時間が50%ゆっくり進む腕時計「APOLLO」。
価格は2000万円。
この腕時計は世界を変えた。
僕は現在18歳。
ざっくりあと60年生きるとして、APOLLOにより余命が90年となる。
体感30年も長く生きることができるのだ。
こんな素晴らしいもの、みんな欲しいに決まっている。
だが、ハードルとなるのは価格だ。
2000万円をポンと出せる人は多くない。
僕も親が金持ちだから買ってもらえたに過ぎないのだ。
ああ、親ガチャ当たり引いたなぁ。
当然だが、APOLLOは若い人にほど恩恵がある。
極論、0才児がAPOLLOを付ければその効果は最大となる。
100歳まで生きるとすると、なんと体感50年も得をするのだ。
これは、時間をお金で買えるようになった、と言っていい。
世の親たちは、こぞって子供にAPOLLOを買い与えた。
そしてそれは
「APOLLOを買い与える財力がない者は子供を持つ資格なし」
という風潮にまで発展した。
貧乏人は子供を産むな、と無言の圧力がかかる。
いや、これは倫理観のないネット上などでは普通に目に付く意見だ。
一般論と言って差し支えないだろう。
従来の子育て費用に加え、ひとり2000万円が必要となった。
社会的な格差はより大きくなるだろう。
APOLLOの有無で、生涯に稼げる額が大きく変わる。
時間はそれだけ有用なものなのだ。
「どんな人にも時間は平等」
という前提が崩れ去るのだから。
下級国民のみなさんには悪いが、僕は一抜けさせてもらったよ。
これから、順風満帆なエリート生活が待っている。
「APOLLOを寄越せ」
ガラの悪い下級国民がそう言ってくるのは想定内だった。
買えなければ奪えばいい。
APOLLO狩りだ。
だがそんな下賤の考えは最初から織り込み済み。
「悪いが、APOLLOには最先端の生体認証が組み込まれている。
仮に君が僕のAPOLLOを奪っても使えやしないよ」
僕は逃げ腰になりながら、そう言った。
「じゃあしょうがない」
下級国民はそれで諦める――わけもなく。
「てめえの左腕ごと頂いていくよ」