山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

全日本選手権

2009-04-27 08:42:36 | Weblog
 29日に行われる全日本選手権は、例年になく盛り上がっていない。一番の原因は役者不足ということだろうか?

 昨年は、井上、鈴木、棟田、石井という錚々たるメンバーがオリンピック代表権をかけて戦った。柔道家ならずとも興味を引かれたに違いなく、おおいに盛り上がった

 ふと考えると、今年も引退した井上を除いて、鈴木、棟田両選手は出場する。ここにもし今年も石井が出場していたら・・と考えてしまう。現在の男子柔道が盛り上がりにかけるところは石井というある意味でスターだった選手をなくしてしまったところが大きい

 彼は北京五輪で金メダルを獲得した後、総合格闘技へと転身した。揉めている最中にも感じたことだったが、柔道界として彼を引き止める努力が必要だったと思う。北京での男子の成績は金メダル2個(内柴、石井)で、後はメダルなしという惨憺たる結果であった。石井選手の金メダルの価値は、とくに日本柔道が重きをおく重量級であったこともあり、非常に高いものだった

 確かに金メダル獲得後は「暴言」「珍言」「迷言」を繰り広げ、オリンピックチャンピオンの品格を問われる部分もあったが、大きなプレッシャーの中で若干22歳の青年が舞い上がってしまったことは十分に理解できる。私自身の彼の言動にはインタビュー等で厳しい発言をしてきた。しかし、注意したり、指導したりすることと「見放す」こことは違う

 彼が総合格闘技への転身を匂わせたときの柔道界の態度は指導するというよりは「見放す」に近いものがあったように記憶している。もしあの時、柔道界の重鎮と言われる人が上から目線ではなく、金メダリストへのリスペクトの気持ちを持って熱心に慰留していたらどうであっただろうかと、考えてしまう

 私個人の考えでは、総合格闘技と柔道を両立することは難しいが、1~2年プロとして活動した後、再び柔道でオリンピックを目指すということも可能だと思う。人間は食べていかなければならず、誰もが職業を選ぶ。柔道にプロがない以上、総合格闘技という職業も一つの選択肢であろう。それをことさら悪いことのように扱うのは今の時代にそぐわない

 そうやって考えてみた時に、石井同様にプロ格闘家へ転身した吉田秀彦や小川直也といった人たちを思い出した。彼らは共に柔道場を立ち上げ、子供達を中心に柔道の普及・発展に貢献している。柔道場などで儲かる訳もなく、持ち出しの方が多いはずである。つまり、こういった活動は彼らの純粋な柔道への愛情、情熱に他ならない

 最近、少年柔道の大会に行くと、小川君や古賀君が普通に子供達に付き添って熱心に応援している姿を見かける。こういった柔道への情熱を持った指導者をいまの柔道界は活用しきれていない。小川、吉田、古賀といった年代は、ばりばり強化で活躍していなければならない。彼らは接してみればわかるが、カリスマ性があり、求心力をもっている

 もちろん、全柔連の強化スタッフに入れることには抵抗があるかもしれないが、活用の仕方は考えればいくらでもあるはずである

 柔道界は保守的、封建的であり、閉鎖的である。もちろん守っていかなければならない伝統もしきたりもたくさんある。しかし、それ故に狭い世界に閉じこもってしまっては発展はのぞめない。柔道界がもっと寛容の精神をもって臨めば、柔道はもっともっと盛り上がる可能性を秘めている

 今年の全日本が役者不足であるなら、今の柔道界も役者不足といえる。少し顔をあげて世界をみれば多くの優秀な人材が柔道関係者にはいる。その人たちを生かす柔道界の度量の大きさがほしい