『世界の変化を知らない日本人』日高義樹著 2011年5月31日第1刷 徳間書店
第3章 中国はアジア覇権確立に大震災を利用する
p87~
第2部 中国外相が日本の外相を嘲笑した
「日本の外相が中国外相に会って、核戦力を削減するよう頼んだが、中国外相は嘲笑しただけだった。日本の民主党政権は、中国が日本と同じ考え方をしていないことに大きなショックを受けた」
これはシュレジンジャー博士が私に話してくれたことである。
p88~
この話はアメリカとヨーロッパ各国の関係者の間でまたたくまに広がってしまった。民主党政権はその幼稚な外交戦略を世界に知られることになってしまったのである。
民主党政権が中国に対して核兵器の削減と軍事力の制限を申し入れたことは、平和主義的で国際主義的な立場からすれば当たり前で、驚くべきことではない。オバマ大統領の「核兵器をなくそう」という政治スローガンと同じだと考えれば、しごく当然の主張ともいえる。
だが本気で中国に対して「核兵器を制限してほしい」と依頼したのだとしたら、あまりにも幼稚である。中国に対して軍事力を削減しろと求めたり、核兵器を減らせと要求したりするには力が必要であることは、国際政治の常識である。
もともと日本の民主党の首脳たちの周りには平和主義者や国連中心主義者が多く、平和理想論が世界でまかり通るという間違った考え方を民主党指導部に吹き込み続けている。中国に核兵器の削減を申し入れた「日本の外相」も、そうした間違った考え方にもとづいて行動したのだろう。
p89~
だが核兵器保有国にとって核戦略は、国家安全の基礎である。核兵器の削減や破棄について話し合うためにはそれ相応の力が必要である。核戦略を廃棄したり削減したりしなければ、中国の安全に関わると考えさせるだけの力を持たなくてはできないことなのである。それには日本が独自の核戦力を開発し、中国に対して核軍事力競争を挑む決意のあるところを示す必要がある。(略)
いま中国にとって最も厄介なことが起きるとすれば、極東アジアのライバルである日本が軍事力を強化し、核兵器を持つことである。そうなれば中国の軍事的な優位が相殺されてしまう。
p90~
日本の民主党政権が、理想的な平和主義者たちの言うことをしりぞけて、世界の現実を理解するならば、中国に対して交渉する方法がただ一つある。
「中国が核戦力を削減しない限り、日本も核武装する」
中国にとってこの日本の主張は安全保障上の大打撃になる。ある意味では、これまでの努力を帳消しにしてしまうものだ。(略)
このエピソードほど民主党の持っている国際政治音痴の体質をあらわにしたものはない。他国の政策を変えるのは平和主義ではなく、力であるという単純な原則を、民主党政権は理解していない。
第5章 民主党は日米関係の歴史を壊した
p134~
私のいるワシントンのハドソン研究所には、アメリカの情報機関で分析官をやっていた人物がいる。彼の話によると、アメリカ政府は小沢一郎はじめ民主党首脳の対中国政策と動きを綿密に監視してきた。
「中国からの情報もあれば、アメリカ情報調査局や国家安全保障局(NSA)などからの情報もある。あらゆる情報が担当者の手許に集まっている。日本の民主党と小沢元代表が中国に接近していく動きは手にとるように明らかだった」
民主党の小沢元代表は、中国を取り込んで日中の協力体制を作り、アメリカを牽制して外交的にアメリカに対する強い立場を作ろうとした。こういった小沢元代表はじめ民主党首脳の動きは、私ですら耳にしていたのだから、多くの人々が知っていたに違いない。
小沢元代表が「沖縄の海兵隊はいらない」と言ってみたり、日米安保条約に反対したりしているのをアメリカが苦々しく思ったのは、単に反米的な姿勢だからというだけでなく、中国と手を組んでアメリカに対抗しようとしたからである。
p135~
小沢元代表の師ともいえる田中角栄元首相も、アメリカに対抗するために石油資源を獲得しようとしてアメリカに敗れた。田中元首相は結局、アメリカの石油メジャーと激突してしまい、ニクソン大統領とアメリカのCIAに打ち負かされてしまった。
小沢元代表と民主党のアメリカに対する反乱は、そういった過去の出来事と比べるとあまりにも矮小である。まず小沢元代表の態度は中国と対等に手を結ぶというよりは、明らかに中国におもねっていた。民主党政権が発足した当時、長年の同盟国であるアメリカのワシントンではなく、まず北京に挨拶に行くべきだと示唆した態度などに、中国に対するあからさまな媚がよく表れている。
p142~
第2部 民主党の指導者には国家意識がない
民主党の前原前外相は、在日韓国人から政治献金を受け、責任を追及されるや辞任して姿を消してしまった。日本ではこの問題についてあまり厳しい追及が行われていないが、国際常識から見ると、前原前外相は日本を代表する一員として決してやってはならないことをしてしまった。
国の外交は、国の利益をまず考えて行われなければならない。外交の先には戦争があると言われるほど、時には国家の命運がかかる。ところが前原前外相は、民主党には外交を理解している者が誰もいないことを暴露してしまった。
前原前外相は、外国籍の人から献金を受けるというタブーを犯しただけでなく、民間企業のセールスマンをやって、アメリカの人々をあきれさせた。JR東海の代表者と共にフロリダ州マイアミを訪れた折、フロリダ州当局に対して、JR東海の新幹線システムを受け入れてフロリダに新幹線を作るよう働きかけたのだ。
p146~
外務大臣クラスの政治家が、日本のビジネスや、ビジネスプログラムを外国に売るために努力することは、日本経済のためという意味では当たり前である。
かつてフランスのドゴール大統領に「トランジスタラジオのセールスマン」と揶揄された総理大臣がいた。国民所得倍増計画を標榜した池田勇人である。彼はトランジスタラジオをおみやげに持っていっただけだが、もし売り込もうとしたとすれば、日本のビジネスそのものだったろう。1つの特定商品ではない。
ところが前原前外相は1企業であるJR東海の新幹線の売り込みに出かけた。この行為は間違っているだけでなく、モラルの点からも許されない。前原前外相はこうしたことをあたかも当然のごとく行い、反省もしていない。
こうした姿勢は、彼が政治家として国家の代表であることを完全に忘れ去ってしまっていることをよく示している。
p146~
前原前外相は若くして民主党政権の代表的な立場についたが、その立場にふさわしい経験がない。とくに外務大臣という仕事にふさわしい教育を受けていない。
一般的にアメリカでは、政治家がしかるべきポストに就くためにはその立場にふさわしい教育や経験が必要とされる。財務長官や商務長官に任命された人々を見ると、自分で会社を興して成功した人も多い。
「事業に成功した人は、自分の会社を大きくするために全力を挙げるが、同時にほかの会社を思うことも大事であることを知っている」
全米商工会議所のスタッフの一人がこう言っているが、前原前外相は、政治家としてある程度の訓練を経てきたのであろうが、ビジネスマンとしての教育や経験はない。前原前外相の趣味は鉄道だが、だからといって大臣という立場を利用して、1つの会社を助けることは間違っている。
これまで自民党の陣笠クラスの政治家が企業を助けたことはままあるが、プライベートな会社を、自民党やその代表が助けたという例はほとんどない。これは、政治家は国家を代表する職務であり、企業は私的なものであるという区別があるのを理解しているからだ。
こうしたことがわからない前原前外相は結局、国家とは何であるかという認識を持っていない、つまり国家意識が欠如していると言わざるをえない。
p147~
国家意識のない政治家は、国際社会では存続することが許されない。世界は国家と国家の関係によって成り立っている。総理大臣といえども、あるいは末端の官僚といえども、あくまでも形の上では国家を代表する一員であり、すべての行動は国家意識に基づいたものでなければならない。
前原前外相だけではなく、民主党の政治家たちはこういった国際常識に欠けている上、民間企業の責任者としても行動したことがないため、国家との関わりがきわめて薄い。
アメリカで1企業のために働く人々は、国家公務員や議員ではなく、コンサルタントやロビイストである。私は、ワシントンで大勢のコンサルタントやロビイストと知り合いになったが、軍隊に加わり戦争に参加したことのある人が驚くほど多い。
「国の安全のために働いてきた」そうした愛国的な気持がビジネス活動につながっている。彼等は1企業のビジネス活動を援助して、外国政府と交渉することも多いが、あくまでも民間人として活動している。
ところが前原前外相は、ひたすら政治活動だけをつづけ、まわりあわせで外務大臣というポストに就いた。彼は国家全体の利益を考えることなく、1企業のセールスマンになってしまったのである。
前原前外相の行為に象徴される民主党政権のこうした体質を、アメリカ政府の関係者もよく心得ている。
p148~
民主党の政治家たちが世界から受け入れられない大きな理由の1つが、彼らの国家意識のなさなのである。
p150~
いずれにしても国民の命運を定める重大な仕事をする政権は、その責任の重さゆえに、簡単には手にすることができない。ところが日本の民主党政権は、ある意味では何の努力もしないまま政権を手にした。自民党政権が自壊してしまったからだ。
自民党政権はあまりにも長い間権力の座にあったためにすっかり腐敗して、国民の信頼を失ってしまった。
p151~
自民党の崩壊は突然に起きた。まるでマスコミに煽られるように国民の大多数が自民党政権を見放し、民主党を選んだ。つまり、このどうしようもなく無責任な民主党政権を作ったのは、まぎれもなく日本国民なのである。
これは日本の民主主義が他者から与えられたもので、自分たちの手で勝ち取ったものではないからである。日本の人々はいまだに民主主義に慣れていない。そのため政治に対する責任感がない。自分の持っている一票の重みが分かっていない。
民主党政権が生まれたのは劇場型政治の結果であると言った人が大勢いた。国民が劇場の観客や芝居のファンのような気持ちで政府を選んだという意味だが、これは日本人の民主化が間違ったプロセスで行われたからである。
日本の民主主義は、第2次大戦に日本が負けた後、占領軍であるマッカーサー司令部が日本国民を統治するために便宜的に与えたシステムである。政治家を選ぶ投票権を簡単に手にした日本の人々は本来、投票権というものが、骨身を削る苦労の末に手に入れるものだということをまったく知らない。
p152~
アメリカの政治を見ていると、民主主義による選挙とは、それぞれの人のモノの考え方と利益のせめぎあいである。つまり自らの利益を、政治的に確定するために投票を行う。
アメリカという国は実にさまざまな人々で成り立っている。すでに地位を確立した途方もなく豊かな人々、自分の家を持つというアメリカン・ドリームを実現した人々、アメリカで生まれながら十分な教育も受けられず、その結果、何代にもわたって貧しいままの黒人、外国からやって来て、懸命に働いてようやく帰化が認められ選挙権を得た人々。
こういった人々が自分の利益を守るために投票し、政府を作るのである。人々の投票によって政治は大きく変わり、オバマ大統領のようにアメリカ生まれかどうか分からないと疑われている政治家が大統領になることもある。
アメリカ国民は、劇場の観客や俳優のファンではない。選挙というのは、人気投票では決してない。このため、選ばれる政治家は真剣に国のことを考える人々であり、国のために仕事を行う人でなければならない。
p153~
民主党の政治家が口にすることが無責任で、前に言ったことを平気で打ち消したり、嘘を言ったりするのは、投票した人々と同様、民主主義を理解していないからだろう。だから罪の意識がないのである。
こういったやり方が現在の日本の政治で許されているのは、劇場型政治などという言葉を軽々と使う日本のマスコミの無責任さにも罪がある。日本のマスコミは、いまや芸能紙やスポーツ紙のようなつもりで政治を伝えている。
外国の人々は簡単に前言を翻す民主党の政治家を軽蔑するだけでなく受け入れようとしていない。
世界で共通しているのは、政治家の言葉はいったん出したら引っ込めることはできないということである。
p160~
くり返すが、民主党の政治家たちには国家意識もない。だから外国人に選挙権を与えようと考え、外国人から選挙資金を受け取っている。全米商工会議所のトム・ドナヒュー会長がこう言ったことがある。(略)
「外国人に選挙権を与えれば、日本が外国の利益に動かされる危険がある。民主党の政治家にはそれが分かっていないのか。おかしなことだ」
このドナヒュー会長の言葉は世界の常識である。外国人から政治献金を受け取ることができないのは、国を守るための当然のしくみなのである。菅首相が外国人から献金を受けながら、返金してそのまま総理大臣の地位にとどまれること自体、世界の常識に反している。
ちなみにアメリカでは、アメリカに帰化しただけではアメリカの大統領になることはできない。アメリカで生まれたアメリカ人でなければ、大統領に選ばれる資格はないのである。
キッシンジャー博士もシュワルツネッガー前カリフォルニア州知事もアメリカ人以上にアメリカ的であり、アメリカのために働いている。だが大統領になることは出来ない。この原則は、国家が国家として存続するための最低限の原則である。理由のいかんを問わず外国人は国を動かしてはならないのである。
民主党が政権をにぎっている現在、我々はこの問題について、じっくり考えてみる必要があるのではないか。この問題は単に外国人排斥とか、在日外国人に対する偏見といった面から考えてはならない。日本が国家として存続するための最低限の条件について考えなければならない。
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◆ 『なぜアメリカは日本に二発の原爆を落としたのか』日高義樹著《ハドソン研究所首席研究員》 2012年07月25日1刷発行 PHP研究所
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◆ 『帝国の終焉』(「スーパーパワー」でなくなった同盟国・アメリカ)日高義樹著 2012年2月13日第1版第1刷発行 PHP研究所
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◆ 『日本の悲劇 怨念の政治家小沢一郎論』中西輝政著 PHP研究所 2010年04月15日発行
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◆ 孫崎亨著 『アメリカに潰された政治家たち』 第1章 岸信介 / 第2章 田中角栄と小沢一郎
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