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おカネの流れで見る世界史(PHP文庫 大村大次郎著)

2024-02-12 23:33:55 | 日記

おカネの流れで見る世界史(PHP文庫 大村大次郎著)

 PHPの本は粗雑な作り方が多くて好きになれないけれど、たとえ粗雑でも今まで不思議と思っていたことが、氷解するのがいい本である。その意味ではとてもいい本であった。

 むかし、宮﨑市定さんの中国史を読んだとき元は交子という紙幣を発行し領内での商工業を刺激することで富を得、領土を広げたとある。(もちろん迅速に動く軍隊もあるけれど)はじめてこれを読んだとき、いくら軍隊が強くても異民族がその紙幣を信用するはずがない(旧日本軍が占領地で発行した軍票みたいなもんだから)どうもおかしいと思っていた。市定さんは当たり前だから書かなかったのかもしれないが、この本には北宋の官交子の「発行額を125万貫とし兌換準備の鉄銭は36万貫とした」との記述で疑問が氷解した。兌換準備の金属貨幣があったんだ。北宋でこうなんだから元でも当然あっただろう。

 日本ではいまだに元を当時の野蛮な出来星の国で、我々が神風で追い払ったと考える向きが多いが金融では世界最先端であった。よくこんな国と戦争を起こす気になったものである。戦争はその場の矢玉のやり取りだけではなく、国家のシステムの優劣を競うものだからシステムが段違いに進んでいる元との戦争は本当はとんでもないことではなかったのか。そんな感想をこの本のこの段で感じた。

 この発行額と兌換準備の金属貨幣との差がどんどん膨らむことで信用を失い、反乱する属邦に速やかに派遣する軍隊が内紛のために動かなくなることが帝国の滅ぶ原因だろう。このことは現代を生きていくためにしっかり読まないといけない部分だと思う。軍隊のことは知らないが、発行額と準備金属貨幣の差は今どんどん膨らんでいないか。結果は歴史の教える通りではないのか。自分だけは前例に従わないというのはなしだと思うがどうか。

 同じことがローマの衰亡の部分にも読み取れる。ギボンのローマ帝国衰亡史を読んでもさっぱり分からなかったが、この本では徴税システムの不具合によって民間にカネが回らなくなることが帝国の衰退する原因であると書いてある。王室が贅沢をしたために増税とは俗耳に入りやすい説明であるがそういう風には言っていない。徴税システムとだけ言っている。その背景をもう少し丁寧に書いてほしかった。

 思うに、PHPは編集者と著者の対話が不足したままで本造りしてそうな気がする。読者は何を知りたいかは編集者が示さないといけない。



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