山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

無理な減量より階級変更

2009-04-07 10:00:00 | Weblog
 先日行われた選抜体重別大会では、男子二人の選手が階級変更をして優勝した

 81kg級で優勝したのはアテネ五輪73kg級代表の高松選手、90kg級で2位となり、世界代表に選ばれたのは北京五輪81kg級代表の小野選手である。両選手とも長い間、減量に苦しみながらも階級変更の決断がなかなかできなかった。しかし、今大会を見る限り、その伸び伸びとした戦いぶりと出した結果において階級変更は成功だったといえる

 ボクシングほどひどくないが、平常の体重で戦うよりも少し減量して戦うほうが有利であると考える選手も多い。また、若い時期から慣れ親しんだ、結果を出してきた階級を離れるのは意外と勇気が必要のようだ。男女では発育発達の年齢に差があるので同じには語れないが、どちらにも言えることは、年齢が上がればトレーニング量も増え、筋力も増すために、たとえ身長に大きな変化がなくても体重は増していくのが普通である

 最近の全日本チームでは管理栄養士が日頃から栄養・減量についての指導を行っているので昔のような無茶な減量は行われていないと思う。しかし、北京五輪で90kg級代表の泉は減量の失敗で足がつってしまったという情けない話が伝えられた

 どんなに優秀なコーチや専門家が指導にあたっても、強くなったり、結果を残すためには自己管理と考える力、求める力が必要だ。全日本のチームでなくても熱心な選手達は自分で本などで勉強しながら本番で力を出せるように取り組んでいる

 私自身も10代の頃に減量した経験があるが、あまりに減量が厳しいと試合に出てもせっかくそれまで積み上げてきた練習の成果が出せないことが多い。体重を量ってから数時間あるので、少し口にして回復もするが、スレスレの勝負の時には、気持ちも切れてしまうことも多い。ゴールデンスコアまで戦うとなれば1試合約10分戦わなければならず、それが何試合も続くいたならば、過度の減量の後遺症は必ずでる

 何度かこういった辛い経験をして、やっと踏ん切りをつけて階級変更に踏み切る選手が多い。そして私が見てきた限り、多くの場合は今回の小野選手や高松選手のように成功している。52kg級で代表となった中村選手も48kgから上げた選手である。今回は準決勝で敗れた57kg級佐藤選手も52kg級から上げた選手だ

 変更後、良い成績を上げてもそれまでの実績ということで選ばれないことも少なくない。その度に回りは「もっと早く変更すればよかったのに」とため息が聞こえてくる

 階級の選択はもちろん本人の意思であるが、若い選手達には無理な減量をするのではなく、こういった成功例を参考にして十分食べて力一杯稽古して、本番でも精一杯戦える選手を目指してほしい。とくに若い頃は、大会で勝つこと以上に大切なことがある。稽古でも試合でも精一杯やってこそ身に付くものも多い。それが減量で妨げられるのはもったいないし、伸びる芽を自分自身で摘んでいるようなものだ

 減量は栄養不足や集中力の低下から怪我につながることも多い

 減量の厳しい選手達をみていると、減量するこそが目標になってしまって、試合前にホッとしてしまうこともなきにしもあらずである。昔に比べて試合数も非常に多くなっている。「階級別の競技で減量は当たり前」ではなく、自分にとってどの階級でやることが最も力を出せるのかを検討することが重要だ