わたしは六百山

サイゴンでの365日を書き直す 

テト3

2006年01月22日 | 日本語教師
こちら k-603。
テトを一週間前にひかえて、活気に満ちているかというと、HCMの街は、むしろ汐を引かせているという状況です。いつもは仕事の終わったというか、一日がとにかく終わったという男たちでふさがれている歩道に広げられた飲み屋のテーブルも、閑散としています。
このころになって日本語学校のクラスの中でも、テトの休みにどうするかということが、話題になります。わたしは2週間の長期休暇にどう対処しようかと、ようやく考え着いた答えが、お仕着せのバスツアーを利用する、というものでした。4泊5日のツアーで前半はクリアー、後半は 日本からの訪越者を迎えます。学生(といっても既婚者も含めて)の半分は、とにかく両親の元に帰るようです。帰り方は、5~6時間ぐらいだったらバイクでの帰省範囲のようですが、家族数や荷物にもよります。
交通機関としては、路線バスがとても安く、本数も多いので、それで千キロでも、二千キロでも移動するようです。あとは、列車と飛行機がありますが、これは予約が大変なのと、列車は少し、飛行機はかなり高価です。
とにかく、いまは、8千万の国民が機を待って息をひそめている、という状況です。
そんなHCMに 懐かしいメロディーが流れてきました。懐かしいというより、どこかで聞いたようなというメロディーです。それは、人形浄瑠璃での義太夫の旋律で、しかも、発声方法がなんとも似ています。
学校の前を流して通るそれは、三輪車椅子の後ろの荷台に据え付けたスピーカーから流れる、足の不自由な物乞いの呼びかけの声(歌声)でした。
それから、この季節ならではの物売りが来ました。
豚の貯金箱を売っているのです。素焼きの表面に赤や黄色できれいに彩色されています。
日本では貯金箱という言葉さえあまり聞かれなくなりましたが、ベトナムでは現物もしっかり活きています。大人用のドリアンほどのものから、子供用のメロンほどのものまでいろいろです。

さて、ベトナムには よいおとしを という挨拶はないようです。
あけましておめでとうございます は チュッムン ナンモイ というそうです。
わたしは、あけましておめでとう を どうしてそう言うのか、授業の中で説明しましたが、彼らはチュッムン ナンモイ が どうして チュッムン ナンモイ なのか 説明してくれません。その説明を聞くには、わたしは ベトナム語 第1課 から勉強しなければなりません。

季節がないようなこのHCMですが、いまが 落葉のシーズンなのだと感じます。
大通りの並木の常緑樹がしきりにその厚い葉を落としています。
そうか、だから新年か と、無理にこじつけたくなるようなテトを迎える情景です。

新年を迎えたら何かに挑戦しよう。
この気持ちは、わたしたち日本人よりずっと強いようです。
新しい服をきて、新しい靴を履き、新しい出会いをつかもう。
わすれてしまった、こころのステップです。

さて、あるクラスの授業のはじめに お年玉(リッシー)の話をしました。このクラスは テ形を勉強したばかりです。
わたしは、日曜日に街で赤いお年玉の袋を買ってありました。でも 今は教室にありません。
黒板に 袋の絵を描いて、福という漢字を添え、
「これに ラッキーマネー を入れますね、おかねを入れてだれにあげますか」と テ形を使って投げかけました。
ラッキーマネーは ベトナムでも通用する和製英語です。
「ラッキーマネーは 赤いお金ですね。赤いお金は、1万ドンか5万ドンですね」
ベトナムの紙幣は赤 と 青 と 緑 の3色が 基調です。赤は 5万ドンか 1万ドンです。
ベトナムでは赤が招福カラーですから、お年玉は 赤い紙幣と一応決まっているようです。
「じゃ、みなさんは、だれにお金をあげますか?」すると
「もらいます」との答えが返ってきました。それは 22歳で、ちゃんと働いてもいるPさんです。
みんなに聞いてみると、結婚していなければ仕事をしていても、結構みんなちゃっかりともらっているようなのです。
すると、いつもクラスを沸かせるSさんが「わたしは、こどもにあげます。おとうさんにもあげます」といいました。
「Sさん、いくら あげますか? 5万ドンですか?1万ドンですか?」
「ええ・アア・・・、2万ドンです」
2万ドンのお札は青い色が基調です。ちょっとおかしいなと思いましたが、日本でも祝儀袋に3,5,7の奇数を包まずに、2万円を入れることがあまり気にならなくなって来つつありますから、たぶんSさんの子供への愛情だろうと思って、
「そうですか」と答えました。
するとSさんは 胸ポケットに手を入れると、「これです」と赤い袋を出しました。わたしはそれを受け取りました。その袋には漢字で<笑口○開>(○は忘れてしまった)と書いてあります。きっとこれは 笑う門には福来たる だろうと思って、それをざっと説明していたとき、袋の中に何か入っているのに気づきました。
「あれ、」 みんなが 袋に注目しました。
「おかねだ」わたしは おもむろに紙幣を取り出して、みんなに見せようとしました。
その紙幣が半分も出ないうちに、教室がどっと 笑いの渦に巻き込まれ、5分は授業ができませんでした。
中に入っていたのは、青い2万ドンのお札ではなく、れっきとした赤い紙幣(おかね)でした。それも わたしが見たこともない超小額紙幣だったのです。それは今ではもうただの紙に近い200ドンの紙幣でした。(200ドンのコインはありますが、ほとんど流通していません)
開けられることを予想していなかったSさんは、頭を掻いています。
みんな、まさに「笑口○開」です。
それから5分間 Sさんのベトナム語での弁解とみんなの楽しい冷やかしが続きました。

テト。 大人もこどもも楽しみに待っている、一年で一回の骨休めです。

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コメントを書いてくださった マサルさん。
ありがとうございます。
わたしに、「教えることが喜びになり、HCMでなくてはならない先生になる」日がくる・・・。
とても、こそばゆいです。
教案さえしっかりできていて、あとは情熱があって、そして、人との出会いの機会があれば、教えることは喜びにつながっていくと思います。
でも、そのまえに、現地人の生活ができなくてはなりません。
これが、たいへんです。


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1 コメント

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chuc mung nam moi! (chaocaphe)
2006-01-22 13:03:08
私も昨日東大でテトのお祝いをベトナム留学生と一緒にしてきました☆とても楽しかったですきっとHCMは赤い提灯がたくさん町にあってにぎやかなんだろうな~
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