本の感想

本の感想など

「違和感」の日本史 (本郷和人著 産経セレクト)

2023-06-27 14:45:21 | 日記

「違和感」の日本史 (本郷和人著 産経セレクト)

 どうも産経の本は、編集者の意志は本の中に反映させない方針のようで著者が自由に書いたものがそのまま本になった風情である。ちょうど新聞の夕刊に載った随筆がそのまま本になっているようなもんである。自由にお書きになっただけあって著者の蘊蓄を発揮するのにちょうどいい具合になっている。他の本郷さんの本だと何某と何某の権力闘争はどんな風であったかを著述し、読者は書いてあることから自分が今身を置いている社会の闘争の帰趨を予測するときの参考にすることができる。(自分のことに引き付けて読むことができる。これはなかなか役に立つことがある。)しかしこの本はギネスブックを読むようなものである。なぜある時代の天皇の名前には「光」の字が多用されるのかといった面白いけどその場限りの話題が陸続と出てくる。これはこれで面白いが頭に残らない。

 さて自由にお書きになると、日本史に関係ないけどアレっと思うような記述に出会う。そんなこと書かなくていいように思うけどどうも学者は収入が少ないそうである。なるのが難しくてなったところで収入が少ないとなるとだれもなり手がいなくなる。そうなると日本の文化の質が低下する。文化も大事な国力であることをもっと知ってもらわねばならないだろう。国を守るのは何も目に見えるものだけではない。

 そこで思い出した。わたしの小さいころの友人の父君に高名な(今でもその著作が売られている)日本史の学者がいる。その友人宅へ遊びによく行ったが、大きな家の一番奥の広い庭の端に小さなトタン葺きの納屋があってその納屋が書斎であった。あれでは夏の暑さ冬の寒さは耐えられないであろう。ある日、夫人が昼ご飯をお盆に載せて運んでいくのを見かけたことがある。麦飯の丼に卵が一個かけられている、それだけで他何もない。学者は暇そうでいいなと思っていたが、そんなことはない。学者は昔から(小泉改革の前から)かなり過酷な仕事であった。と断言してはいけない。かなり過酷な環境の中で大変な成果をあげた方もおられるようだと言わねばいけない。

 もう少し学者を大事にしたらどうか。が読後の感想である。


日本史の謎は「地形」で解ける(武村公太郎著 PHP文庫)

2023-06-22 13:00:38 | 日記

日本史の謎は「地形」で解ける(武村公太郎著 PHP文庫)

PHP文庫はどんな内容であっても出版する方針らしくて中には中身スカスカの外れの本も多いけどこれは面白かった。著者は土木工学の専門家で土地の形から歴史上のなるほどという説明をされている。

軍事目的の研究が民間利用されるととってもいいことが起こることは周知の事実で、ロケットもネットもコンピューターも最近では手術ロボットまでまあそれぞれ役立っている。ありがたいことだと思っている。(荘子の言う機事あれば機心あり、の却って迷惑との議論はおいておくことにして素直にありがたいことである。)シベリア出兵の際に塩素ガスの研究をしてそれが完成した途端に戦争が終わり、やむを得ず上水道の殺菌に使うことになったのは初めて聞く民間転用の話であった。これは土地の形とは関係ないが土木でないと知りえない歴史のお話で目からうろこであった。尤も人々は戦争がないとありがたいものを研究開発しないのかと嫌味を言いたくなる。

土地の話では意外な議論がなされている。徳川と吉良は1600年初めに矢作川の干拓を巡って遺恨があったというのである。その恨みを晴らすために1700年初めの赤穂浪士討ち入りに際してうまく立ち回って吉良家をつぶしてしまうようにしむけたというのである。100年間の遺恨というのは、わが国では本当かと思ってしまう。(日本人は恨みをすぐに忘れてしまう。)加藤廣さんの小説謎手本忠臣蔵では、浅野家と将軍家との確執という設定になっていたように記憶している。幕府がなぜ吉良家が倒れるように誘導したのかの疑問はどうしても残る。たった三百年前のことなのにもう何もかも分からんようになってしまっている。

それよりも徳川家と吉良家はお近くであったので世間に公表しては困るようなお家の中の秘密を吉良が握ったというより知ってしまったのではないか。たまたま吉良は高家筆頭である。「この件朝廷の方に申し上げましょうか?」くらいの脅しをかけていたかもしれない。浅野の殿様の気が動転したのをもっけの幸いにうまいこと吉良家を幕府の手を汚すことなく倒すこと、これが目的であったとすればうまく説明がつくんじゃないか。この時の幕府トップは新井白石であるから、もしそうならこの人ただの学者じゃなくて辣腕の政治家である。事実がどうだか知らないが、この時代の一種の推理小説が出来そうであるなと考えながらこの本を読んだ。


映画 探偵マーロック

2023-06-18 18:30:20 | #映画

映画 探偵マーロック

 これを本で読むと登場人物の名前を憶え切らないうちに読み終わってしまって何が何やら分からないので映画で見ることにした。どうもカタカナ名前はいけない。(むかし黒岩涙香は外国小説を翻訳するときに人物に漢字名を付けた。あれに習ってくれると一遍で覚えるのだけど。)映画では名前は覚えられないが顔で覚えるから何とかついていける。それでも込み入っていて理解がうまく行かないが程よく込み入っているところが快感のタネになるという、倒錯した心理状態で帰ってきた。

 相変わらずアメリカ社会はバックグラウンドミュージックに暴力のある所で、フィクションとは認識していてもちょっと我らには移民できそうに無いところだとの認識を新たにした。儲けたいのはお互い様だけどなにもあそこまで命を張ることはあるまい。儲けることに中毒しているんじゃないのか。西部開拓に命を張ったのは理解しているが、もうそろそろ落ち着いてお金持ちの風格を出すことを考えたらどうなんだと言いたくなる。「小人は身をもって利に殉じる」状態じゃないかと脇役だけではない主役の探偵にも言いたくなる。「富者は疾行して多く財を積むもそのことごとくを用いるを得ず。」ともいう、アメリカ自身がここでいう富者になってないか。

 さて日本にマーロックさんが出張してきたらどんな映画になるだろうか。キット強い同調圧力に従う日本人を描くだろう。日本のバックグラウンドミュージックは同調圧力であろう。アメリカ社会にある暴力的傾向を我々が不思議に思うように、日本社会にある同調圧力に従う傾向をアメリカ人は不思議に思うであろう。お互い何とかしないといけないところですな。

 

  ハリウッドの内部はなかなか難しい社会になっているようだ。我が日本の芸能界も難しいところと漏れ聞く。なぜそうなるのかだれか解説してくれないかな。芸能界は権力機構のすぐそばにあるものだからかもしれない。権力機構は統治の一手段として(映画を含む)芸能界を用いる。甘粕大尉は満州で映画会社を経営した。芸能界に身を置くといろいろ利権が転がり込んだりするのであろう。そう言えば、秦の始皇帝のお母さんは踊り子出身だというし、わが源の義経の奥さんも白拍子の踊り子であったという。権力機構との関係は微妙だけどケインズの奥さんもバレーダンサーであった。探偵マーロックには関係ないけどそんなことを考えながらこの映画を見た。


半分生きて、半分死んでいる(養老孟司 PHP新書)

2023-06-15 22:25:36 | 日記

半分生きて、半分死んでいる(養老孟司 PHP新書)

 相変わらずの人間社会への舌鋒鋭い批判の連続で胸がすく思いがする。理由もなく心が鬱曲するときはこの人の本を読むに限る。前提を壊して考えるといろいろのものが見えてくることをこの人の本から教わった。しかし、折角この本を読んで鬱曲が晴れてもまた次の日に勤めに出ると世の中は前提だらけでその前提に無理やり自分を合わせていると、その日の夕方には再び鬱曲が始まってくる。そうするとまた帰りの電車の中では養老さんの本を読まねば胸が苦しくなる。この繰り返しをすることを少し前は「養老中毒」と言ったらしい。わたくしは相変わらず「養老中毒」が続いている。

 想像するに養老さんはお勤めの時かなり周囲からの攻撃、またはいじめに遭ったのではないか。このような理屈を展開してかつその理屈を本にしてかなり売れている、周囲は面白くないはずである。ところが周囲が攻撃すればするほど養老さんの理屈はますます巧緻になっていくからますます本が面白くなってくる。そうするとますます本が売れるという好循環をもたらすことになる。私の想像通りだとすれば、周囲のヒトの攻撃は却って養老さんの本が良く売れるきっかけを齎したと思う。周囲のヒトは攻撃したつもりで養老さんに塩を送ったようなものである。そのことが分かれば周囲のヒトはますます面白くなくなるであろう。

 なお、私の経験観察では周囲にあわせることのできない人以上に周囲とは違う手段で自分を売り出したり事業を起こしたりした人を、周囲のヒトは徹底的にイジメて排除する傾向がある。そのような人を仲間にしたくないのであろう。これが日本だけの文化なのかどうかに興味がある。ある程度は万国共通であるような気がするが日本は突出しているであろう。

この本にも書かれていたが小さいころ養老さんは「兵隊さんにだけはなりたくない」と言ったそうである。(終戦前のことだから勇気のある発言である。)周囲にあわせることが大嫌いな人であるようだ。養老さんの本に中毒をするところまでいかなくても好きだという人は、多かれ少なかれ周囲に合わせることが嫌いな人で私と同質のヒトとみられる。この本がたくさん売れているというのは、私と同質のヒトがたくさんおられるということで大変喜ばしいことだと密かに思っている。


日本史を疑え(本郷和人著 文春新書)

2023-06-11 16:41:33 | 日記

日本史を疑え(本郷和人著 文春新書)

 日本史に限らないけど疑わしいことは教科書にも一杯ある。ヨーロッパは本当に香辛料が欲しくてインドや南アジアに出たのか?あれだけが目的で船団を組んで出ていくのはちょっと儲けが少なすぎないか。もっと他にほしいものがあったんじゃないか。日本史でなら、大福やおはぎがあったんだから砂糖は大量に輸入されていたはずで実は「鎖国」になってなかったんじゃないのか。など不思議は一杯ある。

 そうだったのかと思わずヒザを打つことにこの本で何度も出くわした。例えば山岡荘八でも司馬遼太郎でも比叡山焼き討ちは宗教勢力の腐敗を信長が嫌ったためと説明されていた。ヒトの腐敗なんかこっちに害がない限り笑い者にはしても軍を動かすような面倒くさいことはしないはずなのにと当時思いながら読んでいた。

この本には納得のできる説明があった。比叡山は京に入る物資に税金を課していたので信長は焼き討ちしたという。課税権という利権争いならそれは軍隊を動かしてでも勝とうとするだろう。あとで入ってくる税金を思うと軍を動かす費用は安いものと判断したのだろう。

 歴史のことでも今の現実の政治の説明であっても、こういうそろばんに載る説明が欲しい。果たしてヒトは本当に理想で動いているのか、理想を考えているのか、わたくしはそこをいつも疑っている。いつもそろばんを弾いて得なほうをとりたいと思っているんじゃないのか、わたくしと同じようにである。