に姿を現した。イエール大学で外交史の博士号を取得したイーデルマン前国防次官は61歳、地味な風貌の落ち着いた人物だった。
  私はまず、「中国が海軍力を著しく強化しているため、日本にとって大きな脅威になっているだけでなく、尖閣列島を中国が攻撃するのではないかと日本人の多くが考えている」と述べた。そして、中国の軍人たちがこれまでも中央政府に連絡しないまま危険な行動に出たことが何度もあると指摘したうえで、中国が尖閣列島に対して戦闘行動を行った場合、対応するための緊急計画がアメリカにあるかどうかを尋ねた。
  私がとくにイーデルマン前国防次官の注意を喚起したのは、選挙戦を見るかぎりアメリカ国民が内向きになっており、外国の領土問題などに関与したくないと思っている点だった。イーデルマン前国防次官は私の質問に対して、こう答えた。
  「西太平洋から東シナ海、日本海にかけての安全を維持し、自由な航行を維持することはアメリカ経済にとって、きわめて重要です。それが妨害されるような事態になれば、アメリカは国益を守るために、同盟国と協力して軍事的に対応する必要がある」
  私が尖閣列島有事に備えた緊急計画があるのか教えてほしいと言うと、彼はこう言った。
  「我々はあらゆる事態を想定し、それに備えるための軍事的な緊急計画をつくりあげています。朝鮮半島有事に対する長期計画をはじめ、実際に軍事行動が起こされた場合に同盟国を支援する計画を立てて備えている。だが、計画の内容は公にしたくない。全て軍事機密に属するからです」
  私がさらに念を押すと、彼はこう言った。
  「我々は普通、こういった場所では軍事緊急計画を話さないことにしています」
■エア・シー・バトルが緊急事態に備えた計画を持っている
日高: 確かに朝鮮だけでなく、台湾についても有事の緊急プランがあるはずですね。
イーデルマン: その通り、台湾についての有事計画があります。
日高: 東シナ海や南シナ海で軍事的な緊急事態が起きた場合の対応策について話してもらうわけにはいきませんか。
イーデルマン: 緊急計画については話したくない。私はすでに国防総省を辞めた身で、実際の計画には関わり合っていない。何が起きるかという仮定の質問に答えるわけにはいきません。それに緊急計画の内容をしゃべれば、そのまま敵である相手側に筒抜けになり、我々がどのような軍事行動を準備しているのかを知らせてしまうことになる。実際に戦闘が始まった時に不利になってしまう。
日高: しかしながら、緊急事態に備えた軍事対応策はきちんとつくってあるのですね。
イーデルマン: きっちりした緊急計画を持っていますよ。現在、国防総省にはエア・シー・バトル(空と海の闘い)という部局があり、我々が話し合っている戦争を担当している。このエア・シー・バトルの担当者は計画書をつくっているだけでなく、戦闘が起きた時の当事者になります。
 エア・シー・バトルの担当者たちは、中国がいま進めているAAやADといわれるアメリカに対抗するための戦術にどう対処するか、実際の戦い方を検討しています。
 中国はいま、艦艇を攻撃するクルージングミサイルや弾道弾を開発しており、アメリカにとって軍事的脅威になっている。中国の軍事力増強に対処する準備と行動がすでにとられているのです。
日高: 分かりました。緊急事態の内容をしゃべりたくない理由は了解します。しかしながら、尖閣列島で軍事行動が始まった場合、アメリカは日米安保条約に基づいて日本を助けることになるのでしょうね。
イーデルマン: これまでも言ってきたように、日米安保条約はアジアの安全保障の基礎になっています。日米安保条約によって我々は日本を守る。日本の人は、この点について疑いを持つ必要は全くありません。アメリカは必要とあらば日本を防衛します。
日高: つまり、日米安保条約第4条、同盟国に対する攻撃は自分の国に対する攻撃と見なして反撃する、という条項を履行するわけですね。
イーデルマン: 当然、そうなります。
日高: 尖閣列島に対する攻撃をアメリカに対する攻撃と見なすのですね。
イーデルマン: その通りです。有事の際、アメリカはあくまで条約を履行し、条約に基づいて日本の安全を守るために戦います。最も重要な問題は、日本とアメリカがどのような軍事協力を行い、中国に対抗してどのような戦闘行動を分担するのかを話し合うことです。東シナ海、南シナ海においても共同責任と分担を決めることがきわめて重要です。
日高: しつこいようですが、この問題について、もう少しお聞きしたい。日本にとっては重大事で、国民の関心が高いのです。
イーデルマン: よく分かりますよ。どうぞ続けてください。できるだけのことをお話ししましょう。いつも私が主張しているのですが、同盟体制というのはどこの国とも同じです。
 日高さん、あなたは日米安保条約第4条に言及しましたが、同じ条項がNATO条約の第5条にもあります。それによると、どのNATO加盟国に対する攻撃もNATO全体に対する攻撃と見なすことになっています。
 ここ何年間もアメリカは、ヨーロッパの同盟国が攻撃された場合、あらゆる手段で対抗する準備を進めていると言い続けてきました。そして、それが条約を履行することを意味しているのだということを強調してきました。アメリカのこういった条約上の義務は、ヨーロッパ、アジアを問わず、同じです。
日高: それでは最後の質問をさせていただきます。あなたが言及したエア・シー・バトルの中身は、いったい何でしょうか。説明してくれますか。現在のアジアにおけるアメリカの戦闘計画とは全く違っているのですか。
イーデルマン: エア・シー・バトルの構想は、基本的にはヨーロッパにおける戦いと一緒です。しかしヨーロッパでは戦場が大陸であるため、空と陸、つまりエア・ランド・オペレーションでした。太平洋では、その地面が海と変わるのです。
 問題は、どのような強力で有効な軍事的な対応と打撃を相手側に与えるかです。ソビエトの場合は強力なタンク軍団を有しており、その強力なタンク軍団を打ち負かすために、空軍と地上部隊が協力することが必要でした。ソビエト帝国はこれに対して軍事力を増強して立ち向かってきましたが、アメリカと西側の有力な軍事力によって敗れ、ソビエト帝国は崩壊しました。そして危機はなくなったのでした。
 エア・シー・バトルというのはソビエトとの戦争とよく似ているものですが、全く同じというわけではありません。中国はいま、中国にアメリカ軍を近づけない、中国を攻撃する能力を与えない、という戦略目標を立て、艦船攻撃用のクルージングミサイルを開発強化していますが、これにどう対抗するか、アメリカと同盟国が共同してソビエトのタンク軍団を打ち負かしたような軍事力と技術力を開発し、中国の海軍力を打ち負かさねばなりません。このエア・シー・バトルというのは計画ではなく、実際の戦闘態勢です。つまり、緊急有事の対応策と言っていいでしょう。
<筆者プロフィール>
 日高義樹(ひだか・よしき)
 ハドソン研究所首席研究員
 1935年、名古屋市生まれ。東京大学英文科卒。1959年、NHKに入局。ワシントン特派員をかわきりに、ニューヨーク支局長、ワシントン支局長を歴任。その後NHKエンタープライズ・アメリカ代表を経て、理事待遇アメリカ総局長。審議委員を最後に、1992年退職。その後、ハーバード大学タウブマン・センター諮問委員、ハドソン研究所首席研究員として、日米関係の将来に関する調査・研究の責任者を務める。「ワシントンの日高義樹です」(テレビ東京系)でも活躍中。
主な著書に、『世界の変化を知らない日本人』『アメリカの歴史的危機で円・ドルはどうなる』(以上、徳間書店)『私の第七艦隊』(集英社インターナショナル)『資源世界大戦が始まった』(ダイヤモンド社)『いまアメリカで起きている本当のこと』『帝国の終焉』『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか」(以上、PHP研究所)など。
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『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店
『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著
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