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江戸時代の先覚者たち(日本資本主義の精神所収) 山本七平 文藝春秋 今頃やっと分かった

2023-05-26 14:33:09 | 日記

江戸時代の先覚者たち(日本資本主義の精神所収) 山本七平 文藝春秋 今頃やっと分かった

 今はどうなっているのか知らないが、昭和四十年代の中学高校ではマルクス史観の先生が歴史を教えていた。教科書とそんなに離れていないからまあいいかと思っていた。しかし微妙なところで影響はあるもので例えば三岡八郎(由比公正)は何をした人は細かな説明はなかったように思う。この本を読んで今頃になってやっと何をした人かが分かった。単に財政改革と言うだけでは意味の分からないことである。この人福井藩で藩札を発行しそれを生糸などの産物に替え、さらに当時始まった外国との貿易によってその生糸などを金銀の貨幣に替えた。藩札を金銀の貨幣に替えることで藩の財政改革を成し遂げた人で、藩に総合商社の役割をさせた。

 三岡八郎がこういう働きをするのは、このようなことができる思想家または実務家たちが江戸時代中期に出現したということの説明を試みたのがこの本でもちろん三岡八郎だけを論じているのではない。江戸時代は真っ暗闇でえらい不自由な時代であったと教えられた気がするが、この著作を読むと案外自由にものを考えられた時代ではなかろうかと思えてくる。もっとも朱子学の本山である湯島の聖堂の近くではそうはいかなかったでしょうがそこから遠く離れたところでは、日本型の資本主義の発生が準備されていた。

 どうも当時の中学高校の歴史の先生はこの日本型の資本主義の発生が気に入らなかったか、またはご本人が理解できなかったのでこの部分を教えなかったとみられる。しかし、大抵の生徒は日本史の理解がこのレベルで止まってしまうので生徒にとっては生涯の損失になっている。知識というのは受験突破とうあほみたいな目的に使うものではもちろんないはずである。

 マルクス史観のついでに是非言っておきたい。われわれの世代は政治経済の授業はあって無いも同然であった。教科書は開いたこともない。徹底して搾取と疎外を教え込んだ。おかげでわれわれは銀行貨幣の役割とか金利とか何も知らないで卒業しているのである。(当時の教師には反省してもらいたいものである。)

 

 三岡八郎は司馬遼太郎の作品にも登場するがこの人何をしたのかの説明がどうもあやふやでわかりにくいものになっている。これは司馬さんも経済事象に関する理解が行き届かなかった人だったからではないかと思える。(司馬さんの権力闘争に関する理解はさすがである。ご自身が身近で様々な闘争を観察されたからだと拝察する。)三岡八郎は我々の世代では理解するチャンスが二回あったのに二回ともなんやら名前は残ってるが何した人か分からんということになっているのはこの人にとって気の毒である。

 ヒトは自分が本当によくわかっていることしか表現して他のヒトに伝えることができない。ここに文に巧みな人は案外経済とか理科に関する知識があやふやであるから、文にしたときの仕上がりが良くない。経済とか理科に関する知識が確かな人はどうも文が巧みでないから読んですらすら分からないという恨みが残る。文に巧みでかつ経済理科の理解が十分というのはこの山本七平さんと立花隆さんである気がする。他にもおられるとは思うけど。



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