山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

皇后杯 全日本女子柔道選手権

2009-04-20 08:18:54 | Weblog
 昨日は、横浜文化体育館にて皇后杯全日本女子柔道選手権大会が行われた。結果は塚田真希選手の優勝(8連覇)となった

 体重無差別、講道館試合審判規定で行われるこの大会は、29日に行われる男子の全日本選手権大会と並んで権威のある大会である。しかし、男子のそれに比べると観客も少なく、地味な印象を受ける

 女子の大会は体重別選手権から始まって、無差別のこの大会が後付けであったこと、男子のように瞬発力のない女子の場合は、体重が優位に働き、小さいものが大きいものを倒す醍醐味がみられにくいなどの理由から一般的な関心が低いといえる

 しかしながら、もう少し何らかの工夫をして大会を盛り上げることは可能なのではないかと思う

 例えば、昨年の嘉納杯では観客へサービスの一環としてメダリストが握手会を実施した。これは予定になかった事だが、広報委員のアイデアで急遽実施され、大好評であった。今大会も大会には参加しないメダリストや世界選手権の代表などが多く観戦していた。そういった選手を活用することは可能である

 また、テレビの関係で少しずつではあるものの、試合の合間に休憩時間があったので、そういった時間をうまく利用して何かできないものか?「形」の演武は行われたが、現在は形の世界選手権もあるのだから、どういった部分で評価されるかなどの説明があっても参考になる。「柔の形」などは静かな音楽とともに行うのもよい

 子供と親を集めるという事なら、前座試合なども面白い。小学生あるいは中学生の試合を行えば、その子供達、親は終わった後も当然観戦していく。また、全日本の選手と同じ畳で戦えたことは大きな思い出になるに違いない

 何かをすることは大変だとは思うが、お金や時間や準備が少なくてもアイデア次第でできることはあると思う。また、見に来てくれる人たちへのサービス精神を主催者側、つまり柔道が考えているかどうかである。自分たちでアイデアがなければ一般の人からアイデアを募ってもいい。来年は、女子の最高峰を決める大会にふさわしく、もっと盛り上がった大会になることを期待したい

 盛り上がりといえば、会場には選手達の所属企業の応援団がきて、そろって応援するという光景が見られる。リーダーがいるようでその人のリードで「いけいけ塚田、頑張れ頑張れ塚田」などと声を合わせて声援を送る。大会会場に駆けつけ、応援してくれることは大変ありがたいことだと思う。しかし、気になったのは、試合中、ずっと「いけいけ、頑張れ」と連呼されるのを聞いていると、柔道の応援としてはいかがなものなのだろうかと・・

 始まるときや合間に何度かなら良いが、ぞうでないと真剣に試合をみようという人には少し耳障りな部分もある。また、応援してくださる方にも、連呼しているよりもじっくり柔道を観戦してもらいたいとも思う。それぞれ考え方はあるだろうが、バレーボールなどにみられる「頑張れ日本」の大合唱も私はあまり好きではない

 柔道は国際化、競技化されたといっても武道である。研ぎすまされた空気の中で音というのは重要な要素である。しんと静まり返った中、選手の足さばきの音、息づかいが更なる緊張感を演出する。剣道は拍手のみの応援である。そこまでいかなくとも、柔道には柔道の応援スタイルがあってもいいのではと思った

 塚田選手は今大会、例年になく気合いが入っていた。先に行われた体重別の決勝で杉本選手に敗れたことが大きかったのだと思う。今大会も準決勝でこの対戦があったが、これが事実上の決勝戦だった。塚田選手が勝ったが、杉本選手もこれまで以上に向かっていく姿勢があり、好試合が展開された。長年、この階級を牽引し、塚田選手のライバルであった薪谷選手が昨年引退し、この階級は塚田選手の独走状態となっていた

 どんなに気持ちの強い選手であっても長年競技を続け、実績もあげてしまえばモチベーションは下がる。塚田選手は北京の銀メダルをリベンジするためにロンドンを目指すというなかで、国内にライバルがいることは更なる進化を遂げるための大きな条件である。そういった意味では杉本選手の存在は大きな意義がある

 男子に比べて女子が勢いがあるのは、各階級に2人ないし3人の実力者が揃っており、競い合っている構図がある。ライバルは敵ではあるが自分を高めてくれる存在でもある。一流の競技者は皆一様に負けず嫌いである。とくに女性は、表には出さなくても負けず嫌いの気持ちが強い

 29日に行われる今年の男子全日本選手権のチケットの売り上げが芳しくないという噂を聞いた。昨年の井上、鈴木、棟田、石井といったライバル対決があった昨年と比べると今年は見劣りがするということなのだろうオリンピックの翌年にはこういった事態がおこりやすいが、逆に言えばそういった時に新しいスターが出てくるチャンスでもある。最近勢いのない男子が、加速するためにも新たなヒーローの出現が待たれる。今年は勝てなくても、将来を感じさせる逸材がみられることを期待したい