千種〈磯谷利恵さん〉拉致殺害事件 堀慶末被告の被告人質問=涙声で供述・状況説明 名古屋地裁 2008/12/5

2008-12-09 | 裁判員裁判/被害者参加/強制起訴

堀被告、涙声で供述 千種拉致殺害の公判で状況説明
2008年12月6日 中日新聞朝刊
 名古屋市千種区の会社員磯谷利恵さん=当時(31)=が昨年8月、男3人に拉致、殺害された事件で、強盗殺人や逮捕監禁などの罪に問われた神田司(37)、堀慶末(よしとも)(33)、川岸健治(41)の3被告の公判が5日、名古屋地裁であり、堀被告の被告人質問があった。
 弁護人が殺害状況について質問している途中で、堀被告は突然泣き始めた。自身が磯谷さんの頭をハンマーで3回殴打した際に「血が飛んできたと思ったのでそれ以上殴るのをやめた」と話すと、うつむいて黙り、はなをすすった。
 堀被告が殴打した後に神田被告が30回以上、磯谷さんの頭を殴打しているのを見たと述べ「もういいんじゃないかと言ったが、神田被告は殴るのをやめなかった。(磯谷さんの)むごたらしい顔を目の当たりにして思わず言った」と涙声で供述した。
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千種拉致殺害「3被告に死刑を」 名古屋地裁で母ら証言
2008年12月9日 中日新聞朝刊
 名古屋市千種区の会社員磯谷利恵さん=当時(31)=が昨年8月、男3人に拉致、殺害された事件で、強盗殺人や逮捕監禁などの罪に問われた神田司(37)、堀慶末(よしとも)(33)、川岸健治(41)の3被告の公判が8日、名古屋地裁であり、証人として初出廷した母親らが「死刑判決を望む」と語った。
◆「偽番号『憎むわ』の意味」
 検察側は法廷の大型画面に、利恵さんの誕生直後から社会人になるまでの写真を映しながら、遺族らに質問した。母親の富美子さん(57)は、白血病で31歳で亡くなった夫の代わりに、1人で子育てをしてきたことにふれ「主人に申し訳ない。こんな形で…。利恵を守ってあげられなかった」と泣いた。
 これまでに集めた極刑を求める29万7000人の署名活動について「司法では被害者が2人以上(殺さ)ないと極刑は難しいのですか。同種の犯罪を抑止する意味からも凶悪な罪を犯した3被告に死刑を望む」と述べた。
 利恵さんの交際相手の男性は「利恵さんが被告らに伝えた偽の暗証番号『2960』は『憎むわ』という意味だと思う」と証言。その根拠として、利恵さんが数字の語呂合わせをよくしていたと話した。
 閉廷後、記者会見した富美子さんは「遺族の思いが裁判官に届けばと思う」と語った。
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実は、新しく始まるのは、裁判員・被害者参加裁判なのです『年報死刑廃止08』 安田好弘弁護士
 一つ理解していただきたいんですが、裁判員裁判が始まると言われていますが、実はそうではないのです。新しく始まるのは、裁判員・被害者参加裁判なのです。今までの裁判は、検察官、被告人・弁護人、裁判所という3当事者の構造でやってきましたし、建前上は、検察官と被告人・弁護人は対等、裁判所は中立とされてきました。しかし新しくスタートするのは、裁判所に裁判員が加わるだけでなく、検察官のところに独立した当事者として被害者が加わります。裁判員は裁判所の内部の問題ですので力関係に変化をもたらさないのですが、被害者の参加は検察官がダブルになるわけですから検察官の力がより強くなったと言っていいと思います。
 司法、裁判というのは、いわば統治の中枢であるわけですから、そこに市民が参加していく、その市民が市民を断罪するわけですね、同僚を。そして刑罰を決めるということですから、国家権力の重要な部分、例えば死刑を前提とすると、人を殺すという国家命令を出すという役割を市民が担うことになるわけです。その中身というのは、確かに手で人は殺しませんけれど、死刑判決というのは行政府に対する殺人命令ですから、いわゆる銃の引き金を引くということになるわけです。
 今までは、裁判官というのは応募制でしたから募兵制だったんです。しかも裁判官は何時でも辞めることができるわけです。ところが来年から始まる裁判員というのは、これは拒否権がありませんし、途中で辞めることも認められていません。つまり皆兵制・徴兵制になるわけです。被告人を死刑にしたり懲役にするわけですから、つまるところ、相手を殺し、相手を監禁し、相手に苦役を課すことですから、外国の兵士を殺害し、あるいは捕まえてきて、そして収容所に入れて就役させるということ。これは、軍隊がやることと実質的に同じなわけです。
 裁判員裁判を考える時に、裁く側ではなくて裁かれる側から裁判員裁判をもう一遍捉えてみる必要があると思うんです。被告人にとって裁判員というのは同僚ですね。同僚の前に引きずり出されるわけです。同僚の目で弾劾されるわけです。さらにそこには被害者遺族ないし被害者がいるわけです。そして、被害者遺族、被害者から鋭い目で見られるだけでなく、激しい質問を受けるわけです。そして、被害者遺族から要求つまり刑を突きつけられるわけです。被告人にとっては裁判は大変厳しい場、拷問の場にならざるを得ないわけです。法廷では、おそらく被告人は弁解することもできなくなるだろうと思います。弁解をしようものなら、被害者から厳しい反対尋問を受けるわけです。そして、さらにもっと厳しいことが起こると思います。被害者遺族は、情状証人に対しても尋問できますから、情状証人はおそらく法廷に出てきてくれないだろうと思うんです。ですから、結局被告人は自分一人だけでなおかつ沈黙したままで裁判を迎える。1日や3日で裁判が終わるわけですから、被告人にとって裁判を理解する前に裁判は終わってしまうんだろうと思います。まさに裁判は被告人にとって悪夢であるわけです。おそらく1審でほとんどの被告人は、上訴するつまり控訴することをしなくなるだろうと思います。裁判そのものに絶望し、裁判という苦痛から何としても免れるということになるのではないかと思うわけです。
 それからもう一つですけれども、従来から多数の冤罪被害者の人たちがいます。もう累々たる屍になっているだろうと思うんです。特に最近の冤罪というのは、強制的に自白させられて冤罪になるというような直接的な冤罪ではなくて、むしろ自ら積極的に認めざるを得ない、つまり屈辱的な冤罪の人たちがどんどん増えてきている。これは、ひとたび否認すれば100日200日と拘置所に入れられる。ひとたび否認すれば、反省していないということで、光市事件の彼のように一気に死刑にひっくり返る。そういう中にあって、結局認めざるを得ない。そして、そういうところで認めた人は、どういう心理状態に陥るか。自分自身を責めて生きていかざるを得ないわけです。そういう累々とした冤罪被害者の人たちは、自分が冤罪であるということさえも社会的に発言できない。悶々とした生活、情けない自分を受け入れながら生きていくだろうというふうに思うんです。
 つまり、刑事司法は従来、本当は人を生かし、自由を守り、命を守り、そして名誉と財産を守るシステムだったはずのものが、実は人を破壊し、専ら人に苦痛を与える場所というふうになっているわけです。そういうものを防ぐために、少なくとも理性と法で支配される場、少なくとも事実が公正に評価される場、人が人として評価される場でなければならないのですが、ますますそれと逆行していく。その最たるものが裁判員裁判ではないかと思うんです。
 そして、私が、一番最後に言いたいんですけど、実はこのBPOの意見書には半分憤りを持っています。私の怒りは何か、このふざけた報道は、すべて被告人に対する冒涜であるわけです。この報道の被害者は、実は被告人なわけです。この報道が、被告人に対する加害行為であること、言葉による暴力であり、リンチであり、虐待であることを一言も述べていない。被告人に対する理解を欠くとは指摘しているけれども、報道機関そのものが実は相手を傷つけている、侮辱している、冒涜している、名誉を毀損していると、しかもそれも徹底的に名誉を毀損しているということを、自己批判していない、自己批判に捉えていないというところが、私はこのBPOの結論の嫌いなところなんです。
 つまり、この人たちはつまるところいわゆる文化人にしか過ぎないのではないか。優等生で、良識があって、あるいはいろんな教養の高い人たち、つまり善人なんでしょう。しかし、人から蔑まれ非難されたことがあるのだろうか。非難される側に立って考える、言い換えれば、報道される側に立って考えることができない、報道される側の痛みがまず頭に浮かばない人たちではないかなと、私は思うんです。

関連;「司法改革の行き先は現代の徴兵制?裁判員制度」安田好弘 2008-02-14  
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無期囚の仮釈放、遺族らの意見聴取を義務付けへ=被害者参加制度に呼応 2008-11-27 
 刑事裁判に被害者らが参加し、被告人質問などを行える「被害者参加制度」が12月から始まることにあわせ、仮釈放でも被害者重視の姿勢を示すことが狙いだ。年度内にも関係省令を改正する。
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被害者参加裁判制始まる 刑事裁判大きく変容
 2008年12月1日 中日新聞夕刊
 犯罪被害者や遺族が加害者の刑事裁判で被告人質問したり、求刑意見を述べたりする被害者参加制度が1日、改正刑事訴訟法の施行に伴いスタートした。同日以降に順次起訴された改正刑訴法規定の対象事件に限られ、実際に被害者らが法廷に立つのは早くても年明けになりそうだ。
 被害者らの参加で、従来の法曹(裁判官、検察官、弁護士)と被告による刑事裁判は大きく変わる。また来年5月に裁判員制度が始まり、刑事司法改革はさらに進む。
 参加制度の対象事件は殺人、傷害致死など故意の犯罪で人を死傷させた罪のほか強姦(ごうかん)罪、強制わいせつ罪、業務上過失致死傷罪、逮捕・監禁罪、誘拐罪など。被害者が死亡した場合は配偶者、親子ら直系の親族、兄弟姉妹が参加できる。
 被害者や遺族、代理人弁護士はまず検察官に参加の意思を伝え、検察官から通知を受けた裁判所が事件の性質などを考慮した上で、許可するかどうか判断する。被害者や遺族は求刑意見などを陳述するのに必要な範囲内で被告人質問するほか、有罪の場合の量刑で考慮される情状に関して証人尋問もできる。


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