貴乃花の引退会見 全文【後半】「八角理事長から正式な通達はなく、話し合いはなかった」
亀井洋志,福井しほ 2018.9.25 21:04 週刊朝日
貴乃花親方(46=元横綱)が25日夕方、日本相撲協会に退職届を出した後、東京都港区の弁護士事務所内で会見を開き、「貴乃花光司は、年寄を引退するという届けを提出いたしました」と語った。
冒頭に代理人弁護士が状況を説明した。
貴乃花親方は「(貴ノ岩暴行事件での)告発状の内容を全て事実無根として認めなければ、一門に入れない、と相撲協会に迫られた」「真実を曲げて告発は事実無根であると認めることは私にはできません」などと訴え、引退に至る経緯を報告した。だが、記者からは「相撲協会の総意とは思えない」「八角理事長と直接、話し合ったのか」などの質問が相次いだ。貴乃花親方の一問一答の全文は以下の通り。
* * *
――弟子の皆さんが涙ながらに(年寄引退に)反応されたとのことですが、ご意向を伝えた時に印象に残っている言葉はありますか。
今日も弟子の一人が師匠が決められることに軽はずみな発言はできません、と言ってくれたのが印象的です。
――弟子の皆様にも愛されていたと思いますが、応援しているファンの皆様にインターネットを通じてメッセージを出されました。どういった思いでしたか。
最終的に私自身が決断したのは今朝。あまりその、深い意味で書いたわけではないのですけど、そのように捉えられてしまったというのは何か私なりに国技館を去る時なので、国技館の美しい建物であるとか、そんな思いがあってその言葉になってしまったのかもしれません。
――ファンの皆様にどういったお気持ちがありますか。
貴乃花として現役、親方として、師匠としてやってこれましたのも、全国の応援者、支援者、そしてファンの皆様方のおかげでしかありません。この思いは生涯胸に秘めていきたいと思います。感謝の気持ちでいっぱいです。ありがとうございました。
――今回の流れを見ていると一人で去っていくような印象を受けます。そういう状況になってしまったのはどうしてでしょうか。
入門した時も自分の意思で決めましたので、今回も自分の意思で自分の去り方を行動に移したというだけなんですけども……。
――お弟子さんたちを精神的に支えたいとおっしゃっていましたが、親方自身の今後は。
具体的なことはまだ何も考えらえておりません。これから考えていきたいと思っています。
――その部分までご家族は承知されているのでしょうか。
はい。そうです。
――先日倒れられましたが、今、体調はいかがでしょうか。
体調はいたって健康と言いますか、元気にやっております。
――今回のこういった心労で?
いえ、暑さもあったとは思いますが、まさか自分がそのような状態に陥るとは思っておりませんでしたので。通常の状態でいられましたので、健康でやれております。今はまったく大丈夫です。
――今後について、千賀ノ浦親方の意思などはお話されたのでしょうか。
常々、将来はいつ引退するかもわかりませんし、今の千賀ノ浦親方に弟子たちをお願いしますという話は数年前からしておりました。私がいつ病気などで倒れて意識が回復しないですとか、そういった状態に陥った時のことも含めて、継承者、後継者を決めておかなければならないということでした。
――正式に引き継ぐという言葉などはありますか。
努力しますといただいております。
――告発状について、すでに取り下げられておりますが、それを今後どのように扱うかなどは考えられておりますか。
ありません。
――実際、親方は八角理事長と同席して話し合いの場を設けて、納得のいくところまで話し合おうとは考えなかったのでしょうか。
はい。正式にと理事長からいただければそれは叶ったかもしれませんが、直接そういった通達をされたことはございませんので。
――それが終わってから今回の引退の届けというわけにはいかなかったのでしょうか。
主観的なものでもございましたし、何か今週中に決定するということも聞いておりますので、年寄総会と理事会があるとも聞いておりましたので。
――親方の口から相撲協会におっしゃりたいことはなんですか。
若い力士が健全に力強い相撲をとって活躍することを数多く輩出していただきたいと思っております。
――直接八角理事長や相撲協会からお話はなかったとのことですが、それは一門のことですか。
一門のことです。
――先ほど8月7日にあったという文書は組織から来たものでしょうか。
相撲協会からです。
――暴行事件などもありましたが。
我が子が、自分の育てている子どもが傷を負ってしまったということで、そのことがショックでありました。今は当人も元気な姿でやられておりますので、まずはそこに感謝したいなという気持ちです。
――親方、誤解されているんじゃないかと思って聞いています。告発状の内容を全て事実無根として認めなければ一門に入れない、ということを相撲協会の総意として決めるとは考えられないんです。告発状を出した親方には親方なりの真実があると思います。その上で事実無根と認めなければ一門に入れないというのは一部の理事の意向ではないかと思います。もし、引退届を受け取った協会が話し合いの場を求めた場合はそれに応じてほしいんです。親方を応援したいという一門、親方はかなりの数いると思うんです。結論を急がさないほうが良いんじゃないかなと思うんです。僕は色んな話を聞いていて、そう思うんです。これは質問ではなく、お願いです……。
はい。(深く頭を下げながら)
――告発状にまつわる協会との食い違い、という話ですが、それ以外にも過去の話を含めて協会に対して価値観の違いや考え方の総意を感じたことはありましたか。
いえ、あの。協会の運営に一瞬でも携わったりとしましたが、価値観というよりも国技として、国を代表するスポーツでもない、神技である大相撲というものをいつまでも残しておきたいという気持ちであります。
――相撲人生の一つの区切りになるかと思いますが、今までの相撲人生を振り返っていかがでしたか。
親方、師匠になって15年ほど過ぎて今に至りますが、現在、関取が3人いてくれて、若い衆が、弟子たちが皆元気な姿で相撲をとれているということに喜びを感じております。これまでの相撲人生でも弟子を育てるということの大変さもありますが、成長していく中での喜びは何物にも代えられないものであります。
――代理人弁護士に確認させてください。事実無根と考えるという文書について、これは協会が親方に送り、同意しろという内容の文書だったということでしょうか。また、これは理事長名で出ているのでしょうか。
(代理人弁護士から)親方の気持ちとしてはこの問題を繰り返さないで、ということです。8月7日の文書に「これを認めなければ◯◯をする」といったことが書いてあるわけではございません。ただ、書面自体は8月末までにこの見解に対する考えを回答しなさいという要請がありましたので、親方はご自身の言葉で、先方、協会は外部の弁護士に意見を求めて、それに基づいて最後に結論付けられていたものですから、法的な部分に関しては弁護士から来ているものには弁護士の見解書を出させていただいたものであります。しかしながら、それに対して9月13日付けで年寄総会からですけれども、年寄総会が27日に開かれるという呼び出し状とともに親方が出された内容に関しては「厳粛に検討し回答するとおっしゃったにも関わらず、反故にするものではないか」といった内容や弁護士の意見書に対しては弁護士同士になりますので、その部分については弁護士に問い合わせるように書いたわけですが、それについて「意見があれば貴殿の代理人弁護士に連絡するよう求めており、貴殿自身は一切回答するつもりがないように思われ、協会と直接に対話しようとしない貴殿の姿勢は非常に遺憾です」と。これはどちらがどう、というわけではございませんけれども、こういうやり取りが8月になっても、親方は3月に出して3月に取り下げていますし、その後処分を受けてゼロからスタートしているこの時期になってまだこのやり取りが続いていて、そのことに関して自分の言葉で9月27日の年寄総会でというところまで来ていると事実経緯として明らかにさせていただきます。
――親方の名誉のために質問させてください。貴乃花部屋を移転するのではないか、部屋の消滅といった話を聞いたことがありますが。
まったくございません。
――今朝、弟子の皆さんに退職の意向を示した時に涙する弟子を見てどのように感じましたか。
今まで以上に支えていきたいと。精神的な悩み事があった時には真っ先に来てほしいという気持ちになりました。
――どういった存在でしたか。
我が子のような、それ以上の存在です。
――この先もその関係性は変わらない?
はい。
――親方としてどこかの一門に所属しなければいけない、という形についてはどのようにお考えですか。
そうですね……。長くしているものですので、単に否定はできないものだと思います。以上は差し控えさせていただきます。
――相撲協会を変えたいという信念を持ちながらも退職を決めました。今後も相撲協会を変えていきたいという気持ちについてはいかがでしょうか。
もう引退を届け出ておりますので、叶わぬものだと思っております。ただ、弟子たちが大きなけががなく、大病を患うことがないことだけを願っております。
――相撲協会とは完全に縁を切ると。
決意しましたのでそういうことになるかと。
――外からアプローチする手段はあるかと思いますが。
現在のところは全く考えにございません。
――弁護士に中身を伺いたい。8月7日の文書の位置づけがよくわからないんですけども、これはどういうタイプのものなのでしょうか。
弁護士:簡単にご説明します。親方がその前の年寄総会で、実際に告発状を出したことに関しては、事実を弁護士に説明して、弁護士が関知したうえで、告発状を弁護士のほうで出しました。それは真実を追究したい気持ちが強かったからです。という報告を、年寄総会ではしております。これに対して、私の告発状に関して何か疑義等が、まちがっている点がございましたらご指摘下さいということも親方が申した次第です。それに対して、8月7日付の理事長の文書には、協会が委託された外部の弁護士の法的意見に基づく見解書を添付されて提出して下さい。それに対して、8月末までにということでございます。内容は聞いておりませんけど、概略はそういう経緯でございます。
――弁護士さんというのは、危機管理委員会とかありしたけれども、その弁護士さんとはまったく別の新しい方が?
弁護士:今回初めておそらく依頼された外部の弁護士さんということになります。
――親方の会見の中で「無念」という言葉を使ってらっしゃいましたが、改めて無念だと思っていることを具体的に教えて頂けますか?
弟子たちに寄り添って指導して、これからそれを続けられないことが無念です。
――ご自身のこれまでの活動についても無念という部分がございますか?
私が個人で活動したことは無念ではないです。弟子と一緒に同じ釜の飯を食べる、同じ屋根の下に暮らすことができないのが、寂しく無念ではあります。
――これまでの会見の中で、今回までの経緯をお話し頂きましたけれども、引退以外の道を模索するとか、誰かに相談するという動きはこれまで行ったのでしょうか?
力士たちも噂話を聞くでしょうし、これ以上、弟子たちを萎縮させたくないという思いです。
――きょう朝、決断されたということでしたけれども、いま、ご家族から掛けられた印象的だったお言葉とかを覚えていらしたら教えて下さい。
私が決断したことには、黙って応えています
――5つある一門のうち、どこかから声を掛けられたり、手を差し延べられたりということはなかったでしょうか。
頂いておりました。ただ、それが理事会で決まったことなのか、口頭で決まったものなのか、正式なものなのかは確認ができていない状態でした
――声をかけてもらった一門に所属するという選択肢はなかったのでしょうか。
はい。単に一門に所属するということでしたらできたのかもしれませんけれども、告発状について事実無根であることを認めるようにということを役員から言われましたので、それはどこの一門にも入れて頂くことはできないなと考えておりました。
――今回の決断に関して、おかみさんからは何か言葉はあったんでしょうか。
黙って無言で、頷いているような状況です。
――ご自身の本心として、やはり自分で弟子を育てたいとか、部屋を続けたいという思いはいまもありますか?
今もあります。ただ、千賀ノ浦親方が貴乃花部屋にいまいるうちの子たちほとんどを入門した時から育成に携わってくれた方ですので、その方に託したいという気持ちもあります
――協会のほうから告発状の中身について事実無根と言われたということですけども、例えばこの部分とか、具体的な指摘があったのかということと、なぜ、そこまで強硬に事実無根ということを親方に言わせようとする、その理由や背景をどうお考えですか?
21日に設けられていた年寄総会、並びに理事会もあるようなのですが、そこに向けて急ピッチで進められているような様子が窺えましたけれども、原因としては私にはわかりかねるところですけれども
――そこに対する疑問というのもあったわけですか?
はい、ありました
――どうしとても譲れないという部分はどういったところなのか。
個別な指摘よりも、事実無根であることに告発状がなされているというものが来ましたので、どう考えても私自身が認められなかった
――先代師匠から部屋を引き継がれて、こういう形で相撲界から離れるということについて、お父さんにどういう報告をしたいのか。
そばに仏壇がありますので、毎日手を合わせて見守って下さいということをお願いしているのですが、今日までで終わりますということを報告したいと思います
――協会に提出されたのは引退届ですか? 退職届ですか?
引退届です。規約に明記されているのが引退ということで、退職という言葉は書かれていませんので、引退という言葉を使わせて頂きました
――協会内で親方のみならず、弟子への圧力があると思われたことがございますか?
弟子はですね、師匠がどこの一門に行くのかなとか、やはり弟子たちも側面から話を聞くと思います。噂のレベルであったとしても。やはり一緒に住んでいますし、何か師匠がつらい思いをしているとか、そういうのが伝わってくることが多々ありましたので、決して言葉にできないような思いでおりますので。伸び伸びやってもらわなきゃ、なんて気持ちでおります。
――今回の引退に関して、阿武松親方から何かご意見とかございましたでしょうか。
特にございません
――30日に日馬富士関の断髪式が行われるということですが、何かご感想はありますでしょうか。
私は弟子の貴ノ岩が復帰してくれることを、それだけを願っております。
――協会の執行部の物事の進め方とか、公益財団法人としてのガバナンスのあり方について、こういうふうにしてほしいというのはありますか?
強くなった若い力士たち、相撲道に一生懸命取り組んだ力士たちが、いずれ親方になっても公益財団法人として勉強しながら、新しい大相撲の発展につながる職責を果たしていける道をこれから作って頂きたいなという思いがあります。親方としての取り組みとか職務を進めてほしいと思います。
――幹事報告書でもガバナンス不全を指摘するような声もあります。これに対しても、協会は外部の弁護士による調査で問題はないという回答をしているわけですが、協会のカバナンスの不透明さについて指摘されていますが、この点について如何ですか?
暴行事件の時にも第三者委員会が立ち上げられなかったというのは、私にとっても残念なことで、今後は不祥事がないに越したことはないのですが、第三者委員会という完全な外部の方の目線で相撲協会を担ってほしいなと思います
(構成/本誌・亀井洋志、AERA dot.編集部・福井しほ)
◎上記事は[dot. ]からの転載・引用です *強調(=太字)は来栖
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