醸楽庵(じょうらくあん)だより 

主に芭蕉の俳句、紀行文の鑑賞、お酒、蔵元の話、政治、社会問題、短編小説、文学批評など

醸楽庵だより   72号   聖海

2015-01-26 11:04:03 | 随筆・小説

  冬は燗酒が旨いね

侘輔 冬は湯豆腐に燗酒、日本人の情緒がでていいね。。
呑助 そうですね。夏でも昔は燗酒を飲むと日本人の情緒が醸されたんですかね。燗酒を夏でも飲む人がいたと聞きましたよ。
侘助 確かに、そんな人がいたことを覚えているよ。
呑助 暑苦しい夏の夕暮でも燗酒を飲むんですか。
侘助 そうだよ。結構、汗をかきかき飲む夏の燗酒もいいもんだったよ。汗をかいて涼しくなるんだ。
呑助 本当ですかね。
侘助 確かにね。俺はその当時、若かったからね。ビールの方が美味いと思ったけれどね。
呑助 やはり、夏はビールが良いですよね。
侘助 そうだね。でも冷やした生酒なんかもいいね。
呑助 生酒は冷やした方が美味しいと聞きましたがなぜなんですかね。
侘助 そりゃ、生酒と云うのは火入れと云う作業をしていない酒の事をいうんだろう。火入れしていないということは酵母が生きているということなんだ。更にもしかしたら雑菌が入っているかもしれない。だから冷やして雑菌の増殖を抑える。そうした方が安全だし、味が少ないから美味しいんだと思う。
呑助 味が少ないというのはどういうことなんですか。
侘助 冬になると大根のふろふきなんかが旨いよね。大根が煮えてくると大根の匂いと云うか香りと云うか、台所に漂うでしょ。飲み物でも食べ物でも温度が上がると匂いが出て来るしまた、味も出て来るんだ。
呑助 そうですね。
侘助 基本的には、煮たり、焼いたりした方が食べ物は美味しくなるんだ。さらに消化も良くなるしね。
呑助 高校のころ、人類の誕生という話で人間は火を使用する。ここに人間の特徴があるなんて聞いたような覚えがありますね。そういえば、
侘助 食べ物は火を通すと味が出て来る。だから美味しくなる。しかし酒は違うんだ。複雑な文化財だからね。燗酒は酒の温度を上げることによって味も香りもでて美味しくなるんだ。しかし過ぎたるは猶及ばざるが如し、というだろ、生酒を燗すると味が多くなり過ぎちゃうんだ。その結果、酒が口にもたついちゃって、滑らかに飲めなくなっちゃうんだ。
呑助 アルコール添加の火入れした普通酒のような酒はお燗した方が味がでて美味しくなるということですか。
侘助 まぁー、そうかな。
呑助 生酒は冷やしたままでも十分味の乗った酒だから燗はしない方が美味しく飲めるということですか。
侘助 そうだと思うよ。生酒を燗すると味が多く出てしまうからだと思う。
呑助 味が少ない方が軽快にすっきり飲めるということですか。
侘助 そうだね。だから、本醸造の酒なんかはどちらかと云うと燗した方が美味しく飲めるんじゃないかと思うね。
呑助 アル添の酒の方が味が整っているなんていう人がいるけど、なるほど、味が少ないからすっきりしているように感じるわけですね。
侘助 そうだよ。純米大吟の酒を燗する人はいないと思う。味の乗った酒を燗しちゃ、味や香りが多すぎちゃって、返ってまずく感じるからだと思う。
呑助 燗酒を楽しむ冬は経済的ですね。より安い酒が美味しく飲める。