山口 香の「柔道を考える」

柔道が直面している問題を考え、今後のビジョン、歩むべき道を模索する。

情熱だけでは難しい現実

2009-04-15 13:35:44 | Weblog
 前回紹介した「ひのまるキッズ柔道大会」は参加費一人2千円をとっておこなった。参加費を徴収するのは少年大会では珍しいらしく、様々な反応があったという大会後には参加者達は、「お金を払ってもきてよかった」と満足げに帰っていった

 柔道は長い間、指導を含めてボランティア的な感覚が定着している。日本におけるスポーツ全般そうである。確かに多くの子供達により多く親しんでもらおうという普及という面においては大事なことかもしれない

 しかし、今後の柔道の健全な普及・発展を長期的に考えた場合には考えていかなければならない問題が多くあるように思われる

 ⑴柔道の価値をあげる
 テニス、サッカーなどのスポーツはもちろん、ピアノや英会話、塾など様々なお稽古ごとに子供達は通っている。これは都会でも地方でも同様の現象であると思う。これらのものと同じだけ月謝を取る必要はないと思うが、あまりにも’安い’というのも問題だと思う大会の参加費も同じで運営を考えればタダはあり得ない。今時、どこに行って何をしてもお金がかかるのはあたりまえお金は一つの価値観を示す。提供する側が「私の技術を教えるには、これだけのお金をいただくに値する」という意思表示でもある。お金を取るとなれば、それだけのサービスや効果も期待されるので、教える側は常に努力を要求される。こちらは好意のつもりであっても、お金を取るだけの自信がないのかとの印象も与えかねない
 柔道を指導されている先生方は皆一様に熱心で、常に子供のことを考えて努力をされている現実があるそういった指導に対してある程度の金額を取ったとしても当然である。お金がすべての価値観を決める訳ではないが、一つの大きな指標となるのだから、柔道家は自分たちの価値を上げる努力をするべきである。また、「ボランティアだからこれ以上はできない」ではなく、「お金を払ってでも教えてもらった甲斐があった」と言ってもらえるように努力をするべきではないか
 
 ⑵情熱だけで続かない現実
 私が子供の頃に通った町道場の稽古は週6日、月謝は3千円だったと記憶している。ほとんどタダに近い値段である。今でもそうであろうが、こういったタダ同然で指導されている先生方が全国に大勢おられ、この方々の情熱が柔道の底辺を支えていることも事実である
 しかし、次の世代になった時にはどうだろうか?自分はよくても家族はどうだろうか?仕事であればともかく、毎日遅くまで指導、土日も試合でいない!となったら家族は納得してくれるだろうか?それもボランティアでお金にならないどころか、持ち出しの方が多いのが現実である自分の子供が柔道をやってくれればまだいいだろうが、そうとも限らず、奥様も旦那の夢を後押ししたい!という人ばかりではない
 私が行っているキッズじゅうどうもボランティアに近いが、手伝ってくれた講師には、帰りが遅くなっても「夕食を作らずに今夜は家族で外食」できるぐらいの謝礼をお渡ししたいと考えて頑張っている。そうすれば、家族に迷惑をかけても、ちょっと面目が保てる?のではないか
 情熱だけに頼ってのボランティア指導には限界がくる。次も世代の指導者にも翳りがでるにちがいない。「農業は苦労ばかりが多くて実りが少ないから後を継がせたくない」という状況が柔道にも起こりうる

 ⑶財源の捻出方法を考える
 お金を作るためにはいくつかの方法が考えられる。まずは大会などのスポンサーである。大きな大会であっても、この不況で新規に獲得するのは難しく、つきあいのあった企業でも「今回は」というところも少なくない。また、地方ではさらに難しいことが想像に難くない
 長く安定した財源を確保するのは、「低料金でも広く、継続して集金できる」システムを作り上げることだと思う。以前にサッカー協会の取り組みを紹介したが、彼らの年間予算は180億円を超える。スポンサー料が占める部分も多いが、システムとして集金能力もある。例えば審判制度と指導者資格制度である。
 サッカーの公式大会にはどのチームも公式審判員と指導者を帯同しなければならない。となれば、チームのだれか、多くの場合が父兄が審判資格をとる。半日の講習会を受ければとれるような簡単なものであり、一人ではその人が都合が悪い場合も想定されるので何人かが取らざるを得ない。そして、多くの場合は何年間かは更新して資格を保持する。指導者資格も同様であるが、最上級の資格はS級と呼ばれ、これはナショナルチームも指導できるものである。講習期間も長く、費用も何十万円とかかるにも関わらず、講習を受けるのは予約待ちの状態だという。ナショナルチームを指導するような資格が必要な人が何人いるだろうか?しかし、少年サッカーや学校で指導している先生方も最高の指導法を学びたいと列をなして待っているのが現状だ。審判資格、指導者資格でそれぞれ1億円以上を集めるそうだ。そういったお金を様々な形でサービスとして返している
 現役選手は難しいが、過去のメダリストが全国各地で講習会などを有料で行って基金にするという方法もあるだろう。「ひのまるキッズ」で元メダリストの先生方が旅費だけで協力してくれていた。地方がイニシアチブを取ることは困難だろうからやはり全柔連が組織としてやっていくしかない。もしくは、全柔連にそのマネジメント力がないのであれば、外部の団体に委託する方法もある


 柔道に必要なのは、そして欠けているものはブランド力だと思う。日本スポーツ界で柔道ほどオリンピックでメダルをとり続けてきている競技は他にない。東国原知事がでてから、急に宮崎産のものが注目され始めた。これは知事がそれらにブランド力をつけたからに他ならない。人はブランド品にはお金を払うスポーツの場合は、スター選手がこういった役目を果たすこともある。しかし、それだけでは一過性のものとなってしまう。

 世界的に見れば日本柔道は立派なブランドである。灯台下暗しで私たち日本の柔道家がその価値を認識していない

 話がそれてしまったが、情熱だけに頼ってボランティアで指導したり、大会を運営するには無理がある。すぐにとはいかなくても、サッカー協会など他の競技の取り組みなどを参考に柔道が、柔道に関わる人たちが恵まれた環境の中でその実力を発揮し、夢を追いかけられるようなシステムを作っていくべきであると考える