【報道がつくり出す影】 センセーショナルな報道が注目を浴びる中で問われるべき問いが埋もれてしまう 2020.5.17

2020-05-17 | 文化 思索

報道がつくり出す影 

  2020.5.17日曜日 中日新聞朝刊

「中日新聞を読んで」 武田宏子 
 パンデミックの世界を生き抜くためにはウイルスや症状に関して、あるいは政府の対応について「知ること」が必要不可欠である。専門家会議は「新しい生活様式」の導入を国民に訴えたが、これは私たち一人ひとりが社会に流通する情報と対照しながら自分の行為を点検し、必要ならば変えていくことが求められていることを意味している。日本の場合、他国の状況とは異なり、そういうふうに「要請」されるだけではあるが、そうした「自粛」の風土が日本社会の中で相互監視の傾向を強めがちであることは長い間、議論されてきた。
 5日の朝刊社会面の記事「陽性判明後 バスで帰京」で紹介された山梨県の女性感染者のケースはインターネットでも話題になっていた。女性の行動は周囲の人びとに対して危険を引き起こすものであり、批判されることは免れられないのであろうが、同時に、私たち読者はこの女性の行動についてここまで詳細に知らされる必要があるのかと読みながら考えていた。
 同じころ、英国では、8日朝刊国際面で紹介されているように、都市封鎖に関して政府に助言してきた科学者が自ら課したルールを破り、不倫密会していたことが新聞報道によって暴露され、辞任を強いられた。この暴露報道が英国内の政治状況に影響されていた可能性は記事にも書かれていたが、その政治的意味は、実は、ずっと深くて、暗い。この問題に焦点が当てられることによって影に埋もれてしまったのは、英国内で確認された新型コロナによる死亡者数がヨーロッパ最悪となったじじつであった。1か月以上も前の密会は、英国政府にとって便利な隠れ蓑を提供した。
 センセーショナルな報道が注目を浴びる中で問われるべき問いが埋もれてしまう。山梨の女性のケースでは、なぜ、彼女は東京ではなく山梨で検査を受けたのであろうか。より本質的には、他国の検査数は短い期間に急激に増加しているのに、なぜ日本ではいまだに低い数値にとどまっているのだろう。知るべき問いを見分け、しっかりと検証していきたい。(名古屋大教授)

 ◎上記事は[中日新聞]からの書き写し(=来栖)

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