<少年と罪>第3部 塀の中へ再び[2]「僕にとって刑務所の教育は、意味がなかった」(中日新聞2017/8/18)

2017-08-19 | 少年 社会

少年と罪 第3部  塀の中へ再び  [2]
 2017/8/18 Fri 朝刊  刑罰の場 育たぬ自覚

   
   「西尾ストーカー殺人」の加害男性が服役した岡崎医療刑務所。出所後に通り魔傷害事件を起こした=愛知県岡崎市で

 法廷の被告は無表情で目を合わせない。検事が犯行動機を尋ねると、ぼそぼそと「ストレスがたまった」「劣等感があった」。裁判長の安江勤(70)には本音の言葉と思えず、もどかしさが募った。「やったことの重大さが分かっていない」
 愛知県西尾市で1999年、17歳の少年が起こした「ストーカー殺人事件」。名古屋地裁岡崎支部の公判で、安江は加害者と向き合った。
 罪の重さを自覚すれば立ち直れるかもしれない。安江は当時、未成年者の有期刑で最も重い懲役5~10年の不定期刑判決を言い渡した。「どう生きるか考えてほしい」。事前に熟考した言葉で諭したが、少年は目を伏せたままだった。
 「心を開けず、ずっと気がかりだった」。安江は判決の役年後に加害者を、服役先の岡崎医療刑務所(同県岡崎市)へ訪ねた。
 精神鑑定で「分裂病型人格障害」と診断されていた。応対した職員は「専門家を交えたチームで個別に処遇している」と説明した。
 だが安江と対面した彼は、法廷と同様に口数が少なく、会話が続かない。言葉に心がこもっているとは思えず、安江の問いに「反省しています」と、決まり文句を返すだけだった。
 千人以上の非行少年と向き合った安江。罪を直視し、立ち直ろうと必死に努力する者を何人も見てきた。それでも目の前の彼からは、兆しさえ感じない。更生への不安が増し「がっかりした」。
 精神鑑定を担当した児童精神科医の高岡健(64)も更生の困難さを予測して、鑑定書に「医療の役割を重視する必要がある」と記した。念頭にあったのは、加害者が服役した医療「刑務所」ではなく、医療「少年院」だった。
 どちらも治療はするが、医療刑務所は成人の受刑者ばかりで少年に特化していないし、あくまで刑罰の場だ。一方、医療少年院は被害者への謝罪文を書く練習などで罪と向き合わせ、生き方や考え方、対人関係を徹底的に教育する。高岡は「処遇が悪ければ再び非行に走る可能性は高い」と指摘した。
 安江と高岡の懸念は現実となった。加害者男性は満期釈放後の2012年、同県蒲郡市で「通り魔傷害事件」を30歳で起こした。
 裁判官を退官して弁護士になった安江は、福井市の自宅に届いた新聞で事件を知った。「刑務所側が努力しても、やはり矯正は容易でなかった」。人を再び殺さなかったことを「不幸中の幸い」とまで感じた。
 矯正現場に詳しい元保護観察官で日本福祉大教授の木村隆夫(69)=司法福祉学=は「刑務所は教育に乏しく、再犯防止機能は少年院より格段に落ちる」と話す。近年は再犯者の割合が増え、刑務所も矯正教育を採り入れつつあるが「その機能を一層、充実させるべきだ。罰を与えることは必要だが、それだけでは再犯を防げない」。
 木村の主張を皮肉にも、加害男性自身が裏付けている。通り魔事件の判決前、拘留先で本紙記者と面会し、視線を合わせずに語った。この時は、意思を感じさせる明快な口調で。
「僕にとって刑務所の教育は、意味がなかった」
  (敬称略)

 *上記事は中日新聞からの書き写し(=来栖)  
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〈来栖の独白〉
 医療刑務所であれ医療少年院であれ、限界がある。娑婆へ出たとき、教育の成果なんて、追いつかない。神戸連続児童殺傷事件の元少年Aを見れば分かる。
 彼は、立派に更生していた(人間らしい感性を取り戻していた)が、この世(社会)は、彼を犯罪者としてしか扱わず、出版社は彼によって一儲けしようとした。被害者遺族は、彼の真摯な反省を聴こうとせず、手記出版そのものを許さなかった。公立の図書館でさえ、『絶歌』の入荷に悩んだ。手記の中には、彼の深い悔悟、温かな、そして悲しみの人間性が綴られていたのに。
 刑務所や少年院の矯正教育が至らなかったのではない。この世が、犯罪者の更生を許さないのだ。
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<少年と罪>第3部 塀の中へ再び [1]更生の道 なぜ捨てた 17歳でストーカー殺人 出所後に通り魔事件(中日新聞2017/8/17) 
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元少年Aの手記『絶歌』…「制限事例にあたらず」日本図書館協会
神戸連続児童殺傷事件 元少年の手記 図書館…一定の価値観や思想を持たずに読み手のためにある
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『絶歌』元少年A著 2015年6月 初版発行 太田出版 (神戸連続児童殺傷事件 酒鬼薔薇聖斗) 

   

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『絶歌』元少年A著 2015年6月 初版発行 〈毎年3月に入ると、被害者の方への手紙の準備に取りかかる。〉 
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【元少年Aを闇に戻したのは誰か 7年2カ月の更生期間が水の泡】杉本研士・関東医療少年院元院長 2015/9/16

    

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