授業について行けていないと思われたくないのも理由のひとつで、なるべく発言するようにしている。
「あなたの国で有名な歴史上の人物は?」
誰も答えない。じゃああたしが。
「田中角栄です。彼は……」
「前に出て説明してちょうだい。」
「えっ」
クラスメイト20人、40の瞳があたしを見つめる。
「えっと、田中角栄は、………日中国交正常化に、えっと、正常化して……」
注目を浴びた途端しどろもどろ。
それに比べて韓国人は…。次の授業で意外な人物が発掘された。
「この写真は韓国南部の地域のもので、春には日本と同じように桜の花がきれいです…」
存在を忘れていたほど目立たなかった韓国人の男の子が、みんなの前で怖気づくことなく、はきはきと、相当きれいな発音で、なんとも流暢に喋っている。
自分の才能をひけらかさない美学が、韓国にあるのだろうか?くう~。
「あたしって結局、ガヤなんだよね。」
そう言うとゆっちゃんは、腹を抱えて笑った。言い得て妙、だったみたい。
今日から選択科目の書道が始まった。これなら勝てる…!
大人気ない野望を内に秘め臨んだけれど、うちのクラスから参加したのは、あたしとゆっちゃんと公務員だけだった。
まあ、上手でしょ。
授業が終わり、夕方この3人で東南門を出て、雲南過橋麺の店で一緒にご飯を食べた。
「こんにちは さよなら これいくら~」
米米の歌を公務員に教え込もうと試みた。
韓国人にかわいい敵対心を抱きながら、あたしたちは確実に彼らとの距離を縮めている。