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和泉の日記。

気が向いたときに、ちょっとだけ。

あとがき。

2009-02-02 21:15:33 | いつもの日記。
あとがき――とはいえ、内容については余り語らないのが吉かな。
などと思う作品、「喪失」でした。

うーん、僕としては新鮮というか、今までに書いたことのない話という感じなんですが。
いつも通りじゃん、と言われればまぁいつも通りかもしれません。

イメージは、芥川龍之介の「羅生門」と阿部公房の「デンドロカカリヤ」みたいな感じ。
分かりますかね・・・いや、ちょっと分かりにくいか。
良いんです、その辺は別に。所詮、僕が最初に持ったイメージですからね。
むしろ、分からない方が成功じゃね?っていう。

そんな感じで、珍しく何ともはっきりしないあとがきでした。
語るべきことは作中で語れた、という満足感があるからかもしれません。
うん、僕的には、結構自信作なんです。
コメント (8)
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「喪失」

2009-02-02 20:54:42 | 小説。
我が子を亡くしたので、急ぎ役所へと向かった。
病がちな子ではあったが、あまりにも急なことであった。
桐の棺に入れた我が子の亡骸は、2歳児とはいえそれなりに重い。
しかし、私は役所への道のりを歩いた。
車で運ぶことは、誠意に欠ける気がした。苦労して背負うことでこそ、私の願いも叶うと思った。

死後1日未満ですね、と眼鏡をかけた職員が念を押すように確認したので、はいと答えた。
それでは、墓地畑ぼちばたけへ埋葬してくださいと言う。
墓地畑――若輩者である私は、聞いたことはあるものの実際に足を運んだことはなかった。
とはいえ、私の目的こそがその墓地畑なのである。期待通りの対応に、ほうと安堵の息を吐いた。
道が分かりませんと職員に告げると、案内人を付けてくれた。
私は、その案内人の車へ乗り込み、墓地畑へと向かった。
我が子に対し、少し申し訳ないと思ったが、背に腹は代えられないと思った。

そこは、広大な畑であった。
案内人は、2区10番ですと教えてくれた後、そそくさと帰っていった。
2区10番、というのが私の所有する畑らしい。

この墓地畑に死後1日未満の遺体を埋めると、やがて芽を出し蔓を伸ばし、いずれ実をつける。
その実は、埋めた遺体の生まれ変わりとなるのだ。

だからこそ私は急いだ。
我が子を失うことに、耐えられなかった。
この子は、私の愛を注いだ何物にも代え難い宝物なのだ。
私は、2区10番へと急ぐ。
途中、小さな小屋にレンタルシャベルが置かれていたので借りておいた。

指定の場所に到着する。
ひとり分の区画は2メートル四方程度で、分かりやすくレンガで区切られていた。
私は早速、シャベルで穴を掘る。
ざくざくと、朽ちた茶色の土を掘り返していく。
その時、前方から、けえ、、、と啼き声がした。
目の前には、全身を黒のスーツで覆い、シルクハットを被った男が立っていた。

――初めまして、俺は鴉です。

男は黒い嘴をカタカタと揺らしてそう言った。
私は無視して作業を続ける。
畑に鴉など、別段珍しいものでもない。
おや歓迎されていない。
鴉は皮肉っぽく言う。だが私は反応しない。
構わず、黒い男は続ける。

分かっているでしょう、俺の目的は、貴方の背負っているその棺だ。
鴉は、死肉を貪り生きている。
どうせその子は死んだのでしょう?
だったら、俺にその肉をくれないか。

何という、勝手な言い分だろう。
我が子のことに言及され、私はついに怒った。

汚らしい鴉よ。卑しい鴉よ。
私は私の子を、諦めていない。
埋められたこの子は芽を出し蔓を伸ばし、きっと生まれ変わるのだ。
ああ、そうだ。生まれ変わって再び私の子となるのだ。
だから、鴉よ。
死肉ならば他を当たるが良いだろうよ。

鴉は、私の言い分を聞き終わるとシルクハットを被り直して、けえ、、と啼いた。
その声は、嘲るような、嗤い声のような、甲高い音だった。
そして、背中から黒い羽を出すと、大きく羽ばたき飛び去って行った。
きっと他の死肉を漁りに行ったのであろう。

ふむ、これで良い。
これで私は、穴を掘ることに専念できるだろう。
再び朽ちた茶色の土をざくざくと掘っていく。

汗が流れる。
手に、顔に、汚い土が付着する。
だけど私は、手を止めない。

蚯蚓が、蜥蜴が蜘蛛が蠍が、うぞうぞと土の中から現れる。
そうか、ここは彼らの生活圏でもあるわけか。
だけど私は、手を止めない。

ああ、それにしても疲れた。
気が付けば、辺りは暗くなっており、穴は随分大きくなった。
そろそろ、少し休憩しようか。

そこで再び、鴉がやって来る。
ばさばさと羽ばたきながら、レンガへと舞い降り、けえ、、と啼く。
何をしに来たのだ、と今度は私から問うてみた。
疲れていたからかもしれない。
鴉は、お気は変わりませんか、と言う。

はて――この鴉は、一体何を言っている。
気が変わるとは、どういうことか。

いやいや、先ほどの話です。
その死肉を、俺にくれないだろうか。

嗚呼――。

否、否否。
お前などにやるわけにはいかない。
この子は、この子は、ここに埋めて。
きっと、きっと再生するのだ。

私は、頭を強く振りながらそう言った。
鴉は、やはりけえ、、と啼いて、すっかり暗くなった空へと消えていった。

――嗚呼。

胸の中が、空っぽになっていく。
目の前には、大きく大きく開いた穴があった。
もうこんなにも大きくなったのか。
私はひとつ、ため息を吐く。
この暗い穴の中に、私の全ては吸い取られていったのだ。
だから、こんなにも胸が空っぽなのだ。
だから、こんなにも寂寥感が強く私を支配しているのだ。

私は、何だかもう、色んなことがどうでも良くなってしまった。

緩慢な動作で、我が子を桐の棺ごと穴の中へと沈める。
そしてシャベルでぞんざいに土を被せ、穴を埋めた。
全て終わった後で、桐の棺のまま埋めたのでは芽が出せないことに気付いた。
しかし、それもまた仕方のないことなのだと思うことにした。

こうして私は、我が子を永遠に失ってしまった。
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